この日はコロナの車検その他整備が終了した日でした。代車としてお借りした車は、トヨタの二代目カローラスパシオ(TA-ZZE122N)です。記録の一つとして、試乗記を書く事にしました。
カローラスパシオの歴史
初代カローラスパシオは、E110カローラの派生車種として、1997年に登場しました。当時はカローラのワゴンモデルがE100型のまま継続生産され、ジュディ&マリーのCMと相まって、非常に人気が高まっていました。さらにスプリンターカリブはE110型にモデルチェンジし、合わせて人気でした。プアマンズレガシィとしての需要は、かなりのものだったことが推察されます。
しかし、少し前に登場した初代イプサムとタウンエースノア・ライトエースノアの人気が上がるなど、ミニバン隆盛前夜の状況にありました。そんな中、いわば「プレミニバン」としてカローラスパシオは登場しました。
二代目カローラスパシオは、やや大型化したE120カローラの派生車種ですが、大型化された二代目イプサムの後継を担うとともに初代カローラスパシオの受け皿も支えた車でした。同時期の他社車種には、ストリームやプレーリージョイ、ディオンなどがあります。
しかし、この頃からミニバンはノア・ヴォクシーなどの箱型車体にスライドドアに移行しつつあり、カローラスパシオはミニバンに抵抗感を持つ人への対応を終え、終了しました。需要としての後継は、ノア・ヴォクシーの他、シエンタ、ウイッシュなどが当たりました。
エンジン
カローラスパシオは、1500cc(1NZ-FE)とこの1800cc(1ZZ-FE)が設定されていました。トヨタの1800ccエンジンは紆余曲折あり、1990年代は4S-FEエンジンが、1990年代後半は7A-FEが、2000年代はこの1ZZ-FEが、2000年代後半からは2ZR-FE(2ZR-FAE)と変わっていきました。なおこの1ZZ-FEにもこの車に搭載される136馬力と、140馬力高出力版があります。後者はMR-Sに搭載され、前者はそれ以外の車に搭載されます。
このエンジンは騒音、振動が非常に少なく、滑らかで静かです。アイドリング時に走行レンジのまま停車していても振動らしい振動がなく、一般路の走行も非常に快適です。この好印象は高回転域でも変わらず、なめらかにレッドゾーンまで回ります。同時期の他社のエンジン(QG18DE、D17A)と比較しても、他社のエンジンは1代前のモデルか、と思える程の仕上がりです。
出力自体は大したことはなく、4500回転を超えるとトルクは急速に低下するようで、レッドゾーンまでは回るものの加速力は鈍くなります。しかし振動・音とも低く抑えられ、仮にシフトダウンが行われた場合であっても、不快になることはありません。
一般路での走行は余裕あるもので、比較的重量がかさんでいるこの車を軽快に走らせます。1500ccエンジンですとやや余裕が失われるでしょうから、スパシオには1800ccが最良の選択ではないかと思います。
それにしても、次の代のZRエンジンもスムーズで滑らかですから、音・振動に関してはトヨタ車の独壇場になっています。
トランスミッション
まだトヨタがCVTを本格的には採用していない時期でしたので、4速ATが採用されています。フレックスロックアップ機構が3速から作動し、巡航走行時の燃費低減にも配慮されています。変速スケジュールは低回転域を主眼としたもので、なるべく早い時期にシフトアップをしようとするものです。シフトショックも非常に小さく、ストレスなく乗りこなすことができます。
マニュアルシフトによる変速も素早いもので、マニュアルモードこそないものの、手動シフトを駆使して活発に走ることも可能です。
シフトレバーは、インストルメントパネルに装着されています。この時期の前にはコラムシフトが採用されていましたが、コラムシフトは節度感が小さいこと、レバーを回転させる方向に動かすことから運転姿勢が崩れやすく、シフトレバー操作がステアリングホイール操作力となってしまうこともあります。このことから、この時期にコラムシフトが急減、インパネシフトが主流となっていくのでした。
インパネシフトも完全ではなく、この車もレバーの位置をやや遠く感じるものでした。レバー倒れ角も比較的大きくなっています。この問題を解消するためには、ステアリングホイールにスイッチをつけるか、パドルスイッチを付けるかですが、これまた操作系統がステアリングホイールにまとまり過ぎ、あまり成功しているとは言えません。この車の頃はそんな問題は発生しておらず、シフトレバー操作による操作が求められています。
ステアリング
この時期はまだ電動パワーステアリングが一般化しておらず、油圧パワーステリングが採用されています。介助力は程ほどに抑えられ、最近のファミリーカーのような「ただ軽いだけ」にはなっていません。まだ女性の意見最上主義ではなかったのでしょう。正常な考えに基づいた設定と言えます。
一方で、路面の状況はほとんど伝えす、タイヤのグリップや突起などの状況はわかりづらくなってしまっています。
この車のステアリングで違和感を感じたのは、ステアリングホイールの角度です。基本となる車体をカローラと共用して車高や着座位置を上げているため、コラムシャフトの曲げ角度に制限されたのではないか、と思います。私の身長、座高では、シートを概ね一番下に下げてコラムも一番下に下げるとようやく普通の角度で操作ができましたが、シートを一番上にするとステアリング角度はトラックに近づいてしまいます。ステアリングホイールを操作する手首に曲げ角度がついてしまうために疲れが増し、路面の状況がうまく伝わらず、運転に支障します。
こういうことは雑誌に書かれておらず、この種の車となると搭乗性や積載性のことばかりでした。いくらこの種の車とはいえ、、車は安全に走らねばならないのですから、設計や説明する者としてはおろそかにしてはなりません。
サスペンション
Sエアロツアラーというグレード名から、エアロパーツこそ装着されているもののサスペンションが強化されているかどうかは不明です。既に10万kmを超えた車ゆえにショックアブソーバーの性能については評価することはできませんが、良い乗り心地でした。
また、この種の車で乗り心地を重視すると必ず問題となる「ロールスピードの速さ」も適度に抑えられ、車酔いの心配については少なそうです。この種の背が高い車を選ぶ際には、乗り心地以上にロールスピードに注意する必要があります。ロールスピードはショックアブソーバーで調整しますが、絶対的なロール角度が深い場合にも車酔い傾向が増します。これは、サスペンションスプリングで抑えるか、スタビライザーの強化でしか回避できません。従って、試乗時には「120度以上曲がり込むようなカーブ」で試していただきたいと思います。
この車の実力は試せませんでしたので、残念です。
ブレーキ
ややオーバーサーボ気味で、軽い踏み込み力で制動力が発生を始めるブレーキです。急ブレーキは試せませんでしたが、7人乗車時でのブレーキには不安が残ります。車重は1200kgですが、7人乗りでは1620kgにもなります。万一の時のブレーキですから、この種の車を本当に大家族で使いたい場合には、全員乗車での急ブレーキも試すべきです。
前述のロールの件もそうですが、本来の雑誌メディアは一般人がなかなかできないところまで調査してこそ、初めて調査と言えるのではないでしょうか。
ボデー
車高は立体駐車場を考慮しない、1610mmになっています。集合住宅の人は気にするでしょうが、実際に立体駐車場に止めるケースはごくまれ、法人以外は忘れて良い数値だと思います。
車体はエアロパーツが装着され、ファミリー感が隠されています。このSエアロツアラーは、今日なら「カスタム」仕様になるようなグレードです。男性や「ナめられたくない女性」が選ぶグレードとして設定されたものと考えられます。カスタムグレードに漂う「マイルドヤンキー感」はなく、程よいドレスダウン感です。
車内は黒く、この点もエアロツアラーゆえなのでしょうか。天井まで黒いために室内は暗く、ここはマイルドヤンキー感が漂い始めています。文字盤は赤照明で、見にくく見る者の神経にも悪影響を及ぼします。赤は興奮色で、冷静に運転しなければならない車の文字盤としては採用すべきではありません。赤やオレンジ色を採用するメーカーには、基本的な心理学の知識もない無知と評価します。
室内は広いことは広いのですが、頭上空間ががら空きという印象です。乗り込んでみると、「こんなに頭上空間が空いていなくても良いのになあ」と思えてなりません。最近は、「室内で立てる」ことを自慢する車種もあるようですが、室内では立ちませんよ。
乗降性はセダンがベースゆえに良好で、立っている状態から平行移動して乗り込む印象です。荷物室は奥行はセダン程度、高さ方向は十二分にあります。しかし、後方視界が遮られるまで荷物を満載するのは間違いです。安全運転で一番大切なのは視界です。視界重視の考えから、車高を上げても荷物の搭載性は変わらないと考えるのです。なお、荷物を搭載しない際の視界は良好です。
車体の剛性はほどほどです。ハッチバック車体は後方開口部周りの補強が大切ですが、剛性は最近の車と比較すると若干劣るようです。サスペンションが柔らかいために、剛性の低さが露呈することはありません。このカローラから車体の基本設計をワゴンのフィールダーに置いており、同じボデー構造のこの車でも、その設計手法が生かされています。
まとめ
最近のミニバンはほとんど箱型・スライドドアになってしまいました。スライドドアは後席の子供がドアを勢いよく開けて隣の車を傷つける心配が少ないことや、電動リモートコントロールが可能ということが利点なのかもしれません。しかし、スライドドアはスライド構造や電動駆動部分の重量がかさみ、車重の増加につながります。しかも、一生スライドドア席に乗るわけでもありませんしね。結局、学習すべき時期を先送りしているのに過ぎません。しかも最近は、買ったものを放り込む「ワクワクドア」などを付けた車もあるそうで、どんどんユーザーを怠けさせる方向へ車が変わっていきます。
フォーマルに使うセダンと、だらしない箱型ミニバンの妥協点として、この種のヒンジドア背高車は悪くない選択だと思います。現在では消滅してしまった形状の車ですが、走行性能とのバランスにおいて、悪くない選択だと思います。