ホンダと日産の協議が破談になり、あちこちで「日産 e-power は
高速燃費が悪い」という話がひとり歩きしています。
プライド傷つけられた「技術の日産」(読売新聞, 2025/2/17)
記事の多くが、「モーターは低/中速ではトルクフルだが高速走行は効率が悪い」「ガソリンエンジンは高速走行では効率が良い」という「定性的な特性」を論拠にして、「全車速域でモーター走行している日産e-power車は、高速走行の燃費がとても悪い」というストーリーになってしまっています。
一方で、ホンダ e:HEV は「高速時にエンジン直結走行になるので、燃費がとても良い」という、これまた定性的な特性を論拠としたストーリーを多く見かけます。
エクストレイル/T33に実際に乗っていると、郊外では18-19km/lのところ、高速だと16-17km/lになるのは確かですけど、そこまで
批難されるほど「高速燃費はとても悪い」ものなのでしょうか?
数字で紐解いてみたいと思います。
エクストレイル/T33/4WDの諸元はこうなってます。
・郊外WLTC:20.5 km/l 高速WLTC:18.3km/l →
悪化率 10.7%
・エンジン(1.5L,3気筒):106kW (4400rpm)
・車重:1880kg
ホンダZR-V/Z e:HEV (4WD)はこうです。
・郊外WLTC:23.9 km/l 高速WLTC:21.1km/l →
悪化率 11.7%
・エンジン(2L,4気筒):104kW (6000rpm)
・車重:1630kg
全体通して ZR-V は T33 より 1.15倍 燃費が良いですが、
車重が 250kg も違うので、その差が燃費の差として出ていることもあるし、そもそも、ホンダのエンジンは高熱効率で性能が高い、ということかもしれません。
郊外モードは両車ともシリーズ式(エンジンで時々発電+走行はモーターのみ)+適度に回生が効いている状態です。一方、高速モードは、T33は常時発電+モーター走行。ZR-Vは常時エンジン走行。なので、郊外モードと高速モードを比較すると違いが出てくるかと思ったら…
「
郊外→高速 の燃費悪化率」を見てみると、モーター走行のT33は 10.7%、エンジン直結のZR-Vは 11.7% となっていて、むしろ、
エンジン直結の ZR-V の方が高速時の燃費の悪化は大きいということになります。
もう1つ面白いデータを紹介。
燃料(ガソリン)が持つエネルギーを100とした場合、一般的には
・熱損失=63、内部損失=11、軸出力=26
・軸出力26 - ミッション等損失:10 → タイヤで使えるエネルギ=16
というエネルギー収支になってます。
一方、発電機(ジェネレータ)のエネルギー効率は95%、高速回転時のモーター効率は 80% (損失20%) といわれているので、
・軸出力26 × 95% = 発電エネルギー 24.7
→ タイヤで使えるエネルギー= 24.7 × 80% = 20
となります。
つまり、エネルギー収支的には
エンジン直結だと、100のうち走行に使えるエネルギーは 16
モーター走行だと、100のうち走行で使えるエネルギーは 20
となり、
「同じ回転数で同じガソリン消費量」であれば、
a) エンジンを直結して走行するケース
b) e-power で常にエンジンを回して発電しながら走行するケース
を比較すると
エンジン直結の方が損失エネルギーがわずかに大きい。まぁ、理論値なので、事実上、どちらも燃料から取り出せる走行に使えるエネルギーは
ほぼ同じということになります。
無理して直結機構を設けても、理論的には取り出せるエネルギーが同じなのだとしたら、モーターのみの走行メカニズムの方がよりシンプルになります。
ではどうしてエンジン直結で高速走行すると燃費が良いとされているのか?
1つは、高速走行時に「エンジンを定速で維持」している時には、
燃料が希薄でも車軸からの入力もありエンジンを回し続けられます。高速走行を定速キープするだけなら、希薄な燃焼ガスでエンジン回転数はキープできます。
実際の道路ではアップダウンがあり、下りはアクセルを緩めて(希薄な燃焼ガスで)走行できるので、事実上の燃料消費量は抑えられるということなのでしょうね。(常時モーター走行だと下りでも高速度を維持するためにモーターを回転させ続けないといけないので電力は消費し続けます)
もう1つはイメージですよね。ガソリン車は低・中速域より、高速道を定速走行している方が「実燃費は良い」ので、その印象がずっと残っている、ということもあるのでしょうね。
数字を見ると、
エクストレイル/T33の高速時燃費悪化率は、批判されるほど悪くはないと思います。ただ、カタログ値(18.3km/l)が同クラスの他車よりも低いために、評価を損しているのではないか、と思います。
例えば、T33よりほんの一回り小さく、サイズ的には ZR-V とほぼ同じになる、日産欧州でのみ販売されている「
キャシュカイ (Qashqai)」は、
・Qashqai/2WD/e-power: 1665kg, WLTC=
22.7km/l
・ZR-V/Z/2WD/e:HEV:1580kg, WLTC=
22.0km/l
となってます。
ほぼ同じ重量、同じサイズ感なら、常時モーター走行のe-powerでも、実はWLTCはほぼ同じ、ということですね。
ホンダ ZR-V/e:HEV は燃費が良い、といわれているのは、エンジン単体の熱効率性能がとても良いから、ということと、車重を軽く作れているから。それと何よりも、燃費カタログ値のアピールの仕方(マーケティング)が良いからなのかもしれません。
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Posted at
2025/02/18 18:01:51