993の生産が終了した1997年、従って丁度一昔前迄の話ではあるが、世の中の変わらないものの象徴として、コカ・コーラのボトルとポルシェ911のデザインが良く挙げられた。前者の登場は1886年で、後者は1963年。不変の歴史はいささかコカ・コーラに分があるようだが、この様なフレーズがしばしば引用されていたのは事実である。この事実は果たしてポルシェの何を裏付けるか。つまり、1963年にフランクフルトショーでセンセーショナルなデビューを飾った"901"の基本フォルムやレイアウトは、34年間という途方もない時間の中においてそれぞれの時代における社会的な背景、あるいは営業的な要求に応え続ける事を可能としたということに他ならない。そして何よりも感服させられるのは、そのたった一つのプラットフォームをポリシーとして延々と練り上げ続け、その間、世界有数のスポーツカーメーカーという地位を一度も揺るがした事はない。もはや開発者の信念という言葉だけではポルシェAGのマインドとこの歴史を理解する事は不可能である。
993をドライブしている際、ときどきそんな歴史を肌で感じる事がある。それはあらゆる事象において体感出来る要素であり、僕の稚拙な表現力ではとても伝える事が出来ないが、911(901)の開発者達のスタンスが30年間以上変わらずに伝承され続け、確実に次の世代受け継がれている。これが五感に伝わってくるのである。どのポルシェに乗っても、それがボクスターであれ、カイエンであれ、それはまぎれもなくポルシェだと感じる事が出来る。これがイイ。使い捨てのライターとか傘とか、多くの刹那的な産物が生まれていく便利だけどつまらない時代にあって、ポルシェが必死で守り続けてきた変わらないスタンス。993にはこれがまだ色濃く残っている。だからイイ。