流れ流れて その1
流れ流れて その6 D-Day
流れ流れて その8 勝率 0% (1/4)
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流れ流れて その7 スペシャリティー・カー 1/4
流れ流れて その7 スペシャリティー・カー 2/4
冷静になって,もう一度考えてみる。
「もしかしたら不用意に開くのを防ぐため,長押しかも・・・」
「他のボタンと同時押し」
色々試すが,全てハズレ。
「レンタカーだから、客が嬉しそうにパカパカ開閉して壊されるのを阻止すべく,ヒューズでも抜いて機能を殺しているのかも?」
車内のヒューズ・ボックスやコネクターをチェックする。
エンジン・ルームとトランク・ルームの配線やカプラーも確認する。
万策尽き,ついにギブアップ。悔しい。
深夜ホテル前でディーゼルをガラガラ回すのも気が引ける。
その夜は悶々として、「困った時のネット」とばかりに検索するが、やはり予想に違わず宣伝の謳い文句や提灯記事のヒットばかり。
「スイッチ一つでオープンに変身」
「洗練されたエレガントな大人のクーペ」
「操縦性能も911を凌ぐ面白さ」
・・・・・ばっかし。
下衆な私は,宿泊ツアーの豪勢さと,御足代の封筒のぶ厚さを,つい勘ぐってしまう。
諦めかけた頃,笹目氏の記述に、ついに解答を発見した。
「ブレーキを踏んでいないと開閉できない」
さすが元CG(カーグラフィック誌)の第一世代。
・・・で翌朝、目覚めと共に喜び勇んで部屋を飛び出し,やっと「ご開帳」と相成った。
ツンとすまして,
「ふんっ。何よ獣」
と蔑んでくれる○×△同様,山が険しく高いほど,「ご開帳」の感激は大きい。
朝食を済まし,「なっ,なっ,凄いやろ」と,相棒に自慢しながら,オープンにする。昔のCRX程ではないが,3分割されて凝縮された屋根が,複雑なリンケージを介して,トランクに収まる様は,何度見ても嬉しい。新しいおもちゃを,近所のガキ共に見せびらかした頃と同じ目をしている。
余談だが,嘗ての「CRXデルソル」の屋根の収納には,別の意味で感心した覚えがある。ロボット制御された工場の生産ラインのような動きで,真面目な人が取り組めば,「単純なことでも,ここまで複雑にできる」と驚嘆した。
ギラギラと照りつけるクソ熱い日差しを全身に受けながら,「いざ出陣」と走り出したとたん、大きな警告音の嵐。表示メッセージは仏語で何と,
「ドアとかの開閉部が開いている。すぐに止まれ」
という,オープン・カーにあるまじきもの。
「何じゃこの車。オドレが自分で開きくさったのに,そう来るか!」
「この鬱陶しい音を聞きながら走れっちうんか!」
「それとも何か。ショールームやオープン・カフェの前で停めて,キザったらしく開いて見せびらかすためだけの飾りか!」
「潮風を感じながら」なんぞと言った,優雅どころの騒ぎではない。
一旦はこのまま意地で
「ワイは負けへんで!」
とばかりに走ってはみたものの,3分間が限度だった。可愛さ余って憎さ百倍,余りのうるささに血圧が限界値に達した。
やむなく人家の途切れた道端に停車し,色々なパターンをあれこれ試してみる。そして見出した手順は,
-ドア,窓を全て閉じてから屋根を開き,その後窓を開ける。
そうすると警告は出ない。窓を少し下ろした状態で,屋根を開けたのが警報の原因だった。それの何処が気に入らないのかは,全く理解できない。熱気が籠った車に乗り込んで,まず最初にすることは,窓を開けることだと思うが・・・
オープンになってからは,ぐんとこの車の評価は上がった。重心が下がった分,コーナリングも軽快になり,ユッサユッサとした揺れも少なくなる。
夕暮れの中,涼しい夜風に吹かれながら,草原の中を水平線まで一直線に延びた田舎道を流すのは,やはり爽快だ。
見上げればそこにある月が,さらに風流さに彩りを加える。
サンルーフではこうまでいかない。
レンタカー屋のニーチャンが「スペシャル」と言ったのにも頷ける。
かくして数日の借用期間を過ごし,空港へと戻った。そして駐車場の小屋で,返却手続きを済ませる。貸し出し時にすでにカードで支払い済みで,キー,書類,携帯ナビの返却だけである。
予定日数通りなので,差額も不要な筈だ。ちなみに営業時間外の場合には,返却ポストにこれらを放り込むだけだ。
オネータンがパチパチとキーボードを叩く。
「綺麗やなぁ~~」金髪ロング・ヘアーでモデル並の容姿に見とれる。「スラブか北欧系が混じっているな・・・」終わり良ければ全て良し。
オネータンが書類を印刷しながら,こちらを向いた。
「えっ?」
一瞬わが耳を疑った。
事前説明に沿った前払い金額とは,まるでかけ離れた総額を告げられた。ゼロが1個増えている。
何とこの車には従量制の,私にとっては馬鹿高い距離料金が仕組まれていたのであった。
このところ借りた車は,全て距離制限なしだったゆえ,つい油断して距離料金の存在すら失念していた。契約条件をしつこく確認しなかったのは私の落ち度。文句は言えない。
距離料金のレートは,何とタクシー並。総額は日欧間を空路往復してもお釣りが来る金額。
貸し出し時のニーチャンの言葉「借りる奴は,まずいない」にも納得。ここの営業所の隠し球,埃を被りながら出撃のチャンスを密かに窺う,最終秘密兵器だったようだ。完敗した。「イー仕事してますね」である。
意図せずであろうが,貸出カウンターにはお調子者のニーチャン,そこから遠く離れた返却カウンターには金髪のモデル並みの容姿のオネータン。絶妙なコンビネーションだ。これなら文句を言うスケベ爺もさぞかし少なかろう。
「まっ,時間と思い出は後では買えないから,オネータンの美貌に免じて,これで善としよう」と自分に言い聞かせながら,次の目的地目指して,ガラガラとスーツ・ケースを引きずりながら,心で泣いた。
もし,これがお馬さんのマークがついた赤い車だったなら,文句なく納得できたのだが・・・
「スペシャル」恐ろし。
蛇足:
写真の時計の針は午後。明るいにも拘わらず,翌朝に備えて町は寝静まっている。浮かれてはしゃいでいるのは,知能程度が小学校三年生の極東のオッサンだけ。
・・・つづく
Posted at 2010/06/29 21:13:39 | |
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