
ALPINA D5 TURBOを前に清水の舞台に立ったあの日から10年、いまふたたびALPINA B4グランクーペを前に清水の舞台にいます。
憧れのALPINAはあのとき最初で最後のはずでした。
ただのサラリーマンが1度でも手にできたらきっと幸せな人生と言えるほどの車、そう思っていました。
そして同時に、私がALPINAに乗ることになるとは人生わからないものだな、とも。
それなのにまた舞台の縁で恐怖に怯えながらここにいるいきさつを、綴ってみることにしました。
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まずは、やはりここが出発点でしょうか。2022年の春に発表された、ALPINAブランドのBMWへの譲渡とBuchloeでのALPINA車の新規生産の停止です。
2025年の末をもってブルカルト・ボーフェンジーペン氏が志向(嗜好)したクルマづくりは終わりを告げることになります。
その報を受けたときは衝撃が走りました。
そして清水の舞台で誓った、最初で最後のALPINA 、D5 TURBOはこれからもずっと大切にしていこうと、決意を新たにしたのでした。
それなのに…、あれはやっぱりしてやられたのか?
D5はその後もいたって穏やかで力持ち。日々の生活に寄り添うような存在でした。
ただ少しずつ健康診断で細かな指摘を受け、メンテナンスが必要になり始めました。
そんなことをたまにおじゃまする青山ショールームの担当さんと話していたところ、近日中に価格改定が予定され、生産枠の埋まるペースが早くなっていることが知らされました。
B3のような人気モデルは最短でも1年半先、納車まで2年かかるとか。
とても買い替えなど無理と思いながらも、D5はその時点で8年、この先やむなく手放すようなことになれば、もう純血のALPINAは手に入りません。
そこでどうにか手の届きそうなD3sとD4sグランクーペを検討することに。
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これまでも、ありがたいことにALPINAのニューモデルが出るたびに試乗をさせていただきました。

D5s Limousine

XD3

B3 Limousine

D3s Limousine
でもD5をとても気に入っていて、それほど新しいモデルに気持ちが動くことはありませんでした。
D5に初めて触れた日から今日に至るまでの10年間、その素晴らしさは少しも失うことはありませんでした。
むしろクルマが高度に制御されるようになる中で、D5は味わいや深みといった魅力がますます増していったように思います。
優しく包み込むような力強さ、大人の落ち着きをもつエクステリアとインテリアが、日々の生活に力と安らぎをもたらしてくれました。
そのため一世代分の進化に目を見張りつつも、最新のALPINAたちをどこか遠い目で見ていたのです。
それが突如、現実感をともなって新しいディーゼルモデルを見始めると、紛れもなくALPINAなのに試乗のたびに心に引っかかるものが。

D3s Touring

B3 Touring
5シリーズベースのALPINAが纏う雰囲気や余裕を諦めなくてはいけないことはわかっていました。
ただ、以前に後継G30のD5sを試乗したときにも、似たような印象が残ったことが思い出されました。
その要因は初めわからなかったのですが、最終的にはエンジン音に行き着きました。
新型車に乗るたびに音振面の改良を感じさせ、これほど静かで振動のないハイパフォーマンスディーゼルはALPINAにおいてほかになく、まさに当代随一、唯一無二のディーゼルエンジンと言っても過言ではないでしょう。
そう思いながらも、なぜか私はF10のD5のエンジン音に強く惹かれるのでした。
それはN57型とB57型+48Vマイルドハイブリッドの違いによるものか、吸排気系の変更によるものか、素人の私にはわかりません。
その後も心のDPFはいつまでたってもモヤモヤをクリーンにはしてくれませんでした。
🚙 🚙 🚙 🚙 🚙 🚙 💨
ここまででおわかりと思いますが、冒頭の記載は間違いではありません。私は愛してやまないALPINA Dieselではなく、ALPINA Benzinモデルを選ぶことに決めたのです。
正直迷いました。宗旨替えと現実的な懐具合に・・・。
どれだけ費用がかかろうと、愛するD5をネオクラシックになるまで乗り続けるか、一度ALPINAに乗ったのならガソリンエンジンも知ってカーライフの幕を閉じるべきか。
ALPINAのガソリンモデルとディーゼルモデルの違いを数少ないメディアから探ってみても、評論家諸氏の書くALPINAの記事と自分の印象が合わないことが多く、あまり参考にはなりませんでした。
松任谷さんがCGTVで語ったようにALPINAを言語化するのはとても難しく、やはり自らの感覚に合う人だけが乗る車なのでしょう。
最後はただ自分の心にしたがうだけ、そんな当たり前のことにあらためて気づかされました。
それでも悩み、逡巡していた時、それは青山ショールームで起きました。
未だ決心がつかず青山ショールームをあとにしようとしたとき、紅に染まった見馴れない車がスーっと現れました。
すでに外は暗くなっていて一見して何のモデルかわかりませんでした。ただよーく見ると、あの顔!です(笑)
そしてエンジンルームを覗くと、まさしくB4グランクーペの証が!
「これはどうしたのでしょう」という私の間の抜けた問いに、担当者の方も「私も聞いてないのですが…」とぽつり一言。

B4 Gran Coupe

ALPINA ドーム・バルクヘッドストラット
実際は、試乗車として日本に入ってきたばかりのB4グランクーペをメディアに貸し出すため配車されたタイミングだったのです。
そしてこれがまたNicoleさんらしく、「よかったらどうぞ、乗ってみてください。」
これは、本当にたまたまだったのか、それとも、いつも温かく迎えてくださる青山ショールームのスタッフさんの中に、策略家や演出家がいるのか、その真相は今もわからないままです。
ただこうして、私がB4グランクーペをオーダーするに至ったわけですからNicoleさんにすれば、作戦?は成功裡に終わったということでしょうか。
これもまたアルピナ・マジックということにしておきます(笑)
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B4グランクーペは予算の上でも大きな決断となりましたが、数度試乗してみて感じたのは、自分にとってD5 TURBOの後継にふさわしいというものです。
当然、顔にはじまり(何度もすみません)、何から何までが違います。
ただ加速フィールやエンジンサウンドがD3sやD4sグランクーペよりもD5からの連続性を強く感じさせたのは大きいです。
それはないだろうと言われそうですが、低回転域からよどみなく、そして気持ちよくスピードを上げていく様は、ベースエンジンはM4と同じS58型であっても、ALPINAが仕立てると別物になることの証左でしょう。
先の松任谷さんとカーグラフィックOBの斉藤さんによるCGTV:B4グランクーペの回(No.1901)は、昔風に言えばテープが擦り切れるくらい観ました。
冒頭のALPINAらしくないから始まり、でもやっぱりALPINAでしかない、に至るまでの2人のやり取りひとつ一つに頷いていました。
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D5 TURBOは乗る人すべてに深い満足をもたらす車です。
B4グランクーペになることで私にとっては諦めなくてはいけないものもあります。
ただこうしてALPINAが大きな変化を迎えるいまこのときに、ブルカルト&アンドレアス・ボーフェンジーペン親子2代にわたるALPINA物語に、自分がほんの少しまた新たなページを刻めると思うと、心はとても晴れやかです。
この先、D5 TURBOからバトンを受け、B4グランクーペは私の心にどんなエンジンサウンドを響かせてくれるでしょう。

ALPINA D5 TURBO(2014~2024)