新生アルピーヌA110開発エンジニアが来日 語る、誕生までの裏話 前編
もくじ
ー 新時代のA110 レシピができるまで
ー 新生アルピーヌにジョインした経緯
ー ボディ、なぜFRPではなくアルミ?
新時代のA110 レシピができるまで
復活もしくはデビューから瞬く間に、日本市場でもフランスならではのスポーツカーとして高い評価をうけているアルピーヌA110。
つい先頃、開発当初のチーフエンジニアを務めながらも、ルノー・スポールへしばらく戻っていたジャン=パスカル・ドースが、昨年より再び同職に返り咲いた。
来日した彼に、インタビューする機会に恵まれた。そもそも彼自身が1971年式A110 1300を長年所有するエンスージァストで、ルノー社内でもアルピーヌ・ファナティックとして知られた存在だった。
「自分の中では、アルピーヌに仕事として取り組んだのは新型A110が2度目だと捉えています。1度目はA110/50ですね。メガーヌR.S.トロフィーをベースに2012年モナコGPで発表したプロトタイプです」
「当時はカルロス・タヴァレス(現PSAグループ会長)がルノーに在籍していて、わたしはプログラム・ディレクターでマネージャーの立場から関わったので、予算には注意を払いましたよ(笑)」
「スタイリングについてはとくに手を加えることはせず、前後車軸のマス配分とシート、ホイールの軽さにこだわりました」
新生アルピーヌにジョインした経緯
アルピーヌのいちファンとしてA110/50で十分に満足していたそうだが、モナコGPの数週間後、再びドースはタヴァレスから電話で呼び出される。
「アルピーヌを再び立ち上げるからエンジニアとプロジェクト、双方のディレクターをやって欲しいといわれたんです。まさか本当にそんな話が実現するとは」
「兼職がキツいのもプレッシャーが凄いのもわかっていましたし、ほんの一瞬だけ迷いましたが、こんなチャンスは二度とないし、その場で引き受けたのです」
2014年まで、彼は新しいA110の車体アーキテクチャやスタイリング、ドライブトレインやサスペンションの基本設計を決定した後、ルノー・スポールのコンペティション・ディレクターとなる。
後任としてA110のプロダクト化フェイズを担ったのは、デヴィッド・トゥイグだった。
「戻って来る以前から、デヴィッドがわたしがフィックスした方向性に忠実に仕上げてくれたことはわかっていましたよ」
「コンパクトとマスの最小化を図ることで、途方もないパワーでなくても俊敏性、アジリティを得ること。RRでなくMRレイアウトとしたのは、アルピーヌがもし進化を続けていたら当然そうなっていたであろう、自明の理でした」
ボディ、なぜFRPではなくアルミ?
「またボディにアルミニウムを採用したのも、軽量化のためだけでなく、オリジナルのFRPより見た目の質感の向上を狙ってのことです」
「Aアームのダブルウィッシュボーンはスポーツカーとして譲れないところですが、当初はスチール製も試しましたものの、結局はアルミニウム製にすることに決めました」
「もっとも旧アルピーヌA110と異なるのは内装、とくにダッシュボード周りやエルゴノミーでしょうね。当時のアルピーヌA110のダッシュボードは本当に板一枚ですし、わたし自身が身長190cmほどあるのですが、日常的に楽に乗り降りできるスポーツカーであること、これはアルピーヌとして必須条件だと考えています」
スーパーカーやハイパーカーのように、日常的には多かれ少なかれの不便を強いるところなく、日々の使用でドライバーに我慢を強いるところのないライトウエイト・スポーツカーであること、そこにアルピーヌとしての妙味があると、旧アルピーヌのオーナーでもあるドースが考えている点は興味深い。
ところでスポーツカー好きの中には原理主義でさえある、マニュアル・トランスミッションを採用したであろう可能性はなかったのだろうか?
(後編につづく)
新生アルピーヌA110開発エンジニアが来日 語る、誕生までの裏話 後編
もくじ
ー A110、マニュアルを不採用のワケ
ー 成功の理由 ケイマン/エリーゼとともに
ー 今後はA110派生モデルが出る?
A110、マニュアルを不採用のワケ
アルピーヌA110のマニュアル・トランスミッションの採用について、ルノー・スポールのコンペティション・ディレクターのジャン=パスカル・ドースは、次のように語る。
「もちろん可能性として研究はしました。DCTによる2ペダルとMTによる3ペダルという、2種類のトランスミッションをポルシェ911 GT3のように用意するということですね」
「そもそも当初、ジョイント・ベンチャーのパートナーでコンポーネント共有をする予定だったケーターハムは、MTとレバー式のハンドブレーキが欲しいということでした。ケーターハムとは2年間ほど開発を共にしましたが、後輪駆動と足回りでスポーツ性を出す方向性は共有しつつも、そこに至るソリューションや考え方は相互補完の関係で、色々な示唆が得られた幸せな時間でした」
「今日、アジアとアメリカでは2ペダルATが主流ですし、逆にいえば3ペダルMTは欧州的過ぎる。つまり輸出するクルマとしては2ペダルの方が向いていることは確かです。だから2ペダルを採るならば、やる以上は最高のDCTにしなくてはならない、これは必須要件でした」
「ハンドブレーキについても、今やレバー式を採用する方がサポートやワイヤーといったパーツが必要で物理的には重くなります」
「トランスミッションについては、ドライビング・プレジャーの観点で3ペダルと2ペダルを比べても、今や2ペダルDCTがプレジャーを減らす方向ではないこともテスト走行を重ねて判明しました」
「この点に関しては、わたしたちの開発チームとサプライヤであるゲトラグの努力による部分が大きいですね」
それにしても、デビュー年に世界中であらゆる賞を獲得し、瞬くまにスポーツカーとしての高い評価を勝ち得た理由を、ドースはどう考えているのだろう?
成功の理由 ケイマン/エリーゼとともに
「成功の理由は2点あると思います。まずスタイリングと重量配分、このふたつがとてもバランスがとれていること。結果的にハンドリングもよくなるというか、ステアリングを切った時の濃密さ、ドライビング・プレジャーが表れているところだと思うのです」
「ふたつ目は、スポーツカーでも攻撃的ではなく、見たひとが頷いてくれるような共感力の高いデザインに仕上がっていること。軽さとコンパクトさ、ゴリアテという巨人に立ち向かうダヴィッド然としたところ」
「そうした価値観がデザイン・トランスレーションとして巧く表現されたと思います。軽量でコントローラブル、素直でリニアな操縦性をもつスポーツカー、という意味では直接の競合車種はいないと考えています」
「価格帯や寸法でいえばロータス・エリーゼやポルシェ・ケイマン、アルファ・ロメオ4Cがあることはわかっていましたから、競合モデルの研究もしました」
「わたしたちの見立てでは、エリーゼはスパルタン志向で、ケイマンはラグジュアリー要素が強く、4Cは走らせるのは楽しくてもロードカーとしては厳しい、と映りました」
「この分析が、わたしたちアルピーヌが進むべき方向性、占めるべきポジショニングを明確にしましたね。ドライビング・プレジャー重視のスポーツカーとして、逆に価格帯違いで、よくブガッティやマクラーレンと比較されることでもわかる通り、唯一の存在になれたと思います」
今後はA110派生モデルが出る?
このインタビューと前後して、ハイパフォーマンス版となるA110Sが発表された。
すでにアルピーヌ・カーズ自体がA110の新たなる派生モデルを徐々に加えていくことはアナウンスしていたものの、どのようなバージョンを考えているのか。
そして腐食や錆に強いアルミニウムボディやパーツを多用しているのは、将来的にヒストリックカーになった時にも、価値を持続させるための選択だったのだろうか?
「何とお答えしたらよいものか。わたしたちはポルシェをリスペクトしているからこそ、911でいうカレラ、カレラSにGTSといったラインナップのロジックを真似ることはしません」
「派生モデルについては『A110のライフサイクルの中で顧客が本当に求めるものを考え、対応していく』という風にしかいえないですね(笑)」
「顧客はつねに異なるモデルを求めるものですし、旧アルピーヌの時代にも1967年に、翌年のグルノーブル冬季五輪を記念したオリンピック・バージョンがありました(注:A610の1992年アルベールヴィル五輪版も存在した)」
「ただ、はっきりしていることは、ありとあらゆる派生モデルを作る訳ではありません」
「『ヒストリックカーになった時のためにアルミニウムを採用したか?』という点については、コンストラクターとしてはノーです」
「数々のフェラーリやコルベット、フォードTもそうですが、クルマそのものが年数を経ても所有したい/乗りたいと思われる1台であるかどうか、それは造り手が計算してすべてコントロールできることではないのです」
「そこにはやはり、わたし自身のリファレンスというか基準ですが、一種のマジックな側面が必要だと思っていますから」
慎み深いドースのコメントだけに深読みになるが、新しいA110には彼のマジックが込められている。そう考える方が妥当だし、ステアリングを握ってそのマジックにかかってしまったならば、新しいA110は代わりの効かない1台となる。
ルノーとしてはルノースポールもある訳だから、アルピーヌにどこまで比重を置けるかによって仕上りが変わるでしょう
今回コルベットの新型が発表されて車体価格を言われてしまうのはアレだけど、確かに700万円クラスのスポーツカーって幅広いんだよな~色んなメーカーが出しているだけに(とは言え日本正規導入価格は1000万クラスになるのかな?コルベットのC8は)
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自動車業界あれこれ | 日記
Posted at
2019/07/28 19:39:22