かねてより高野山を通る周回ルートを開拓しようという計画はあった。
しかし生来のなまけ癖でなかなかその機会に恵まれないでいた。
そうこうしている内に日が過ぎ、今日ふとネットの環境から離れて小説でも読んでみようと思い、
高野山に行くか、近くの公園に行くか小一時間ほどさんざん悩んだ挙句、高野山に行く事に決めた。
ドライブを兼ねて読書に行こうと考えたのである。
正午過ぎには家を出て14時過ぎには高野山に入った。
それほど多くの観光客でごった返していたわけではないが、そのほとんどが白人で、日本人より多いのではいかと思えるほどであった。
世界遺産となった歴史ある都市に溢れかえった白人観光客によってどこよりもインターナショナルされているような、そんな感覚を覚えた。
さて、本命の読書であるが、ネット環境は無いものの、なかなか落ち着いて読書などできる場所は見つからない。
奥ノ院入り口付近のベンチをあてにしていたが、この時期になるとすでに虫が多くどうにもこうにも落ち着かない。
そこで快適な場所を探すべく散策するうちに16時を回り、休憩がてら適当な場所で30分程読書したが、ここでもまた周りが騒がしくなってきたのでその場所を立ち去った。
高野山内を歩いてみると、やかましいのは残念な事に日本人観光客で、歩道を塞ぐのもまた日本人である。
大層な気分に浸りながら散策していても、ここまでその教えを実践できないようでは、何も知らずにきっちりと一列になる白人観光客の方がよっぽど行儀が良い。
しかも中年の男に至ってはこちらが歩道の縁石に上って避けなければならないほど張り合うとするのであるから、始末に負えない。
壇上伽藍を参拝した後、奥ノ院の参拝を終える頃には18時になっていた。
どうせならこのまま夜の高野山を散策した後、例のドライブルートを開拓しようと、とりあえず腹ごしらえの店を探すも、大抵の飲食店はすでに閉まっている。
足もふらふらになった所で焼き鳥のにおいに釣られて入った店で食事を済ませ、夜の高野山内を徘徊した後、奥ノ院の山道(墓所)を目指す。
高野山内の寺院は100を超えるが、その半数が宿坊を兼ねており、宿泊する観光客が夜にも散策している。
というのも、夜でも山内のほとんどの寺院は門戸こそ閉じているものの、提灯や灯篭でライトアップされており、昼間とは異なる幻想的な雰囲気で満たされているのである。
そうして幻想的な寺院の門戸を眺めてあるく内、夜道を一人で歩く白人女性が目にとまる。
疲れた足に鞭打って追い抜き、結構な速度で奥ノ院を目指すが、先ほどまでゆっくりと歩いていた女性が同じ速度ですぐ後ろをついてくる。
現地の人間なら穴場を知っているとでも思われたのだろうかと妄想しつつ、奥ノ院の参道入り口に差しかかる。
奥ノ院の参道とはすなわち、樹齢100年はゆうに超えるであろう大木を縫う様に立てられた20万基に達する墓石が2kmの参道を埋め尽くす墓地であるが、その道は夜であっても左右の灯篭と街灯で明るく保たれており、恐怖を覚えるような場所ではない。
昼間は自然と古来から続く墓石の雰囲気によって荘厳な風景を醸しているが、夜は静かな暗闇の中、小動物や虫の声に彩られている。
犬の遠吠えも聞こえれば、赤子の鳴き声のような動物の声も聞こえる。木々の話し声のように聞こえる音は、どうやら啄木鳥のようである。
ちょうど、映画「ハリーポッター」の夜の山を思い浮かべるような雰囲気である。
明りの無かった時代の人々はこんな小動物の音を聞いては恐怖し、今の時代に妖怪として伝わっているのだろうかと思いを巡らせる。
後ろに居た女性は、入り口を入った所で引き返してしまったようで、なんというところに案内してくれたんだとでも思われたのだろうかと、これも妄想しつつ参道を進む。
時間は20時を回っているが、このくらいの時間帯であれば人はまだ多く参拝しており、宿坊の幾らかは夜の奥ノ院参拝ツアーを行っているようである。
という私もその情報を見て行ってみようと思ったわけである。
昼間と同様、ほとんどが白人であるが、日本人のツアー客も見られる。
小言のようであるが、戦国武将の墓所の前で説明を受けながら、やはり参道全体に広がっていて、案内する僧侶が端へ避けてくださいと言われるまで避けないのは日本人のツアーである。
少し進むと、僧侶が流暢な英語で説明する同じような白人のツアーに出会ったが、こちらはというと避けてもらう必要は無く、あらかじめ参道の片側に寄って説明を聞いているのである。
さて、夜の奥ノ院の参拝を終えてドライブルートの開拓に行くわけであるが、あらかじめそのルートは目星を付けてある。
龍神スカイラインを龍神温泉の方へ走り、そのまま日高川沿いに海南を目指し、そのまま海南から和歌山市、岩出市を抜けて大阪府に向かうルートである。
このルートは以前より肝試しを兼ねて夜間にドライブしたいと考えていたルートであるが、どうも空が晴れて満月が近いせいか、結構な明るさで怖さが無い。
龍神スカイラインは夜間でも天体観測のスポットとしても有名であるが、やはりその情報通りに天体望遠鏡を上げる車がちらほら見られた。
そうこうしている内に、21時を回る頃には「ごまさんスカイタワー」に到着した。
手さぐりでタワー付近の電灯の無いお手洗いで用を足し、今度は龍神温泉、日高方面へと車を走らせる。
怖いと言えば、車に併走する鹿や、道を塞ぐこれまた鹿である。いったい何頭の鹿に出会ったかわからない。
鹿肉を追う狩人が居れば、これほどの狩場は無いであろうという程である。
月光を映し出してほのかに輝いている日高川沿いに車を走らせ、2時間もしないうちに市街地に出る。
ここまで来ると、もはや山中の快適なドライブでなくなり、日高川町から海南、和歌山市、紀ノ川周辺岩出市と市街地を通るルートとなる。
無駄な出費を避けるべく高速は使わずに走ってきたので、22時、23時といえど交通量の多いストレスフルな道を走る事となる。
今回試した周回ルートではもっと遅い時間帯の方が快適かもしれないが、逆に山中は昼間の方が走り甲斐がある。
周回せずに引き返しても良いが、やはり周回ルートでないとどうも萎えるというのもある。
難しい所ではあるが、ナビには頼らずに別ルートを模索するのも良いかと考えている。