いま話題となっているVWの排ガス問題ですが、単純にVWを批判(というか考えなしの誹謗中傷があまりにも多い)しても仕方ないので、ここは冷静になって、何が問題なのか考えたいと思います。
<窒素酸化物と硫黄酸化物>
そもそも問題となっている窒素酸化物とは何か?ここでは関連性の高い硫黄酸化物もいっしょに紹介します。
窒素酸化物は主に燃焼時に燃料に含まれる窒素成分または空気中の窒素が、酸素と反応してできた物質でいろいろな種類がありますが、問題になるのは一酸化窒素(NO)、そしてそれが酸化されてできる二酸化窒素(NO2)です。燃料由来の時はFuel NOx、高温発生の場合はThermal NOxなんて言いますね。
硫黄酸化物は石油や石炭を燃焼した時に燃料の中に含まれる硫黄分が酸化されててきたガスで、一番問題になるのは二酸化硫黄(SO2)です。
<環境や人体への影響>
窒素酸化物も硫黄酸化物もともに気管支に影響を与えて喘息の原因となったり、一時期話題となった酸性雨または酸性霧、あと光化学スモッグの原因となっており、「毒ガス」というほどではないですが、人間の健康に悪影響を与えることは既に確認されています。例のPM2.5の原因物質はこの二つがほとんどではないかとも報告されています。
窒素酸化物も硫黄酸化物も、ともに過去には公害の大気汚染物質として悪者扱いされていました。古くは足尾銅山の銅製錬で石炭を燃やした時に発生した煙や、煙によってできた酸性雨に含まれる硫酸が周囲の山林を枯らしたとか。
画像は1998年に私が現地に訪問した時のものです。足尾銅山が閉山したのは1973年、画像ではわかりにくく恐縮ですが、影響がいまだに長引いて木がなかなか成長しないとのこと。
高度成長期には、工場のSO2を含む煙により四日市や川崎などで深刻な喘息を引き起こしたことがあります。これがかなりの社会問題となったことから、大気汚染防止法の成立(1967年)により規制され、脱硫技術の導入や低硫黄燃料の採用により、ほぼ解決を見たと思います。
いまSO2が問題になっているとすれば、火山と某国の越境飛来(笑)でしょうか。日本国内での火山は桜島、三宅島、浅間山の三つの地域で二酸化硫黄の発生量が多いらしいです。
浅間山の近くの地域、例えば軽井沢は一年を通じて湿度が高い(=酸性霧が起きやすい)こともあってか、子供の喘息が多いという話をちらほら聞きますが、どうなのでしょうかね。二酸化硫黄濃度と成人と新生児の気管支炎疾病率とは正の相関が見られるとの報告があるので、おそらく事実と思われますが、推測の域を出ません。
一方、窒素酸化物の方ですが、割と身近に発生源があり、すっかり有名となってしまったディーゼルの他に、ファンヒーターや石油ストーブや電気ストーブといった開放式暖房器具や調理器具などからも結構出ますね。ある報告ではファンヒーターを使い続けて換気をしないとNO2濃度が1ppmを超えたとか。大気環境基準は0.04~0.06ppmですけど....。
あとはタバコや野焼きです。これも結構な量のNO2を排出します。タバコの燃焼している部分は600℃を超えていますので、窒素酸化物が発生してもおかしくないです。煙には高濃度のNO2が含まれている言われていますので、それをまともに吸ったら......ですね。
(2015.10.11追記)
参考までに東京都の環境白書2014からの引用ですけど、NOxの発生源の由来はこんな感じですね。
確かにディーゼルは多いのですが、工場や民生(要は家庭ですね)からも結構、出ているというのは確かでしょう。
<窒素酸化物はその辺に存在する>
このように、極端のことを言えば何かを燃やせばNOxが出ると言っても過言ではなく、それもあちらこちらで、それなりの濃度になっていることは否めません。VWの肩を持つわけではないですが、ディーゼルを規制するならば、他も規制すべきだというのはある意味、正論かも。NOxが健康影響を与えることはもちろんVWの方々も認識していたと思いますが、このような事情もあってか、甘く見ていたかもしれません。
しかしながら、米国のEPAなどが制定した法律を違反したことは(おそらく)事実。その責任はしっかり認識していただかなくてはなりませんが、これは技術的な話とは違いますね。
<エンジンの将来>
現在、ガソリンエンジンともディーゼルエンジンとも異なる、次世代のエンジンとしてHCCI(Homogeneous-Charge Compression Ignition:予混合圧縮着火)エンジンというものが、各社、もちろんVWも含めて開発中とのこと。このエンジンは窒素酸化物の発生はほとんどなくなると言われていますが、なかなか実用化されません。燃焼のコントロールが難しいとのことですが、おそらく寿命面の課題もあるのでしょう。
ウワサによれば、あのMAZDA社が次世代SKYACTIVとして、HCCIエンジンを近々発表する(かもしれない)と聞いていますが、さてどうでしょうかね~。
Posted at 2016/12/31 08:38:05 | |
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