その夜、これは家を飛び出し、バイクを峠へと走らせた。悩みがたくさんあった。
別れた彼女のこと、仕事のこと、バイクや車のローンのこと…いろいろだ。
そんなことを少しでも忘れようと、オレは走った。
愛車はスズキRG250Γ。2サイクル250ccながら、吸排気チューンで、1リットル200馬力、ゼロヨン12秒台という、4輪に負けないパワーを持っているのだ。
いつものコースを3、4回も走ったころ、ヤツは現れた。オレがそう気付いた時にはもう真後ろにいた。
ソアラ2800GT、光字式の33ナンバーが光っている。オレはローからクラッチを思いきり切り離した。
50馬力のエンジンに、わずか120kgの車体は軽々とフロントを持ち上げて加速していく。
そのすぐ後ろのタイヤを鳴かせながらソアラが続く。
フロントタイヤが地面につくと同時に、80キロを超えると赤く光る速度警告燈が光る。
ソアラはかなり後だ。メーターの針が140キロ示したころで右高速コーナーが口を空ける。
エンブレの全くない2サイクルのため、早めに減速をする。ミラーを見ると、ソアラはピッタリとオレに
つけていた。4輪と思い、油断していたからだろうか?
2輪対4輪の突っ込みでは4輪が有利だ。素案を背中に背負い、バイクを倒しこむ。皮ツナギの膝につけた空き缶が地面に接して、バンクセンサーとなって限界をこれに知らせる。まだソアラは貼り付いている。
コーナーのクリッピングポイントを超えてアクセル全開。いかに2800ccの排気量を持っていても、2サイクルの立ち上がり加速にはかなわない。
一気にその差は開く。しかしソアラはあきらめずについてくる。
オレのΓには軽4輪が一台買えるほどチューン費がかかっている。負けることはないだろうな。
軽いS字をソアラを抑えて走り抜ける。夏には夜でも走り屋や、ギャラリーでいっぱいのこの峠も、2月では四国といえども、寒くて誰もいない。
やがて目前には、名物コーナーの左のヘアピンが見える。これを過ぎると先にコーナーはない。勝負だ!
思った通りにソアラの方も突っ込みの甘い2輪にかぶせてきた。しかし、そのままの状態でヘアピンに侵入。
フルバンクになるためサイドスタンド、アンダーカウルが地面に接してアスファルトに火花を散らす。
クラッシュと紙一重で、コーナーを立ち上がると、同時にタイヤの派手に鳴く音。
ソアラはスピンしないまでも、ブラックマークを黒々とつけて横を向いていた。
オレが立ちどまると、ソアラのお兄さんは「参った、参った」を連発していた。
その後、しばらくパーキングで話をしたけど面白い人だった。
「今度は負けない、ツインターボだ!」と言って別れたソアラのお兄さん、元気ですか?
オレはあの峠で待ってます。
徳島県 T・G