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在来線の跨線橋は空に駆け上がるスロープのようだ。
この跨線橋を越えると海が見える。街の向こうに見える海はいつも違う色をしていた。
海が見えた時、彼は何かが分かるような気がした。彼はここから見える海が好きだった。

手前の交差点から道路は一気に跨線橋に上り始める。この交差点はいつも混んでいる。
信号待ちの列を追い抜き、青信号に変わるのに合わせて交差点に入り、アクセルを全開にした。
坂を上り、周りの家の屋根が見え始め、街全体が見渡せるようになるとその向こうに海が見える。

今日の海は穏やかだ。跨線橋の頂上で少しスピードを緩め、海を見ながらゆっくりとスロープを下る。


　　　　　・・・そういえば、海が見えると
　　　　　　　　　　必ず「 海だ 」って叫んでたっけ・・・


海は一旦見えなくなるが、その辺りからは街の匂いに混じって、潮の匂いが感じられるようになる。
海が近いと実感する瞬間だ。自然とハンドルを持つ手にも力がこもる。

スロープを下りきった二つ先の交差点の角にあるコンビニの駐車場にバイクを入れる。
ここのコンビニに寄るのもいつもの定番だった。いつもここで飲み物を買い込む。
お手製の昼食がない時は、ここで弁当を買うこともあった。お菓子を買ったり花火を買ったり。


　　　　　・・・ずっと走りっぱなしだったからな、喉が乾いた・・・


一気に走れない距離ではなかったが、いつもは何カ所かで休憩を取りながらだった。
今日はここまで走り続けていた。早く海が見たかったからかもしれない。何かに追いかけられているような気がしていたからかもしれない。バイクのスタンドを立て、エンジンを切る。ヘルメットをミラーに掛けるとまた昔を思い出した。

一度だけ二人でバイクに乗って海に来たことがあった。彼は後ろに人を乗せて走るのが嫌いだったから、その時だけが特別だった。その時も今日と同じコースで海に向かい、同じように跨線橋を越え、このコンビニに寄った。二つのヘルメットを両方のバックミラーにかけると、ミッキーマウスの耳のようだとはしゃいでいた。


　　　　　・・・昔のことばかり思い出す・・・


忘れようとしている訳ではなかったが、これほど気持ちに引っかかるとは思っていなかった。