午前零時、オレはいつものようにメインスイッチをONにしてエンジンに火を入れる。油圧1Kg/C㎡、エア圧8Kg/C㎡、アイドリング500rpm、第3ブレーキ解除。セコで発進、背中の25tの砕石が少し重い。しかし15tオバーぐらい大したことはない。
V12の355ps/2300rpm、最大トルク58Kg/1800rpmをもってすればたいしたことないものだ。オレの810スーパーは速い。噴射ポンプチューンをしてあるので灯油を使用しても、25t積んでゼロヨン加速39秒台で走る実力を持っている。
そして足回りは板バネをF・1枚、R・2枚追加して強化。ステアリングは4t用の48φ小径ハンドル、タイヤはTOYOラジアル10・00・20を10本履きブレーキにはエアマスター、こいつは25t積んで50Km/hでも150mで止まれる超スグレモノ。そして最後は120φゲンコツサイドマフラーだ。オレは栃木県は葛生の山の最速ダンプと呼ばれている。
午前4時、千葉で荷を降ろし、空車で帰るR16で、40t以上積める箱を付けた怪物ダンプのケツにつく。「あれっ?」良く見るとケツに〇〇〇〇〇〇とペイントされている。多摩ナンバー?...ヤツだ!こいつが噂に聞く〇〇産業ののなべ山最速のダンプだ。この〇〇産業のドライバーはハンパじゃないヤツが揃っているともっぱらの噂。なんでも、入社試験に10t車のスピンターンがあるとか。ちょうどいい、どっちが栃木最速か、白黒つけてやる。
わずかに右へ出て機会を伺う。パッシング2回、ヤツもすかさずハザード2回で返してくる。右ウインカーでGO!4速へシフトダウンして、アクセルべた踏み。たちまちメーターは45Km/h、5速へチェンジ、50、51、52....ところがスリップに入っているオレがじわじわと離される。速い!日野スーパードルフィンがこんなに速いとは!70Km/hで6速にチェンジ。80、90、95、100Km/h...。タコメーターは既に6速レッドゾーンに入っている。ヤツとの差は縮まらない。嘘だろう?たかが330psのドルフィンが、オレの810より速いなんて。
R4に入り、2車線の幸手バイパス。ここで抜かなけりゃ後がない。栗橋の先からは1車線だ。勝負は栗橋の直角右コーナー。ここにすべてをかけ、ブレーキングを遅らせてインをとる。それしかないだろう。栗橋まで残りわずか。オレはスリップから抜け出て右車線に出る。右コーナーが迫ってくる。我慢だ、まだ我慢。810スーパーとドルフィンのチキンレースだ。しかしインにつけたオレがはるかに有利だ。10本のタイヤが悲鳴を上げる。ヒール&トウで4速へ叩き込む。
ンッ?ヤツはまだブレーキングをしない?馬鹿な、曲がれなければガードレールを破って利根川へ真っ逆さまだ。と思ったその時、初めてブレーキランプがついた。ケツの8輪がロックして、白煙を上げてアるとに流れる。”やった”と思った瞬間にはフルカウンターが当たり、一気に向きが変わって脱出ラインに乗っていた。
4輪ドリフトならいざ知らず、10輪ドリフトをやるクレイジーがこの世にいたとは。いくらプロレーサーでも、10t車でドリフトは出来ないだろう。やられた。完璧にやられた。多摩ナンのドルフィンよ。だが次はないと思え...。
栃木県栃木市・葛生最速のダンプヤロウー