
テレビ8台、ビデオ6台。
地上デジタル放送への完全移行に伴い、7月24日をもって、我が家では粗大ゴミとなる。リサイクル費用が追い打ちをかける。
テレビのみならず、レコーダー、信号レベルにシビアなデジタルゆえ、アンテナ、パラボラ、ブースター・アンプ、分配器、同軸まで、現実には買い換えとなってしまう。工事費がそれに追い打ちをかける。
最も悲しいのは、自作のチビ・テレビが使用不能になること。
まだ液晶TFTモニターが極めて高価だった頃に、作る決心をするまでに2週間、製作に2日を掛けた小さな大作だ。
当時、新品TFT液晶は超高額のため、中古のパチンコ機から流用した。「CR黄門ちゃま」と「エキサイト・レディー」だった。
これとは別にカーナビ用も作ったが、黒がうまく出ず、狭い車内ゆえ手探りで感電しまくりながら、調整した思い出もある。
国全体で見れば、アナログ・テレビのみでも1億3千万台、購入当時の額にして、軽く数十兆円の国民財産が、地デジ移行に伴って消滅することになる。放送設備の更改も同様の額であろう。
リサイクル料金、廃棄物の環境負荷もはんぱではない。
予想はしていたが、回収されたテレビは、国外ではまだまだ十分使え高級品、東南アジアや発展途上国に大量に輸出されている。リサイクル料金と回収手数料もすでに徴収済みなので、まさに「一粒で三度おいしい」
エイヤッ!と適当な値で計算すると
○新規購入テレビ: 5~80万円
16万x1.3億台=20.8兆円
○レコーダー: 6~30万円
8万x8千万台=6.4兆円
○アンテナ類工事: 3万x3000万世帯=0.9兆円
○リサイクル料金
テレビ 収集運搬料 リサイクル料金 支払い合計金額
21型以下 3,150円 2,700~3,615円 5,850~8,865円
21型以上 5,250円 2,700~3,615円 8,100~9,090円
0.7万x1.3億台=0.9兆円
締めて29兆円。経済的には、大都市が絨毯爆撃によって、一夜にして壊滅したに匹敵するインパクトだと思う。
地デジ化を急いだ大きな理由の一つは、ある自動車メーカーが推進する、車と交通制御が一体となったIT化の実現。アナログ・テレビ放送用の周波数帯を使っている。すでに試作を終え、試験準備完了。邪魔なアナログ放送終了待ちの状態なのだ。そのメーカーは電波有効利用の審議会の有力メンバーでもある。
電波有効利用の審議会メンバーは、大衆が恩恵に浴している電波を、大衆に代わって自分たちが「さらに有効に利用してあげる」という企業・団体によって構成されている。
放送局側も補助金と、B-CASに伴う収入の旨味がある。公益法人B-CAS社の出資者と幹部は、国営・民間放送局、官僚、メーカーおよび、そのOB達で占められ、審査料、カード発行料は、テレビ、レコーダーの全数から得られる。B-CASに協賛しないメーカーは、暗号化された放送を解読できず、受信装置は一切作れない。海外や弱小メーカーの締め出しにも貢献する。「公益法人」は「利権法人」の同義語なのかもだ。
B-CAS社は正社員一名、役員九名の小世帯ながらも、すでに1.5億枚のカード発行数で、推定では動く金は兆に近く、まさに兆優良企業だ。ただし、いくら社員が優秀でも一名では無理なので、実作業はメーカーに全て丸投げし、指導・監督・放置する立場に徹している。無料放送にもコピー・ガードを掛けているのは日本のみで、受信機器の複雑化・高級化に、拍車をかける。
日本独自のコピー制限は、ダビングしても劣化しないデジタル録画のメリットを半減させているのは残念だ。ダビング中にエラーが発生すると、コピー元も消してくれる凄まじい仕様に、私も随分と泣かされた。
そもそも権利を独占する法人のカードを挿さない限り、全ての機器は動作しないというのは、限りなくとんでもない暴挙で、「日本の常識は世界の非常識」の典型だと思う。
このB-CAS社は秘密主義を貫き通してはいるが、世間からそろそろ注目を浴びだし、何かと外野が五月蠅くなりそうなので、B-CASカードの廃止と、発展的解消のタイミングを検討中である。財務内容、所在地、役員、人員等は非公開、実体の有無すら不明なので、清算は一瞬だろう。膨大な個人情報の行方も気になる。
一方、家電メーカー、通信機器メーカーは、この地デジ化を当然ながら大歓迎。未曾有の特需で、顧客の購入期限も確定している。朝鮮戦争勃発以上の神風であろう。
購買ターゲットは全ての階層を網羅し、生活が苦しかろうが、待ったなし。可処分所得が十分でない人々にとっても、随一の娯楽と情報取得メディアは外せない。
私はどうもエコポイントや補助金制度は好みに合わない。きれいな謳い文句の建前の裏側には、密かに笑いを堪えた連中の姿が見え隠れする。利権が渦巻き、低所得者から高所得者への所得移転を促進する。
買いたくても買えない人は、恩恵に浴せず、将来にわたって税負担のみが残る。実質財界への補助金でもあると思う。
その点、アメリカではデジタル化にあたって、フェア・プレイの精神がまだ生きている。コンバーターのクーポン券が全世帯に無償交付される。希望すれば二枚まで貰え、一枚の額面は40ドル。コンバターの価格は50ドルからあり、アナログに変換できる。
つまり、テレビ一台あたり10ドルの負担で、手持ちのテレビでデジタル放送を受信できる。2台でも20ドル=1,600円の負担ですむ。
「新しいテレビはお金ができて、値段がこなれた頃に買う」という選択肢が、ちゃんと用意されている。日本ではコンバーターは、BーCAS絡みで、メーカーも限られ、小型テレビに近い、馬鹿げた価格設定となっている。
ちなみにヨーロッパでは、設備更改費用が少ない衛星で、デジタル放送をするのが主流だ。またアナログ変換したケーブル・テレビのサービスも多い。
次は日本製テレビの、海外での販売状況について。
写真の2台は、いずれも発売開始直後の最新モデル。場所は太平洋に浮かぶ常夏の島の量販店。
あこがれの70インチ・モデルで2,900ドル。物価が1/2の米本土では同じのが2,200ドルで買える。邦貨換算で約17万円。
日本では、同時期に発表した同等のモデルは、実売価格が80万円。これを元に通貨交換レートを計算すると、
80万円 / 2,200ドル = 363円/ドル
あえて暴論覚悟で言えば、つまり日本メーカーのドル円交換レートは、実は363円/ドルなのだ。これは戦後長く続いた、「シャープ勧告」に基づく固定レート「360円」と奇しくも一致する。
全く無作為に選んだサンプルだが、我ながら驚いた。なお「シャープ勧告」と言っても、特定企業を対象としたものではない。
これも暴論覚悟だが、メーカー社内においては円高は嘘っぱち、すでに「超円安」なのだ。業界、マスコミ挙げて、さらに下げろということは、700~1,000円ぐらいを目指しているのだろうか?
テレビだけを例にとっても、日米における内外価格差は、モデル末期の叩き売り商品で2倍、最新型の人気モデルで5倍が相場のようだ。もっと言えば、アメリカでは40~50インチ以上の大型モデルを買えば、おまけで32インチとかが無料で付いてくることも、極めて多い。
逆に、もし日本の販売価格が適正とした場合、80万円のテレビはアメリカでは1万ドルで売らなければならない。2,200ドルで苦戦するものが1万ドルでは絶対に売れない。つまり日本製テレビは、大幅に円安にしようが、すでに輸出商品としては全くビジネスにならないとも言える。銀座の高級寿司店でカッパ巻きと新香巻きの二品のみで、勝負するようなものである。
長文になって恐縮だが、それ以上に、どうしても私には理解できないことがある。
この神風に近いチャンスのお祭り騒ぎに、各メーカーはこぞって莫大な費用を投じて、大規模工場の新設や増設を行っている。
どう考えても投資の回収に、10年、いや20年やそこらは掛かる筈だ。
それに反し、一昨年から始まったこの、買い換え特需は、せいぜい2年、2011年秋には終焉を迎えるだろう。
消費低迷のみならず、就業人口の過半を占める、食住すらおぼつかないメーカー自らが生み出した臨時雇用者の方々。購買力が圧倒的に低下しているのだ。デジタル化を機に諦める人も多いと思う。そして全体的なテレビ離れ。番組自体も同じようなのばかりだ。
「雛壇」に並んだ、知名度はあるが低ギャラの芸人の集合。
立ち上がって大声を張り上げれてさえいれば、「はい。お疲れ様でした」と収まる。同じ事務所の看板芸人と抱き合わせ販売で、露出の機会を得ている。
それに、芸は売っても良いが、プライベートは売る必要はない。局のスタッフ共々、近場の飲み屋で、勝手に盛り上がっていればいい内容で、楽屋ネタは放送不要だと思う。「オネェ」キャラの氾濫も食傷ぎみだ。
ニュースですら、モザイク、効果音、「この後すぐ」「驚きの結末が!」の連発。さんざん引っ張られた後、何もなしとか「次週」で放置されると、手にしたリモコンを画面に投げつけたくなる。
涙して見ていれば「青汁」や「ゴマ」「ニンニク」「蟹の甲羅ゴミ」に帰結で、騙される。
ネット動画からの拾いもの番組なら、視聴者は好きなものをパソコンで見る。余計なコメンテーターは不要だ。
極めつけは、お涙頂戴感動番組。コンビ芸人の一人を、逆さにして水に浸けて、相方の秘密を自白させるというのがあった。昔からある拷問そのもの。「コンビの絆の堅さを確かめる」企画だそうで、番組名は「24時間テレビ 愛は地球を救う」だった。どうやらテレビ局専用の辞書があるようだ。
民放の想定視聴者像は「50代前後の無趣味で高等教育を受けていない主婦」だそうだ。「大衆はこういうのを喜ぶのですよ」と愚弄し、自分達は例外だと思っている。
・・・等々、つい日頃の愚痴を並べた。
以前この家電メーカーと、仕事で関わったことがある。「もう手作業では限界なので、至急システムを構築してくれ」との依頼で、プロトタイプを作り、デモ兼契約交渉に出向いた。プロトと言っても十分実用になるレベルに仕上げていた。
会議の席に、重役がいた。重役が出てくるほどの規模と額ではないので、不思議さと違和感を憶えた。
デモと仕様の詰めが終わると、それまで無言だった役員が檄を飛ばした。
「馬鹿野郎」「勿体ない」「本当にどうしても必要なのか?」「無しでは無理なのか?」「俺を納得させてみろ」・・・だった。
当然ながら、現場の人間は、びびって反論は皆無で全員無言。
そして
「我が社では150万以上の出費が絡む会議には、役員が全て出席している」
「経費削減に絶大な効果を発揮している」
と私に向かって話された。
私は笑顔で、
「あぁー。それは素晴らしいですね。いい勉強をさせて戴きました。お忙しい中、貴重なお時間を割いて戴き、ありがとうございました」
と応えた。
「そのウロチョロする超高給取りを、切った方がずっと・・・」
と言う勇気はなかった。かくしてプロジェクトは没となった。
恐らくトップの周辺はイエス・マンで固められ、意見する者は皆無。トップに届く情報は、良い情報に限られ、最も必要とされる現場の悪い情報は皆無だろうと思った。
このように少額投資には極めて慎重な一方で、この企業は私のオツムではとうてい理解できない新設工場の巨額投資を連発している。おそらく少額投資の稟議に忙しく、巨額のまではアセスする暇がなかったのであろう。また、社長交代の度に記念碑的に新設するという説もある。巨大モニュメントは「あれは、ワシが作ったんじゃ」と大事業を成し遂げた満足感をもたらし、自らの偉大さをも実感させてくれる。
これらは両刃の剣でもあり、皮肉にも自らの墓標であるピラミッドにもなり得る。
真珠湾と珊瑚海海戦を終えて、勲章授与と昇進の手続きに忙殺されて、海戦史上未曾有の大規模であるミッドウェー作戦は、検証することもなく実行された構図を思い出した。
また「弾が勿体ない」との理由で、自動小銃の開発を排斥し、現場には安価で旧式な明治時代の単発銃「三八式歩兵銃」を与え、旗艦には時代錯誤の巨艦「大和型」を四隻も建造した、旧帝国陸海軍の姿とも重なる。三号艦「信濃」は米潜に仕留められ、出航後17時間の寿命だった。
この企業では、液晶パネル・テレビだけを例にとっても、2004年稼働の新鋭工場に1千億を皮切りに、ほぼ2~3年おきに数千億の投資をしている。2009年稼働のまで合わせると1兆円超えの設備投資となる。さらに中国には4,500億円規模のG10(第10世代)の工場を建設し、2013年に稼働開始予定だ。実にテレビ関連のみでも1.5兆規模の投資を10年以内の期間にする。
日本各社の収益構造は、海外では市場価格で提供し、その穴埋めに国内は2~5倍の価格で、やっと利益を得るしくみになっている。特筆すべきは特需と補助金と内外価格差ありきの収益構造なのだ。もっと言えば、工場誘致の巨額補助金と事業税免除・固定資産税免除、という特典も支えになっている。
1941年に開戦を決定した瞬間に破局が確定した大日本帝国同様に、この事業プランを実行した瞬間に結果が確定したように思う。
お祭り騒ぎで回っている間は良い。だが活断層やプレート境界同様に、溜まった歪みの巨大エネルギーは、いつか必ず解放される時が来る。そういう時は、今までは順調に回っていた全ての歯車が、超高速で逆回転を始める。
2011年秋の特需の終焉が契機となるだろう。
日本人の懐を無視した価格設定も、その後の持続的な需要維持を妨げる。海外売り上げは助けにはならない。
この企業の特徴はイケイケ・ドンドンで急速に膨れあがった、一兆円を超す有利子負債で、それも短期借入の多さだ。
私の独断と偏見に満ちた憶測を記せば、
国内売り上げ激減->営業利益大幅赤字->株価暴落・キャッシュ不足
キャッシュ不足->株価暴落
株価暴落->増資・事業提携不能
->CB激落・利率暴騰->現金返済->キャッシュ不足
->新規CB利率暴騰 ー>発行断念
->CDS急上昇 ->株価下落
CP返済 ->キャッシュ不足 ->新規CP金利上昇 ->発行断念
無担保銀行借入返済 ->有担保再借入・金利上昇->株価下落
突っ込み所満載で図式にうまく表せなかったが、上記のサイクルが月、いや週単位で繰り返され、その回転周期も加速度的に短くなる。
国内売り上げ激減に伴い営業利益が赤字となる。
先ずは株価が暴落し、増資や他社との提携、合併等が不可能になる。
CB(転換社債)の償還は「株ではなく現金でくれ」になり、キャッシュが必要となる。
CP(短期社債・割引手形)の償還にキャッシュが必要だが、借り換え用の新規発行CPは超高金利かつ消化困難になり、実質発行不能となる。
これらが全てキャッシュ不足と株価暴落につながり、そして再循環する。
かつては大企業の信用を背景に、銀行は無担保低利子で、短期融資をしてきたが、新たな融資や借り換えは担保あり高利子となる。支援を条件に、売却価値があり、市場流通性がある資産は早い者勝ちで、銀行が根抵当権を設定する。具体的には土地、家屋、工場、最新型製造設備、他社株などだ。金目のものは全て銀行が予め押さえる。清算価値を失った企業の株は紙くず同然となる。
無担保融資の引き上げ、担保差し出し、有担保融資への転換を積極的に迫られ、結果的に銀行側は不良債権額を減らし、安全圏への逃避を促進する。
無担保融資の返済が進み、追加融資額が根抵当権の限度額に達した時、銀行は「もう限界」と。支援の修了と担保の保全を宣言する。
CDS(Credit Default Swap: 倒産したらお金を貰える金券)の保証料率(売り出し額・人気度)が大幅に上昇し、破綻必至企業として海外ファンドに目を付けられ、博打の対象になる。巨額が動くそこにはビジネス・チャンスが生まれ、今までは関わりのなかったハンター達が世界中からやって来る。これとセットに彼らの空売り資金調達が始まる。
・・・等々の悪循環に見舞われる。タイミングは利益下方修正した時を契機に始まり、粛々と進行する。その後はほぼ毎月千億単位でキャッシュが不足するだろう。CBやCPはサラ金かそれ以上の金利となる。これらの悪循環は加速度を増し、海外ファンドが「詰み確定」と判断した時に、猛烈な株の売り浴びせと共に、連日ストップ安を更新しながら終焉を迎える。
収益構造に無理があり、短期借入が尋常ではない額であるため、始まったらあっという間だろう。月単位の期間かも知れない。「まさかあれだけの大企業が」というあっけなさだろう。
残された新鋭工場にはペンペン草が生え、周辺地域はゴースト・タウンと化し、やがて中国、台湾、韓国の企業の手に渡る。同業の弱電他社とて、大同小異かも知れない。波及効果の大きさと、連鎖反応の確率は想像以上かも知れない。
2007年にかけて、家電各社は史上最高益を更新して来た。それまで横並びで控えていた大手企業の役員報酬は、これも横並びで1桁に近いアップを果たした。翻って従業員給与は漸減させた。臨時雇用を増やしコストダウンを果たした。短期的な利益向上には貢献したが、これをすべての企業が「従業員・従事者=消費者」でもあることを忘れ、横並びで一斉にやると、全体の購買力が低下するのは自明の理だと思う。
日本独自の歪んだ施策、仕様、価格設定に「わぁ~きれい。おおき~い」と、素直に喜び買ってくれる日本人は、まさに「お客様は神様」。「神様」の慈悲で、元々は成り立たない事業が、これまで延命して来たのではないかと思う。
解決法としては、C-CAS, D-CAS, E-CAS・・・と2年おきに独自規格を打ち出し、特需を喚起する暴挙ぐらいしか思いつかない。
「神様」がその歪みを支えきれなくなった時、当然の帰結に落ち着く。
超長文で大変失礼しました