
世間はクリスマス。
しかし我が社は年末進行で朝も夜もない怒涛の日々。
まぁでもその最中にも、ちょっとしたロマンスはあるのです。
<合コン>
サイトーくん「ぢゃづさん!聞いて下さいよ!」
ぢゃづ「ウン、イヤ聞きたくない。忙しくて何も聞こえない」
サイトーくん「合コンが決まったんです!のんた・・・のんさんと!」
これは聞き捨てなりません。
正直、コイツら本当に良い奴らだから仲良くなればいいのに、と思っていた私ですが、実際にそんなことが起こるとなると娘を取られた父親の気分。
ぢゃづ「そうか、それはおめでとう」
サイトーくん「イヤ合コンというか、まぁ飲み会なんですけれど」
ぢゃづ「誰が参加するんだ?」
サイトーくん「僕とぢゃづさんと専務です」
ぢゃづ「イヤ男の顔ぶれじゃなくて・・・え?!」
サイトーくん「ガードが堅いものですから、そういうことになっています」
ぢゃづ「俺は行かない」
サイトーくん「ハイ、実際は同期の男三人で行くんです」
大体読めてきました。
上司含めた飲み会、と謳っておいて、実際に参加するのは若い男女三組。
急にぢゃづさん来られなくなっちゃって、とでも言うのでしょう。
まぁでもたまには良いか、と柄にもなく思ってしまった私。
そんなに一途に彼女が好きなら、同じ男として協力してやらないでもありません。
ぢゃづ「分かった、あまり羽目を外しすぎないようにな。で、あっちは他に誰が?」
サイトーくん「のんたんに、仲良しの女の子二人を連れてきてと頼んであります!」
のんたんも、その同期も今のところお相手無し、という話は以前聞いたことがあります。サイトーくん情報なので真偽は不明ですが。
ぢゃづ「上手く行くと良いな」
サイトーくん「ぢゃづさんマジ天使」
ぢゃづ「上司への口のきき方は今度教えてやろう」
そして当日。
夕方早くに騒々しい男が外回りから帰ってきます。
サイトーくん「今戻りました!・・・アレ、のんたんは?」
ぢゃづ「彼女が帰る時に専務や俺が残ってたら変に思われるだろ。今日は外回りしたら社に戻らなくて良いよと言ってある」
サイトーくん「あなたが神ですか」
ぢゃづ「悔い改めよ」
浮き浮きと退社時刻ピッタリに飛び出していくサイトーくん。
お陰でこちらは深夜残業確定ですが、自然と顔がほころんできます。
後は若い者同士、上手く行くことを祈るだけ。
そして翌日。
サイトーくん「・・・おはようございます」
ぢゃづ「何だどうした?!振られたのか?」
サイトーくん「いえ、それ以前の問題です。騙すのは酷いと3人がかりでずっと説教されてました」
ぢゃづ「そりゃお疲れさん。・・・しかしのんたんはともかく、彼女の同期達はみんな大人しいよな?あの娘たちも怒ったりするんだな」
そこからの話は長かったので割愛します。
ただ、結局参加者は以下の通りだったそうです。
①サイトーくん
②サイトーくんの同期A
③サイトーくんの同期B
④のんたん
⑤ワタナベさん(私の部のパートさん52歳)
⑥タバタさん(専務の下にいるお局様、推定年齢50代ミドル)
ぢゃづ「まぁこちら側の参加者が専務と俺、と言ったんなら妥当なラインナップだね」
サイトーくん「・・・それもっと早く言ってほしかったです」
この日の午後、サイトーくんが専務に呼び出されたのは言うまでもありません。
<プレゼント>
サイトーくん「ぢゃづさん、今日は何の日でしょう」
ぢゃづ「A社の締め切りを2本上げる日」
サイトーくん「!!・・・イヤ、それもそうですが世間はクリスマスイブですよ」
ぢゃづ「お前絶対締め切り忘れていただろう」
サイトーくん「クリスマスイブだというのに、ウチの部はやけに静かですね」
ぢゃづ「ああ、ワタナベさんなら甥っ子の幼稚園のクリスマス会だというのでお休みを取ったよ」
サイトーくん「・・・誰もワタナベさんの話はしていません」
ぢゃづ「それを言うなら俺もA社の締め切りの話しかしてないんだが・・・お前が気にしているのはアレか、のんたんがいないことか?」
サイトーくん「別にそんなことは気になっていませんが、ぢゃづさんが話したいなら聞きます」
ぢゃづ「分かった。A社の依頼のうち、こっちの件はどうしても受注して次に繋ぎたい」
サイトーくん「済みません僕が悪うございました二度と生意気は申しませんごめんなさい許して下さい」
ぢゃづ「・・・のんたんには午後から半休を取らせた。彼女、実家が遠い上に一人っ子だろ?社会人になってから毎年クリスマスにはご両親にディナーをご馳走しているらしい。彼氏が出来るまでですけどって笑ってたよ」
サイトーくん「・・・良い娘ですね・・・」
ちゃづ「分かったから泣くな」
サイトーくん「俺、ご両親に申し訳ないです・・・」
ぢゃづ「お前の可能性はないから心配するな。で、お前は今夜はどうするんだ?」
サイトーくん「同期三人で寂しく飲み会です」
ぢゃづ「結婚したら分かるけど、それもまた今しか作れない思い出だよ」
そして数時間後、普段の行動はのんびりな癖に何故か仕事が早いサイトーくんの手が止まります。
サイトーくん「終わりました!チェックお願いします!」
ぢゃづ「今回の件はお前に任せてある。信じるよ」
サイトーくん「ぢゃづさん・・・」
ぢゃづ「今からなら直接A社に届ける方が早いだろ。あちらが確認したらそのまま上がっていいぞ」
サイトーくん「有難うございます!明日また報告します。では行ってきます!」
ぢゃづ「ゴメン、俺明日代休貰っているんだ。専務に直接報告してくれ。・・・この前の件もこれで挽回してこい」
サイトーくん「・・・・・」
ぢゃづ「だから泣くな、早く行って来い!・・・あ、忘れるところだった」
サイトーくん「え?」
本当に忘れそうになっていたのが、私の机の片隅に置かれた可愛らしい小袋。
ぢゃづ「のんたんから今朝預かってた。お前に渡してくれってさ」
サイトーくんの顔がパッと明るく輝きます。そしてくしゃくしゃっと歪みます。
ぢゃづ「・・・だから俺に抱きつくのは止めろ」
慌ただしく駆けていくサイトーくん。見送る私の机の上には、彼に振るはずだった仕事の山。
でも今夜ぐらいは許しましょう。クリスマスは子供達や彼らの様な若者たちのためにあるのです。
サイトーくんは今夜、無事仕事を片付けた満足感と、馬鹿話ばかりだけれど本音で語り合える仲間との飲み会の余韻と、微かに良い香りのする小袋に包まれて、幸せな夢を見ることでしょう。
クリスマスの今日、私はお休みですが、朝いつもよりも早く出社してくるサイトーくんの姿が目に浮かぶようです。
彼は真っすぐのんたんの机に向かい、少し照れた顔でお礼を言うのでしょう。
そして知ることでしょう。
昨日お休みだったワタナベさんからのプレゼントを、頼まれていたのんたんが皆に配っただけだった、という事実を。
俺って何て良い上司なんだろうと思いつつ、携帯の電源を切ったまま贅沢な休日の二度寝に入る私なのでした。