
V20系カムリ・ハードトップと言えば、海外ではその姉妹車である2.5Lのレクサス初代ES250(VZV21)がよく知られているかもしれない。しかし、今回紹介するのは、中国で今なお合法に走行可能な日本純正仕様のカムリ・ハードトップ・プロミネントG(VZV20)、高級感と性能を両立した名車である。
2000年代以前、中国には日本から多様なルートを経て右ハンドル車が大量に流入していた。当時、法律は右ハンドル車の走行を認めていたが、右側通行の交通環境に適合するため、輸入直後に多くの車両が左ハンドルへと改造された。とりわけトヨタ・カムリや日産・セドリックなどのプレミアムセダンは、専門工場で高品質な改造が施されることが多かった。これらの工場では、日本や香港の技術者による精緻な作業が行われ、元の豪華さを損なわない仕上がりが実現していた。当時の法規制は緩やかで、こうしたハンドル改造車は合法的に生まれ、広く普及した。
この状況は2000年9月8日に一変した。新規登録において右ハンドル車およびハンドル改造車が明確に禁止され、以降は左ハンドル仕様の正規輸入車のみが登録可能となった。これにより、中国のハンドル改造車は2000年以前に生産された車両に限定された。
↑これは当時、右ハンドル車およびハンドル改造車の登録を禁止した法規である。
時が経つにつれ、これらの車両はさまざまな要因で大きく減少していった。純正部品の入手困難、都市部の厳しい排ガス規制、車検の厳格な基準などが主な原因である。2020年代に突入すると、完全な書類を備え、合法に走行可能なハンドル改造車は極めて稀な存在となり、自動車文化の貴重な遺産として注目されるようになった。
↑合法走行可能のS150系クラウンHT ロイヤルツーリング(2023年撮影)
このV20カムリ・プロミネントGは、レクサスES250と姉妹車種であるが、両者には多くの違いが存在する。流麗なピラード・ハードトップデザインに、2.0Lの1VZ-FEエンジンを搭載し、車体の前後に「V6 FOURCAM 24」などのエンブレムが数多く配され、その独自性を際立たせている。さらに、ホイールデザインもより華やかなスタイルが採用されている。
今回紹介するこの車両は、広西チワン族自治区のナンバープレート(桂)を掲げ、特別な物語を背負っている。現在のオーナーである若い男性にとって、この車は父親からの贈り物だった。父親はかつてこのカムリを自ら大切に乗り続け、息子に譲る際、「この車の持つ情熱と歴史を継いでほしい」と願ったという。息子は今、父の想いを胸に、点検とメンテナンスを欠かさず、このプロミネントGを走らせ続けている。彼にとってこの車は単なる移動手段ではなく、家族の絆と自動車文化への敬意を体現する存在なのだ。
2025年となった今、このカムリ・プロミネントが中国の道路を走り続けている光景は、ある種の奇跡のように思える。老朽化と規制強化の波の中で消えていった多くの仲間たちを思うと、その存在自体が貴重な歴史資料と言えるだろう。
自動車は単なる工業製品ではない。その国の社会情勢、技術水準、そして人々の価値観を映し出す文化の担い手でもある。このプロミネントGのような「生き残った車両」は、中国自動車史の過渡期を語る上で欠かせない存在だ。今後も末永く保存され、次の世代へとその物語が伝えられることを願ってやまない。
今日もどこかの道路で、この銀色のセダンが静かに走り続けているかもしれない。もし見かけることがあったら、ぜひその姿を目に焼き付けてほしい。そこには、激動の時代をくぐり抜けた自動車文化の真実が宿っているのだから。
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ハードトップ車 | クルマ
Posted at
2025/04/14 17:17:41