2020年12月10日
ポルシェ、合成燃料への取り組みを加速。伝統の水平対向エンジンを未来に繋げる「eフューエル」
チリの豊かな自然が次世代燃料をつくる
ポルシェは総合テクノロジー企業のシーメンスと共同し、次世代燃料「eフューエル」の開発に乗り出した。チリに大々的なプラントを建設し、カーボンニュートラルを実現する合成代替燃料の生産を行っていく。チリのエネルギー製造企業「Andes Mining & Energy」やチリの国営石油会社「ENAP」、イタリアの大手電力会社「Enel」なども参画する大々的なプロジェクトとなる。
ポルシェとシーメンス、関連企業でスタートする次世代燃料のプロジェクト名は「Haru Oni」。風力発電に適したチリ南部マガジャネス州で、温室効果ガス排出量の実質ゼロを目指しながら、内燃機関に使用するための燃料を大々的に生産する。本プロジェクトの実行にあたり、ドイツの連邦経済エネルギー省から約800万ユーロ(約10億円)の助成金を獲得している。
2026年には5億リットル超を生産
次世代合成燃料の「eフューエル」に用いるのはグリーン水素。水素エネルギー自体を生み出すのは、シーメンスの再生可能エネルギー製造会社「シーメンス・ガメサ」の風力タービンだ。風力で稼働する電解槽を使って水を酸素と水素に分離し、二酸化炭素と組み合わせることで合成メタノールを作り出す。それを、エクソンモービルが開発したMTG(Methanol-to-Gasoline)法を用いて合成燃料を作り出すというのが一連のプロセスだ。
まずは試験フェーズとして2022年初頭までに13万リットルを生産し、段階的にボリュームを拡大。2024年までに5500万リットル、2026年にはおよそ5億5000万リットルの生産量を確保する計画である。
サーキットから量産車まで
この「eフューエル」の第一使用者として真っ先に手を上げたのがポルシェだ。まずはポルシェエクスペリエンスセンターで催すモータースポーツイベントでの導入からスタート。追って量産モデルにも展開していく予定であるという。本プロジェクトの実施にあたり、ポルシェは初期費用として約2000万ユーロ(約25億円)を投じている。
シーメンスエナジーのクリスチャン・ブルッフは語る。
「再生可能エネルギーは、もはや使用する土地でのみ製造するものではありません。風や太陽といった自然のリソースを大々的に享受できる土地を活用するべきです。再生可能エネルギーを地域から地域へと輸送する新しいサプライチェーンが世界中に拡大しています。エネルギーの貯蔵や物流という面で、水素は今後重要な役割を果たすことになるでしょう」
エンスージアストへの福音となるか
ポルシェのオリバー・ブルーメCEOも次のように説明している。
「電動化モデルはポルシェの最優先事項であり、eフューエルはその一助となるはずです。脱炭素化に向かうロードマップに加わる、新たな要素といえるでしょう。eフューエルは、内燃機関エンジンやプラグインハイブリッドに使用可能で、さらに既存の給油設備ネットワークも活用できるという運用上のアドバンテージがあります」
石油を基盤としてきた膨大なインフラを100%作り替えるには長い時間がかかるだろう。さらに、将来的にすべての自動車がEV化したとしても、飛行機や船舶、重量貨物車両の一部などは燃料油に頼らざるを得ないと言われている。そういう意味で、代替エネルギーである合成燃料の活用は脱炭素社会に向けた現実的な一歩として欠かすことのできない一本の柱といえるだろう。そしてなにより、eフューエルはクルマ愛好家にとっての福音になるかもしれない。化学的構造や基本特性がガソリンと変わらない合成燃料は、古きよき時代のヴィンテージカーにも使えるのだから。
Posted at 2020/12/10 21:24:33 | |
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ポルシェ | 日記
2020年12月09日
「スーパー耐久仕様のGRヤリスに見る最先端メーカーチューニング!」市販化待ったなしのパーツも多数装備!?
実戦で鍛えて市販車を強く育てていく
GRヤリスの進化はすでに始まっている!
スーパー耐久レース(S耐)は限りなく市販車に近い車両でロングディタンスを走ることもあり、「最もチューニングカーに近いレーシングカー」と言われているほどだ。
そんなS耐に参戦し、デビュー戦となった富士24時間でいきなりポールトゥウィンを飾ったのが、トヨタ社長の“モリゾー”こと豊田章男氏や佐々木雅弘選手がドライブした「ルーキーレーシング」のGRヤリス。「実戦でクルマを鍛え、市販車にフィードバックしていく」というトヨタ(GR)の意気込みが詰まった、最先端のメーカー系チューニングマシンなのだ。
エンジン本体や補機類はノーマルとイコール。ただし、ECUのプログラムには手が加えられ、ブーストアップによって最高出力は約320psに達しているという。もちろん各種リミッターも引き上げられている。クラッチはORC製の強化品をセットする。
エキゾーストマフラーはフジツボのスペシャルで、テールエンドにはキャタライザーを装備。これはレギュレーションに即した仕様だ。
足回りはKYBのレース用ショックを軸で構築。組み合わされるスプリングはハル製だ。ちなみに、GRヤリスのリヤサスはダンパーとスプリングが分離した構造だが、レース車両ではセッティングの幅を広げるために一般的なコイルオーバーへと変更されている。LSDは、GRガレージで販売されている市販モデルを使用。
ブレーキはスリックタイヤとの相性まで考え、フロントにはアドヴィックスの6ポットキャリパー+2ピーススリットローターを、リヤには純正と同サイズのアドヴィックスキャリパー+2ピースプレーンローターをそれぞれセットしている。
不要なものが徹底的に排除され、シンプルかつレーシングに仕上げられた室内。中でも目に付くのがブリッドのドライカーボン製フルバケットシート。佐々木雅弘選手の話では、この採用はメーカー系レーシングカーでは異例だという。メーターはAIM社のロガーモニターMXL2だ。
元々、市販車としてはボディ剛性が高いとされるGRヤリスだが、スリックタイヤでサーキットを走るS耐というステージではボディにかかる負担は想像以上に大きい。そのため、室内を覆い尽くすロールケージは、応力集中部分を全てバーで連結して剛性を飛躍させている。
なお、燃料タンクは専用モデルを製作してフロア下に設置。燃料が低重心化に寄与するよう設計されているそうだ。
エクステリアで市販車と大きく異なっている部分は2点。レーシングスピードでは空力も重要なファクターとなるため、リヤにスワンネックマウントのウイングを装着。そして、フロントバンパーは両サイドの不要な開口部を撤去した上で2段の整流フィンをデザインしている。
これらは、レギュレーションに合わせて認定を受けたエアロパーツだが、現状は開発中とのとこ。しかし、将来的にはGR専売で市販化される可能性も十分にあるだろう。
「1600ccターボで4WDって聞いていたから、正直期待してなかったんですよ。ところが乗ってみたらピックアップが良くてトルクもある。ボディも軽いし、エンジンが小さいからバランスも抜群。良い意味で裏切られました」と佐々木雅弘選手。
GRヤリスオーナーでチューニングを楽しみたいと考えているオーナーにとって、このS耐スペックは注目の最先端チューンドなのである。
Posted at 2020/12/09 21:21:25 | |
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自動車業界あれこれ | 日記
2020年12月09日
スバル魂炸裂! 新型レヴォーグの弟分「インプレッサ」が持つ魅力とは
■水平対向エンジンやアイサイトなどスバルのアイデンティティが満載
2016-2017年 日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、スバルの主力モデルである「インプレッサ」ですが、オーナーはどのような部分に魅力を感じているのでしょうか。
インプレッサは、国内市場だけでなく、ヨーロッパにおけるCセグメント市場を狙った世界戦略車として1992年に初代モデルが登場し、現行モデルは2016年に登場した5代目となり、セダンの「インプレッサ G4」とハッチバックの「インプレッサ スポーツ」がそれぞれ設定されていますが、今回はインプレッサスポーツを中心に紹介します。
日本自動車販売協会連合会が発表した新車販売台数ランキングによると、2020年1月から6月にかけて1万9381台を売り上げ、ランキング18位を記録。
2016年の5代目から、新世代プラットフォーム「SUBARU GLOBAL PLATFORM」を初めて採用し、前モデルよりも細長くなったヘッドライトやコンパクトなフロントグリルで、シンプルながら鋭い顔つきになっています。
さらに、2019年のマイナーチェンジでは、運転支援機能「アイサイト」にツーリングアシストを追加。
ほかにも、国産車初の「歩行者保護エアバッグ」を標準装備するなど、先代よりもさらに安全性が向上されたことも影響し、登場から4年目となった2020年現在でも好調な販売台数を維持しています。
インプレッサのボディサイズは、全長4475mm×全幅1775mm×全高1480mm(一部グレード1515mm)と、先代モデルと比べてやや拡大。
ただし、ドアミラーの幅や最小回転半径は、先代モデルと同じサイズに設計されており、最新モデルでも、取り回しの良さ良さが魅力です。
内装は、もともと上質な質感でしたが、さらに高められています。メーターはアナログ式が採用されていますが、パーキングブレーキの電動化や、エアコンのスイッチ位置を高くし、直感的に操作できるようにするなど、質感の高さと機能性の両立が図られています。
搭載されるパワートレインは、1.6リッター/2リッターのガソリンエンジン車と、2020年10月に追加された2リッター+モーターのハイブリッド車「e-BOXER」の3種類を設定。
すべてのエンジンに「SUBARU BOXER」と呼ばれる水平対向エンジンが採用されており、振動が少なく滑らかなエンジンフィールを実現しています。
駆動方式は、ガソリン車に2WD/AWDが用意され、ハイブリッド車にはAWDが採用されています。
スバルではAWDを基本としていますが、インプレッサは同社のエントリーモデルということもあり、雪道や悪路での走行が必要ないユーザーのニーズに応えるため、2WDが設定されました。
燃費性能は、WLTCモードでガソリン車が12.4km/Lから14.1km/L、ハイブリッド車が15.2km/Lです。
さらに、「ぶつからないクルマ」のキャッチフレーズで有名な、スバルの先進安全機能「アイサイト」を全車標準装備。
これは、他メーカーが採用しているレーダー式のセンサーではなく、ステレオカメラによる認識システムを利用しているのが大きな特徴です。
これにより、前車のブレーキランプカラーを明確に把握することができ、あらかじめ減速準備に入ることができるため、より信頼性の高い衝突安全性能を実現しています。
グレードは、ガソリン車が「1.6i-L EyeSight」「1.6i-S EyeSight」「2.0i-L EyeSight」「STI Sport」の4種類。ハイブリッド車が「2.0e-L EyeSight」「Advance」の2種類です。
新車価格は、ガソリン車が200万2000円から292万6000円、ハイブリッド車が256万3000円から278万3000円でした。
■実際インプレッサに乗っている人はどこが良くてどこがダメ?
では、インプレッサに乗っているオーナーは、どのような評価をしているのでしょうか。
外観デザインの評価を見てみると、「この普通顔は好感が持てます」「適度なスポーティな外観で気に入っています」「スバルらしい飽きのこないデザインで気に入っています」など、決して派手さはないものの、バランスよくまとめられたデザインが高評価であるようです。
内装は、「高級感はそれほどありませんが黒を基調にまとまっています」との意見があれば、「見た目のインパクトは無く、質感も安っぽいところがある」「もっとスッキリしたほうがプラスチック感が弱まると思います」と、安っぽさを感じてしまうオーナーもいるようです。
また、アナログメーターに関しては「真新しさはないものの、見やすさは感じます」と、高評価でした。
シートに関しては、意見が割れるようで、「座り心地が良く長距離運転も疲れません」との意見があれば、「きつめのカーブなどではクルマの走りにシートがついていけていない感じ」との声もあります。
ほかにも、「(グレードによっては)標準でアルミペダルをつけるところはスバルらしいこだわり」との高評価もあれば「ダッシュボードの収納が小さすぎて取扱説明書や点検ノート以外のものが入りません」と、細かな使い勝手を指摘する声もありました。
走行性能に関しては、「重厚感があって、それでいて重すぎず軽すぎず良い感じです」「硬すぎず、柔らかすぎずちょうど良い。一番の長所はこのサスペンションですね」と、足回りが高評価であるようです。
反対に、「停止状態から発進するときに、ややもたつきます」と、レスポンスに不満を抱くオーナーが多いようです。
また、AWD車に関しては「FF車と比較して直進安定性は素晴らしい」「カーブなどでも、地面に吸い付く感触がします」との意見がありました。
※ ※ ※
インプレッサは斬新なデザインではありませんが、水平対向エンジンやアイサイトなどスバルが持つ最新の技術を惜しげもなく投入されています。
2020年10月に発表された「レヴォーグ」にはそれらを進化させた最新のスバルスピリットが継承されており、販売店によれば「インプレッサのハッチバックユーザーが、少し大きくなるレヴォーグへの乗り換えを検討するケースも少なくない」といいます。
Posted at 2020/12/09 21:16:51 | |
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富士重工 | 日記
2020年12月09日
スバル シフォン、スマアシの性能向上…カスタムには専用外装の新グレード設定
SUBARU(スバル)は12月8日、軽トールワゴン『シフォン』および『シフォン カスタム』を一部改良すると発表した。
今回の一部改良では、ステレオカメラを刷新した「スマートアシスト」を標準装備。衝突警報機能、衝突回避支援ブレーキの性能を高めたほか、新たに路側逸脱警報機能、ふらつき警報などを搭載し、安全性能を向上させた。さらに、ターボエンジン搭載のグレードでは全車速追従機能付アダプティブクルーズコントロールの作動速度域を拡大。長距離の走行でもドライバーの負荷をこれまで以上に軽減する。
また、シフォン カスタムに新グレード「Rリミテッド スマートアシスト」「RSリミテッド スマートアシスト」を設定。大型フロントグリル&バンパーガーニッシュやサイドガーニッシュを装備した専用の外装とし、RSリミテッド スマートアシストにはさらに専用デザインの15インチアルミホイールを採用した。
価格はシフォンが134万2000円から172万7000円、シフォン カスタムが174万9000円から206万2500円。なおシフォンは『タント』をベースとしたダイハツからのOEM供給モデルとなる。
Posted at 2020/12/09 21:13:41 | |
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富士重工 | 日記
2020年12月08日
激レア車発見!! デ・トマソの野望を背負ったランチア試作車とは?
■ベースはランチア「フルヴィア」だった
2020年10月26日から31日まで、RMサザビーズ英国本社が再びオンライン限定でおこなった「LONDON」オークションにおいて、長らく世間から忘れ去られていた1台のコンセプトカーが出品され、世界的な話題を呼ぶことになった。
その名はランチア「HFコンペティツィオーネ」。カロッツェリア「ギア(Ghia)」が1969年に一品製作したプロトティーポ(試作車)であるとともに、ある大きな目的も与えられていたという。
今回は、この数奇な運命をたどった1台のストーリーを中核として、「LONDON」オークションのレビューをお届けしよう。
●生粋のラリーカーがコンセプトカーに変身
このコンセプトカーのデザインを担当したスタイリストは、ピニンファリーナでフィアット「124スパイダー」などを手掛けたのち、ジョルジェット・ジウジアーロの後任としてカロッツェリア・ギアに迎えられたトム・チャーダである。ギア時代には、デ・トマソとともに「パンテーラ」や「ロンシャン」などの作品を残し、日本国内のスーパーカー通の間でも信奉者の多い人物である。
ベースモデルとされたのは、ランチア「フルヴィア・ラリー1.6HF」。1965年からフルヴィアに設定されたクーペ版をベースに、ランチアの実質的なワークスチーム「HFスクアドラ・コルセ」とその総帥、チェーザレ・フィオリオが製作させた一連のラリー用エボリューションモデルの最終進化形である。
このラリー用フルヴィアのファーストモデルである「フルヴィア・クーペHF」は、1966年1月に発売された。
1.2リッターの挟角V型4気筒エンジンは、標準型クーペから8?増の88psに強化される一方、各開口部のアルミ置き換えや、サイド/リアウインドウの樹脂化、さらに前後バンパーを廃することで、135kgものダイエットに成功。車両重量は825kgという軽量を誇っていた。
クーペHFは、デビュー早々からヨーロッパ各地のラリー競技で大活躍を見せるが、翌1967年春には1.3リッターに拡大した進化版「ラリー1.3HF」が登場。排気量アップにより101psのパワーを得て、戦闘力をさらに高めた。
そして1969年に登場した最終進化形「ラリー1.6HF」は、1584ccのV型4気筒エンジンを搭載。115psに達したパワーも相まって、現在のWRC(世界ラリー選手権)の前身にあたる「ヨーロッパ・ラリー選手権(ERC)」にて、1969年シーズンおよび1973年シーズンに年間タイトルを獲得するなど、1970年前後における世界最強のラリーカーの1台として君臨したのだ。
この名作をベースとするHFコンペティツィオーネについて、製作社であるギアでは「GTとして完全に適する一方でそのままサーキットに乗り込むことのできる、ふたつの個性を持つクルマ」とアピールしていたという。
11度20分00秒という特異なバンク角を持つV型4気筒エンジンは、フロントセクションを大幅に改造することでマウント位置を低め、ボンネットはスーパーカー的な低いものとされるとともに、ウェッジシェイプのプロポーションに重要な寄与を果たした。そして当時大流行していたリトラクタブル・ヘッドライトで、その印象はより鮮明なものとされた。
さらに、オリジナルのフルヴィアHFではリジッド式だったリアアクスルは、ふたつのウィッシュボーンによる後輪独立懸架へと置き換えられるなど、原則的にボディの架装を専業とする、この時代のイタリアのカロッツェリアが手がけたコンセプトカーとしては、かなり大掛かりな1台となっていたのだ。
しかし、それには深い理由があった。実は、のちにイタリア自動車業界のフィクサーとして君臨したレジェンドが、このプロトティーポには深く関与していたのである。
■フォードがランチアを買収しようとしていた! その真相は?
ランチアHFコンペティツィオーネのプロジェクトを発案したとされるのは、この時代にカロッツェリア・ギアの社主であったアレハンドロ・デ・トマソその人だったという。
当時のデ・トマソ生産車といえば、レーシングカーやスーパースポーツ、GTカーともに、密接なかかわりを持ちつつあったフォード社製のコンポーネンツを流用するのが常道だった。
ところがこのプロトティーポのみは、当時のデ・トマソに深い関わりがあったわけではないはずのランチア市販車をベースに製作されているのだが、そこにはデ・トマソの野望が大きく影響していたようだ。
●アレハンドロ・デ・トマソの野望の遺産?
1960年代後半、イタリア自動車業界の再編成に乗り出そうとしていた彼は、フェラーリとの「婚約破棄」およびその後のレース界で大リベンジを果たしている真っただ中だったフォードに、ランチア社を買収させようと目論んでいた。この時代のランチアは、慢性的な財政危機にあったのだ。
そして、提携関係を通じて親友ともいえる間柄なっていたフォード・モーター・カンパニーのCEO、リー・アイアコッカは、ランチアのCEOとしてデ・トマソを指名する……、というのが彼の描いた計画であったという。
ところが、イタリアの良識ともいわれた名門ランチアのトップになる、というアレハンドロの夢は、はかなくも崩れ去った。1969年9月にフィアット・グループがランチアを傘下に収めたことで、フォードによる買収計画はキャンセルとなってしまったのだ。
しかし、デ・トマソが「ハニートラップ」として計画したコンセプトだけは現実のものとなり、1969年のジュネーヴ・ショーおよびトリノ・ショーにて大きな注目を集めるに至った。
さらにデ・トマソは、このプロトティーポの終幕を飾るべく、1970年のル・マン24時間レースに参加を期したモディファイを指示。ボンネットにはエアスクープを取り入れたパワーバルジが設けられるとともに、リアには巨大なウィングスポイラーを設置した。
また、当時のFIAレギュレーションに準拠した大容量のアルミニウムタンクがリアコンパートメントに追加されるとともに、ガソリンの給油口もクイックリリース型に変更。ウィンドスクリーンは、ベルギーのグラヴァーベル社がオーダーメイドした軽量タイプに換装。サイド/リアウインドウもプレクシグラスとされ、レース仕様のロールバーも取り付けられた。
しかし、レーシングカーに改装され、名実ともに「コンペティツィオーネ(レースカー)」となったプロトティーポは、テストのみでル・マンの実戦に登場することなく終わり、歴史の表舞台から姿を消すことになったのだ。
こうして役目を終えたランチアHFコンペティツィオーネは、ギアと同じくデ・トマソ傘下となっていたカロッツェリア、「ヴィニャーレ(Vignale)」の創始者であるアルフレッド・ヴィニャーレの甥のもとで、約20年にわたって所蔵されたといわれている。
今世紀を迎えたのちに現在の所有者に譲渡され、2014年にはフルレストアを受けることになった。また北米「アメリア・アイランド・コンクール・デレガンス」にも出品され、複数のエンスージアスト向けメディアで大きく取り上げられた。
「ギア」と「ランチア」、そして「デ・トマソ」の歴史のうねりを物語るユニークな1台。「ランチア・クラシケ(現FCAヘリテージ)」が真正を証明したCertificato(チェルティフィカート:証明書)も添付されているというランチアHFコンペティツィオーネに、RMサザビーズ社は14万ー18万ポンド、日本円換算にして約1955万円ー2515万円というエスティメート(推定落札価格)を設定していた。
ところが、実際のオンライン競売ではビッド(入札)が振るわなかったのか、残念ながら流札。現在では上記のエスティメートを提示したまま「Still For Sale(継続販売)」となっているようだ。
この価格について、様々な意見が出てくることは容易に想像ができる。
しかし、アニバーサリーイヤーやブランド別/コーチビルダー別などのテーマを上手くキャッチできれば、伊「コンコルソ・ヴィラ・デステ」や北米「ペブルビーチ」など、一流どころのコンクール・デレガンスの招待資格も狙えそうな1台であることを勘案すれば、決して高くないとも思われるのだが、いかがなところであろうか……?
Posted at 2020/12/08 21:57:22 | |
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自動車業界あれこれ | 日記