1月15日、この日オレにとって一生忘れる事とのできない日となった。
「スカイラインなんて重たいクルマで峠なんか無理だよ。」そんなオレの言葉にいつも笑顔で答えていたあいつ。
食事を終えた後あいつは峠へ、オレはゼロヨンへと向かった。そしていつもと変わらない朝を迎える。そのはずだった。 あいつが死んだ....。1月15日。
その日からオレのFXはエンジンがかかる事がなかった。「オレはもうステアリングを握れない」。でもあいつはあの峠でチャンプになるのが夢だった。それも今ではかなえられない夢....。
ようやく3ヶ月ぶりに4AGに火がついた。ターボを降ろし、SCを積み、オレは峠用に足回りを固めた。そして毎夜走り続けた。 ”あいつがかなえられなかった夢、オレが変わってチャンプを取ってやる!」
AE86,KP,Z,CIVIC,CR-X....。10ヶ月間オレの前には敵はいなかった。「おまえの願いがかなえたぞ。いや本当さ。オレがあの峠のチャンプなんだよ。信じられないか?じゃぁ今から見せてやる、一緒に来い!」
オレはあいつの写真をナビシートに乗せ、いつもの峠へと向かった。 ”峠に着くだろ、そうしたら缶コーヒーを買って、ギャラリーコーナーで、まずは他の奴の走りを見ながら一服するんだ。それから走りに出るんよ。その時のタバコが一番うまいね。”そんなあいつの言葉を思い出しながらオレはギャラリーコーナーへと入ってみた。一年前の今日...1月15日あいつがそうしたように。
タバコの火を消し、シートベルトを調整する。グローブに手を通す。あいつの写真を手に話しかける。「見てろよ、今からチャンプの走りを見せてやる」。あいつの顔は ”困った奴だな”と笑っている。油温、水温、油圧ともにOKだ。低いEXノートとタイプDの悲鳴を後にし、コースへと出る。タコは一気に7700rpmまで吹けあがり、セコにシフトアップ。迫るコーナーにセコ全開。クリアした後すばやく3速へ。軽いS字をチャイムの音と共に引っ張る。スピードメーターは120Km/hを指している。次のコーナー、ギリギリまでアクセルを踏みこみ、シフトダウン。激しいエンブレが心地よい。タイプDの叫びがいつもより大きく感じる。 ”どうだこれがチャンプの走りだよ”ナビに向かってオレは一人つぶやいた。
確固たる自信を持ってオレはこの峠のチャンプを自負していた。それを確信した時、バックミラーにヘットライトが映った。ほんの数秒前にオレがクリアしたコーナーを暴力的な速さで抜けてくる。スカイライン?RX-7?違う!その光はどんどんオレとの差を詰めて来る。凄いキャブサウンド!
ランタボだ! FXのテールにつかれる。パッシングの嵐、もの凄い威圧感。奴は今日までバトルした誰よりも速い!そしてオレよりも...
オレはハザードで応え、フルスロットル、反撃を開始した。あれから1年、あいつのために走り始めて10ヶ月。オレとあいつの名誉のために負ける訳にはいかない。オレの前を走るのは死んだあいつだけなんだ! SCの過給に酔って、バケットに押さえ込まれる頭の中で、その思いだけが渦巻いていた。
コーナーが迫る、激しい横Gがかかり始める。今まで感じたことのない恐怖感に体が震える。FXのボディーがきしむ。
”これ以上無理だ!”
アクセルオフ。鋭くタックインがかかり、テールが流れる。カウンターからドリフト。目の前にコーナーの出口。 ”クリアだ!” フルスロットルの加速Fがかかる。奴の姿がミラーから消えた。事故ったのか?
うそだろ? 今まで1番の走りをしたのに? なぜオレの前に奴のランタボがいるんだ? 頭の中が真っ白になっていく。コースが見えない。涙が止まらない。もうオレにアクセルを踏む力は残っていなかった。
その後オレはどう走ったのか記憶のないまま、一般道に出ていた。すぐにクルマを停め、ステアリングを握ったまま泣いた。あいつには見られたくなかった。オレはチャンプにはなれない....。
あいつの笑顔、あいつの癖、1年前の楽しかった日々、そんな事が頭の中をかけ抜けた。涙が止まらない。
どのくらい経ったのだろう? キャブサウンドでオレは我に返った。FXのテールに、さっきのランタボが止まっていた。オレは急いで涙を拭き、ドライバーに挨拶した。彼は爽やかな笑顔と共に右手を挙げた。そしてやさしい、本当にやさしい声で言った。「バトルに負けて泣けるくらいの思い込みがあるのなら、絶対キミは速くなれるよ!」オレに缶コーヒーを差出すと彼はすぐに走り出していった。
気持ちが楽になったオレは、グローブを外し、タバコに火をつけた。自分らしくないよな。クヨクヨして...。また努力すればいいじゃないか。いつかきっとあのランタボより速くなれるさ。いや絶対に速くなるんだ。
ドアを開け、あいつの写真を手にタバコを深く吸い込む。バトルの後のタバコが、1番うまくないか?