日産の2024年度営業成績はとても厳しく、営業利益は
前年度比90%減というひどい状態です。国内でもあまり新型車は出てきてなくて、「売れる車がない」とか「もっとフルモデルチェンジした車種を出すべきだ」という声があるそうですが、実のところ、
日本国内よりも、北米市場のテコ入れをしないと全くダメな状態にあります。
財務データを覗いてみるとFY23年度の日産の販売実績はこういう感じになってます。
万台 兆円 (売れ筋)
日本: 48.4 1.94 (ノート、セレナ)
欧州: 36.1 1.64 (キャッシュカイ、ジューク)
北米: 126.2 6.59 (ローグ)
中国: 79.9 1.50 (セルフィ)
他: 54.0 1.02 (ジューク)
https://irbank.net/E02142/region
https://www.nissan-global.com/JP/IR/PERFORMANCE/
https://global.nissannews.com/en/releases/nissan-production-sales-exports-mar-2024
日本や欧州の販売台数と、北米の販売台数の比率は、
3倍くらい違います。いま市場は飽和しているので、国内の販売台数が明日から2倍になる、なんてことはありません。せいぜい、1割~2割増しでしょう。
つまり、北米での90%の営業利益の落ち込みを、国内の新型車投入で回復するのは不可能です。中国は中国ベンダーが割拠していて、VWグループですら大幅な売上減に見舞われてます。
北米市場に、
販売奨励金を出さなくても売れる魅力的な新型車を投入して、利益率を上げるしか手がないのです。
でも北米市場での問題は、
① 北米では最低でも
4気筒、2~2.5L エンジンでないと売れない
② ハイウェイを75mph (120km/h) で 130マイル (209km) 走破できる性能
③ 1回の給油で 400-500マイル (640km-800km) 走破できる燃費
④ ①~③の性能を持つ HV か PHEV
の車を、
日産は北米に投入できていない、という点にあります。
IRレポートから
北米で一番売れている車はローグ(北米版エクストレイル)です。先代のT32は「4気筒、2.0Lエンジンの四駆車」で販売好調でしたが、現行版のT33/ローグは「3気筒、1.5L-VCR」で全く人気がありません。(無理やり販売奨励金を出して在庫を投げ売りしている状態)
そうなると、T33/ローグの替わりとして
・4気筒、2-2.5L エンジン
・HV
・75mph走行で高速走破できる性能
をもたせる車を大急ぎで投入する必要が出てきます。
どういったパワートレインが考えられるのか? 考察してみました。
取りうる手は
(A) 三菱アウトランダーPHEV を完全OEMで販売する
(B) 三菱からアウランの「エンジン+直結機構」を技術供与してもらう
(C) 三菱からアウランの直結機構のみ技術供与してもらい、自前の2Lエンジンを接続して高速直結型のe-Power(HV)を開発する
(D) ホンダのZR-Vで使われている4気筒/2Lエンジン(L15C)+高速直結機構を技術供与してもらう
の4つです。1つずつ考察してみます。
(A) → 最もコストと時期を抑えて、25年度上期から投入可能な手立てです。
OEMは良くとられる戦略で、トヨタのルーミー、スバルのジャスティは、全てダイハツ「トールのOEM」です。日産&三菱アライアンスがあるので、アウランPHEVのフロントグリルをちょこっと変更して、日産の新型車(またはローグのPHEV版)と名前を変えて販売すれば、すぐにでも北米に4気筒/2LエンジンPHEV車として投入できます。
ただし、PHEVは高額なので一部の消費者層しか買えないことと、アウランPHEVは高速燃費が16.4km/lと、日本版エクストレイルの高速燃費(19.7km/l)より全然悪い、という問題があります。これだけでは北米市場が戻るとは思えません。
(B) → アウランPHEVのプラットフォームは日産が開発したエクストレイル用プラットフォームを使っているので、T33にアウランのパワトレを移植する場合の親和性は高そうです。ただし問題は、
・アウランPHEVのエンジンは98kW(133PS), 195Nmしかなく、とても非力
・非力なエンジンではハイウェイ走破性能をウリにできる魅力がない
・T33の10倍の容積が必要なPHEV用バッテリをT33の床下には配置できない
という点があります。
国内版エクストレイルのVC-turbo(KR15DDT)は106kW(144PS), 250Nm、ホンダZR-Vの4気筒/2L(L15C)は104kW(141PS), 182Nmです。アウランのパワトレを苦労して導入しても、非力で魅力がないエンジンでは市場に受け入れられず、選択肢には残らないと思います。
(C) → 北米市場で必要なのは「高速時にはエンジン走行できる直結機構を持つHV」なのでかなり有望です。ただしいま日産で使える「4気筒、2Lエンジン」は
a. エルグランド、キャラバンで使われている QR20DE / QR25DE
b. セレナで使われている MR20DD
しかありません。QR20系は古いエンジンで採用するメリットが無く、後継機種の MR20DD(T32型ローグでも使われていたもの)を使うしかありません。
問題は、開発・検証期間が取れるかどうかです。三菱から直結機構の供与を受けても、それを日産のMR20DDに接続した際の強度、性能、品質面で問題が起きないかをつぶさに検証する期間・労力・投資が必要になります。また、ジェネレータ類が違うので、バッテリーへの蓄電や供給のアルゴリズムも1から作り直すことになります。
さらに、直結機構は後段のジェネレータ・駆動モーターと「セットになった一体型ブロック」として作りこまれているので、同時に三菱製のジェネレータ&駆動モーターを使わなければなりません。日産は初代リーフより20年以上モーター技術を磨いており、はるかに高い性能を持っていると思いますが、一体型ブロックに組み込まれたモーターだけを日産製に置き換えるのは困難です。
直結機構だけを使い日産のジェネレータ&モーターと組み合わせたパワーユニット・ブロックを、鋳造から何から新規開発するだけの「時間的余裕」もないと思います。
日産が得意とするモーター部分は使えないので、車としての魅力はかなり下がることになりますが、市場投下までの期間を考えると三菱製のモーターを使わざるを得ない気がします。
(D) → トータルパワーユニットとしては最も性能が高く、魅力ある車になる可能性が高いです。
ただし、ホンダとの経営統合は「検討の話」が始まったばかりで、実際に技術供与が始められるわけではありません。恐らく、2026年に経営統合し、技術統合が始まるのは2027年以降になると思います。(D)案は現実的ではないでしょう。
まとめると、まずは「市場への投入時期を最優先」で考えるでしょうから、
①25年上期:
(A)案のアウランPHEVのOEM版を、北米向けの新型車として投入する。並行して(C)案を開発する。
②25年下期:
(C)案を 日産:MR20DDエンジン + 三菱版直結機構・ジェネレータ・駆動モーター で開発し、T33型ローグへの第3改良モデルとして投入する。
という手をとるのではないでしょうか。
日本国内では e-Power というブランドがあり、わざわざ直結機構を備えたエクストレイルを出すとは思えないので、あくまでも北米向けのパワートレイン、ということになると想像してみました。
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2025/01/15 15:15:56