Free As A Bird

「おーい」
新幹線の改札越しに手を振って見せた。
彼女の名前はユキ。会うのはもう何年振りだろうか？
「こっち暑いね！」
長い休暇を利用して北海道から本州へ遊びに来たのだ。
大勢の友人たちが彼女に会いたがっていたが、土曜の昼間に時間が取れたのはぼく一人。
こうしてお迎えに上がったというわけである。

事前に、
「どこか行きたい所はあります？」
とリサーチはしていた。彼女のリクエストは
「動物園」
とのことだった。
それならば、ということで、鳥が数多く放鳥されている動物園を選んだ。
園に入るなり、彼女は溌剌としてきた。
鳥とふれあい、写真を撮り、ほんとうに楽しそうな笑みを浮かべていた。
ひと通り遊んで、ぼくらは宿泊先へとクルマを走らせた。

宿に着き、一息ついて「少し電車で動きましょう」と提案した。
一瞬彼女は不思議そうな顔をしたかもしれない。
「行先は飲み物持ち込みなので、少しばかり買っていきますね」

電車で15分ばかり南へ移動しただろうか。
待っていたのは友人のサムライだった。
「よっ」
サムライの案内で向かった先はライトアップされた桜並木だった。
ユキから聞いたことだが、北海道ではソメイヨシノを見れない。
せっかく本州まで行くのだから、桜を見たい。
そう言っていたので、サムライとサプライズを組んだのだ。
夜桜を見ながら、3人のささやかな宴会は、話が弾み大いに盛り上がった。

そして、宿に戻ったのは日付が変わるくらいだった。
大いに遊んで疲れていたが、ぼくは不思議と寝付くことができなかった。
なぜ眠れなかったのか？今もって理由は分からない。
そのまま眠ることなく朝を迎えた。



ぼーっとした頭を振りながら次の目的地、サムライの庭へ向かった。
ここではドライブを楽しんだ。
さまざまなクルマやバイク、自転車が走りを楽しんでおり、それらを見ているだけで何か満たされるものがあった。
ドライブもそこそこに、再び。いや今度は別の動物園に。
この動物園は彼女にとっても、ちょっとした思い出のある園なのである。

しかし、走り好きなぼくらには併設されていた「レーシングカート」のほうが魅力的に映ってしまった。
園に到着し、仲間たちと合流するや否や「カートやろう」と皆を引っ張っていった。
カートももちろん盛り上がった。
そもそもクルマが縁の仲間たちである。
タイムに一喜一憂し、1回で終わるはずが2回も乗り、すっかり心地よい疲れとともにカートを終えた。
初めて乗る人もいる中（ユキとて例外ではない）、全員が「楽しかった」という感想を持ったのは、やはり走り好きだからなのだろう。
そして、お待ちかねの動物園タイム。昨日の鳥とはまた趣の違う、様々な動物たち。
久しぶりに回る動物園は、何かと新鮮な驚きを持って接してくれたような気がした。

楽しい時間はあっという間である。日が落ち始め、解散の時を迎える。
初めての時は泣いてしまってなかなか動けなかったっけ。
なんてことを思い出しながら、各々家路についた。
ユキはもう一泊するので、ぼくは彼女を宿泊先まで送って行った。
笑顔でお別れができた。

ユキに見送られたぼくは、少し遠まわりをして家に戻った。
胸の中に乾いた風が吹いているようで、ただただ走っていたかったのだ。
家に着き、到着の報告をすると、少しばかり疲れが出てきたようだった。
ユキから貰ったハーバリウムを眺めながら、いつか時間を作って北海道に行きたい。
そんなことを考えてしまうのだ。

fin