つい小一時間前から気になっていたことがあった.」耶末-几を告けることくスキール音が、レブリミットを忘れたかの様なエキゾーストノートが碓井の旧道の方向から妙義おろしと呼ぶ木枯らしに乗りここ、旧軽のヴィラにまで伝わって来る。仲間はみな、疲労からか寝静まっている。時は、日付を変えていた。
元ラリー屋として、峠へ来る都度眠れない夜を適こす俺は、仲間の寝言をよそにチェックアウトした。冷え切ったエンジンに火を入れると、アバルトのマフラー音が、晩秋の避暑地に木霊する。ヴィラの客人の手前、教会前でウォームアップする。冷気とバトルへの予感で、体が一貫える。缶コーヒーを胃に流し込み、旧道へ向う。
ストレート脇の駐車場には、10数台がアイドルしていた。カムギヤトレーンに改造した音を軋ませている86、キャブがシンクロしていないLメカ、ブレーキからスモークを焚くセリカ...。
ミッションとバレンチノにも似たトレッドパターンを温めながら下って行く。肩に力が入ってかリズムが合わす、枯葉は夜露を含んで、路面のグリップを妨ける.少しづつブレーキングポイントを奥に取って行く。八千ルーメンの光束が夜露をつん裂いて行く。エンブレと気圧のせいか、キヤプはブローバックしている。
フェードしたブレーキを労わり旧関所称で一服。イタルロッソに変色したローターに煙草を差しのべ、火をつけた...。
セルの音で撮り返ると、漆黒の闇の中に薄雲色のクアトロが身ぶるいしていた。クアトロが発進する。オレも後を追う。バイパス1コーナーで後につく。ヤツはムダのないラインでクリアして行く。視神経が切れそうなほど、強烈な減速Gと横Gで、サイド・バイ・サイドのバトルを展開する。しかト、アクセルを開けるタイミングが、ヤツの方が速く、前には出られない。
路面は、インターミディ、遠心力で振り出すテールをステアで修正しながら食らいついて行く。車の向きと、方向ベクトルの違いで頭が錯乱している自分を、遠目でもう一人の自分が見つめている。
短い直線の後、ヤツの進入速度が鈍った、路面は、氷菓状になっていた。オレはハーフスピン、ヤツは殆んどステアせすクリア。ローに叩き込み発進を試みる。しかし、雪の上をタイヤは虚しく空転をするのみだった。流れるテールランプは、白い闇に消えて行った。
自然を読めなかった元ラリー屋としての自分の悔しさよりも、熱いバトルができた悦びで不思議と平静だった。曲りくねった白銀のアイスアリーナをゼロカウンターで抜けて行ったクアトロの残像と睡魔の中に没入して行く自分...。
....その日、浅間測候所は、初雪を記録した。
1986初冬 アーク・エンジェル