トヨタレンタカーにプリウスが導入され、おりしも定期ドライブの時期になりましたので、テストをかねてドライブをしてきました。レンタカーゆえ、グレードは最下級の「L」です。
エンジン+モーター+トランスアクスル
今回のハイブリッドシステムも二代目同様にTHSⅡですが、エンジンはZRに、モーターは650V+リダクションギヤ付きに変更されています。
エンジンそのものの印象
ZRエンジン車には何度も乗っており、振動の少なさと滑らかさを評価しています。プリウスでもその良さは十分に現れています。旧型のNZエンジンは、低回転域での「ウニョー」というトヨタのエンジンにつき物の音と、高回転域の雑味のある音とで、結構やかましい印象がありました。特に旧型プリウスでは、高速道路で結構高い回転域を使うため、ガソリンエンジン+CVTの車よりもうるさくてパワー感がありませんでした。しかしこのZRエンジンでは、低回転域では絶対的な音が小さいこと、高回転域になっても雑味がない、軽快なエンジン音であることで、静かに乗ることが出来ます。エンジンのみでの走行は出来ませんので、「エンジンパワー」を評価する事は出来ませんが、高速道路でも比較的低い回転域を使うことから、低速トルクが向上していると考えられます。ZRエンジンに乗せ変えた効果は、非常に高いと思います。
モーターそのものの印象
低速度域では、モーターで走行します。今回のプリウスには、走行モード切替スイッチがあり、それぞれでモーターおよびエンジン制御が異なります。
ECOモード
発進時に必要最小限(?)の通電をしますが、そこから少しアクセルを踏んでも、モーターへの通電電流が増えないような印象です。アクセル操作が苦手な人に対応し、「アクセル操作のばたつき」を無視するかのような「電流一定(?)」制御になっているように感じます。街中のトルコンAT車には余裕で置いていかれます。まるで路上教習中の車のような走行になりますが、なかなかエンジン回転領域にならないようにしているため、燃費には大きく貢献します。
通常モード
発進時のモーター発生動力はECOモードとほぼ同じような感じですが、こちらはアクセルを踏み込むほどに通電電流が増す印象です。発進時こそECOモードや旧型プリウスのような「もっさり」した印象ですが、早々にエンジンが始動するため、普通の加速が可能です。雑誌では「車重の増大により、旧型より鈍った発進加速」と書いてあるものもありますが、モーター動力を絞られていることを忘れて書いているのかな?
街中ではこのモードが一番使いやすいですね。燃費はほどほどになります。また、旧型ではエンジン回転が先に上がって、車速が後から上がってくるような「ゴムバンド加速」でしたが、ほぼトルクコンバーターAT車的な加速に改善されています。
パワーモード
このモードには驚かされました。アクセルをほんの少し踏んだだけでモーターが非常に大きなトルクを発生し、力強い加速をします。アクセルペダルへの反応が良すぎて、滑らかな運転が難しいほどです。本来電気モーターは回転数が低い領域ほど大きなトルクを発生しますが、まさしくその特性を現す走行モードです。このモードを使って走行すると、ハイブリッド自動車がこれからのハイパワー車になっていくのではないかという印象を抱きます。それほど強力な加速が可能です。しかも、通常モードとそれほど仕様エネルギーは変わらないように思います。加速しっぱなしという使用状態がまずないためです。加速したら、次のコーナーの手前で必ず減速するでしょう?そのときに電力回生ブレーキが作用するため、使用した分がすぐに補われます。
Bレンジ
Bレンジがエンジンブレーキレンジであることはこれまでと同様です。しかし、旧型では「4速ATのOD OD OFF程度」であったものが、「4速ATの2速」まで強化されました。このレンジは、ジェネレーターの回転速度を上げて発電を強化するモードです。本当はジェネレーターだけ回転速度を上げられれば良いのですが、動力分割機構の都合上、そうはいきません。強制的にエンジン回転を上げることになり、そうすると狭義のエンジンブレーキが強まってしまうため、回生ブレーキに回せる動力が減ってしまいます。したがって、なるべくBレンジにしないことが燃費走行のコツです。旧型ではDレンジでの空走感が強かったのですが、新型ではDレンジでの空走は弱まっています。そのため、Bレンジに入れないと怖く感じる場面が減っています。
ここまでのまとめ
3つのモードがありますが、アクセル開度が大きい領域ではどのモードでもパワーモードになります。旧型からは、アクセル操作への加速追従性が著しく改善されています。ECOモードは意識して運転しなければかったるさを感じますが、それでも加速の印象は自然なものになっています。エンジンの出力が向上したことで、制御に余裕が出来たのでしょうね。車のランクが、1ランク上がったような印象です。
車体の印象
シャシーは、オーリスと共用でしたかね?トレッドが広がった印象が大きく、コーナーでの踏ん張りが良く効きます。旧型の、やや高いところから運転している印象が消え、路面に近いところでコーナーリングしている印象が強くなりました。この点からも、車としての性能が大きく上がった印象を抱きます。とは言うものの、コーナーを右に左に曲がって楽しいというほどの車ではありません。依然として「細長い車を運転している」印象はあります。
ショックアブソーバーの印象は良くありませんね。コーナーリング初期や小さな操舵域に対しては「大きな減衰力が働いてロール剛性の高さ」を感じますが、コーナーリング中や大きな操舵域ではサスペンションの柔らかさが顔を出して結構なロールをします。ロールがリニアになっていません。この事は乗り心地にも現れ、小さな突起には下から突き上げを感じる一方、路面のうねりには結構あおられます。ショックアブソーバーが良くないのではないでしょうか?もっともこのあたりの事は、より上級のグレードを選ぶことで解消するのではないかと思います。
車体剛性は、フロント側はまずますしっかりしていますね。ショックアブソーバーのせいもあるかもしれませんが、路面が荒れたところで「ブルッ」と来る感じはありますが、まあ我慢できる程度になっています。一方でリヤ側は「横方向の曲げ剛性」が不足しているような感じがします。ハイブリッドバッテリー付近には高張力鋼板が使われているらしいのですが、ホイールハウスの倒れこみを防ぐような、ホンダの車が良く使っている補強材が使えないため、曲げモーメントに対して不利になっていることが原因でしょう。ハイブリッドバッテリーの横方向を短くし、補強材を設置すると良いでしょう。ねじり合成はまずまずのところにあります。
視界は、これは最近の車に共通するところで、Aピラー付近の視界が良くありません。斜め後方視界は、例の「Jライン」を採用していないため良好です。後方は利やゲートの、エキストラウインドーの上の金属部分が邪魔になり、ちょうど後ろに付く車が見えにくくなっています。最近「速い車を抜かせる」習慣が消えつつある中、プリウスのドライバーはよりいっそう山道や空いた道で道を譲らなくなると考えられます。
ブレーキについて
整備関係者には不評の「ECBⅡ」電子制御リヤ遅れ込め制御ブレーキが採用されています。回生ブレーキが利くように、ゆっくりブレーキを踏み込むと全く違和感を感じません。しかし、ストロークシミュレーター(踏み込み時のペダル反力を発生する機能)の設定が今ひとつであるためか、ブレーキペダルが軽すぎ、路面の振動等でペダルにちょっとでも大きな踏み込み力がかかってしまうと、とたんに「カックンブレーキ」となります。ちょっとサーボ(はないのですが)が効きすぎであるかのような印象です。これはペダルを放すときも同じ印象で、微妙な操作は難しいです。初代や二代目からはずいぶん改善されていますが、それでもまだまだと言う印象です。私としては、ホンダのハイブリッド車のように、回生ブレーキとの協調制御をやめてしまえばよいと思います。アクセルペダルを放すと回生ブレーキを利かせるようにし、ブレーキ力は運転手にブレーキペダル操作を和らげることで調整してもらえば十分です。MT車ではエンジンブレーキが利いていたのですから、なにもトルコンAT車の「空走」を再現する事はありません。
装備品について
先に書いた「走行モード切替スイッチ」が、「宇宙戦艦ヤマトのパート1で、デスラー総統が「デスラー総統も相当冗談がお好きですなあ!ガハハハハ」と発言した将校を、手置きのピアノ線(?)をはじいて床に穴を開け、その将校を落とした」そのピアノ線の部分にあるため、非常に操作がしづらいです。しかもシフトレバーの向こう側ですよ!これは「あまり頻繁にモードを切り替えてくれるな」といわれているような感じがします。しかし、実走行ではモードを頻繁に切り替えた方が、走り良く、しかも燃費良く走行できるため、結構スイッチを操作する機会は多いです。そうすると、旧型で鳴り物入りで登場した「スティック式シフトレバー」のロジックが現行モデルに合わなくなってきているのではないかと思います。シフトレバーのロジックを変更するか、モード切替スイッチをステアリングホイールに付けるかして欲しいですね。
今回もエアコンコンプレッサーは電動式で、効き具合も良好です。ただ、いわゆる「クーラーモード」でエアコンスイッチをオンにすると、なぜか「内気循環」で立ち上がります。エアコン使用の基本は空気の入れ替えをする「外気導入」のはずです。お好みモード切替でこの動作はやめられるようですが、基本を内規循環とする考え方はどこか間違っているとしか思えません。
内装は、近年の内装材リサイクルの観点から、どうしても安っぽい素材にならざるを得ないようです。旧型の後期型程度の仕上がりです。硬い樹脂にシボ加工をしたもので、まあ、1500ccクラスのものです。このあたりはカローラのアシスタグレードと同じような感じがします。また、オーリスでご自慢の「センタータワー」が採用されましたが、これは邪魔そのもの。80型スープラを思い起こさせる「西洋風呂にでも浸かったような、狭苦しい感じ」がするだけで、全く意味を感じません。申し訳程度にタワーの下にものを置く場所が設置されていますが、ここは排気の熱で結構暖かくなります。デザイナーの遊び以上の意味を感じないこの内装は、全く褒められません。
ドア閉まり音は、どういうわけかフロントとリヤとで全く異なり、フロントはほぼ旧型のような「ビトン」と、ウエザーストリップが粘着するかのような閉まり音であるのに対し、リヤはパネル全体が振動するような、防振材を省略したかのような閉まり音になっています。まあ、車の走りには無関係なのですがね。
燃費
走行距離は787km、走行は、1/5が一般道、3/5が高速道路、1/5が山岳路で、燃費に注意した私と、加速が気持ちよくないと気分が悪く、アクセル操作も多めな友人の二人が、1時間交代で運転しました。エアコンはほとんど使いっぱなしでした。渋滞は全くありませんでした。
燃料は35.28リットルを消費しました。燃費は、22.3km/リットルとなりました。普通の人が運転しても、多分この程度になることでしょう。
まとめ
車としての性能向上は著しく、6年の歳月の長さを感じさせる進化をしています。また、ブレーキ性能に不満はありますが、加速する方の性能は非常に良くなっています。たしかに設計開発者が言うように「プリウスを買わない理由を言わせない」仕上がりになっています。しかし、どうも「先進的なイメージ」にとらわれているようで、内装のセンタータワー、視界が悪いテールゲート」など、見た目は良いけど実生活では着ない「ステージ衣装」のような浮世離れした印象を感じます。グレード「L」は人寄せパンダグレードで、いろいろ車としての色気が出ているグレードを選ぶと、急に価格が上がるのもどうも気になります。このあたりはプリミオやアリオンの存在意義を残すための措置かもしれません。それらの車にハイブリッドシステムを搭載することが本来の姿のような感じもしますが、製造ラインの関係で難しいのでしょうね。
話がやや横道にそれましたが、買って乗って満足度が高い車です。その一方で、内装とブレーキの利き方に疑問を感じます。そこがなじめない人は、たぶん苦痛になるでしょう。良く試乗をして確かめてください。やっぱり、「車は好きではないけれど、車で旅行することが好きな人」向けの車かなあ???
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試乗 | クルマ
Posted at
2009/06/27 12:24:04