今回は法規制の面から問題点を述べたいと思います。
<米国の排ガス規制>
米国というのは環境面に関しては奇妙というか、かなり内向きな国で、京都議定書の国としての約束を勝手に反故にしておきながら、自分たちの国の健康被害に関する対策はかなり執着する傾向があります。NOxがどうとか言う前に、京都議定書への復帰(=批准)を検討すべきかと思います。しかしながら国としての体面もあるのでしょうか、実現できていません。
昔よりは環境を意識した国に変化しつつありますが、一人当たりのCO2排出量がダントツで多い国(日本の1.7倍)ですから、何か奇妙な印象を受けるのは私だけではないはず。
あともう一つ。他の国であれば国ごとに法規制を決めますが、米国の場合は州毎の規制もあります。もっとも、日本にも地方自治体が独自に設定できる「上乗せ」というのがあるので、二重規制という意味では同じですけど、日本の場合はまずは環境省が決めた規制がベースとなって、自治体がそれを勘案して厳しくするのに対し、米国の大気関係については、カルフォニア州の大気資源局(以下、CARB)が制定した法規制にEPA(アメリカ合衆国環境庁)が追随しているという点が異なりますね。
このCARBの規制をもとにEPAが定めた規制(TIER2 BIN5規制と言います)というのが、とにかく厳しいのですよね。まあ、CARBは一部の人から「環境原理主義」と揶揄されるほどに理想主義者の方々が多く、その主張は立派であるものの少し現実離れしている感が無きにしもあらずかな。法律や規制というのは守ることが困難であれば意味が無いということを理解しないと、机上の空論になってしまいます。
たしかにカリフォルニア州のロサンゼルスは光化学スモッグがひどく、健康被害も甚大だったという歴史があるので分からんでもないですけど。
この辺りの話は
ここが詳しいので、興味ある方はどうぞ。さすがTOYOTAの元開発責任者だけあって、いろいろ面白いことが書いてあります。
<排ガス規制の問題点>
それで一番問題と考えているのは、法規制の数値(NOxが0.044g/km、浮遊粒子PM0.0062g/km)が厳しいことよりも、むしろ経年劣化時でも規制を守りなさいと言う点です。
製品で難しいことの一つは、経年劣化をどう考えるかです。もちろん劣化することは間違いないのですが、どの程度、劣化するのかは、環境やバラツキ(運とも言う...笑)にも影響を受けるため経験豊富な技術者にとっても分からないことが多いです。
NOxを分解するためには、NOx分解触媒法と尿素SCR法という二つの方法があります。ここでは詳細は割愛しますがNOx分解触媒法は小型車向け、尿素SCRは大型車に使われています。性能は一長一短というところでしょうか。
それでVW車が採用しているNOx分解触媒は気を付けて使わないと、あっという間に劣化して、触媒の意味をなさなくなります。もちろんコストをかけて、よい触媒を使えば対応できますが、燃費とはトレードオフで悪化することもあり、導入を渋った可能性があります。自動車評論家の国沢光弘氏が
ブログ記事でそのことを書いていますが、たぶんそのとおりでしょう。VWをあくまでもかばう姿勢は疑問には思いますが。
VW以外にも米国でディーゼル車を売っているメーカーはいくつかありますが、本気でこの規制に対応できると自信を持って言えないのではないでしょうか。それとも将来のことなど、どうでもよいと開き直っているのでしょうかね。ちなみにMAZDA社は米国でのディーゼル販売はしていませんが、とても賢い判断と思います。
ただ最新の報道では、VWの脱法行為は欧州のユーロ5規制も逃れていたのでは?という疑惑がありますので、米国だけの特殊事情という点では片付けられない問題のような気が最近はしています。
Posted at 2016/12/31 08:38:20 | |
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