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イイね!
2018年02月02日

眼鏡が光線を

ったやおへんか。あ、合わせ鏡するって約束やったやないかっ。そやのに、合わせ鏡、してくれへんかった……。ひどいひどいっ、鬼やーっ、悪魔《あくま》やーっ。恐《おそ》ろしいっ!!」
「よくもそんなことが言えるわね。あんたのおかげでひっかきまわされて大変だったのよ」
 すごんでやると、デビルベアは、ガタガタとふるえ始めた。
「ひーっ、ひぃ……、ひぃ……」
 ぬいぐるみの黒い瞳《ひとみ》が濡《ぬ》れ、米粒《こめつぶ》のような涙《なみだ》がポロポロと噴《ふ》きこぼれる。
 あわれっぽい様子がおもしろく、もっといじめてやりたくなる。
「怯《おび》えているわね。君、ほんとうに悪魔?」
「悪魔どすがなっ! ワシにはすごい魔力があるんどっせっ!」
「私がいなきゃ、魔界に帰れないくせに?」
 デビルベアはぐっとつまった。
 子供がよくするように、手の甲《こう》でキュッと涙を拭《ふ》くと、甲高《かんだか》い声で叫《さけ》ぶ。
「も、もうよろしおまっ! ひっ、ひとりで帰りまっさ!」
「わかったわ。勝手になさい。合わせ鏡してあげるつもりだったのに残念だわ」
 ゆり絵はつんと顎《あご》をあげると、デビルベアに背を向けた。
「時の潮が満ちるときっていうの、明日の朝にやってくるんでしょ? 君をいったん帰らせてあげて、検査入院が終わってからもういちど来て貰《もら》うつもりだったの。でも、ひとりで帰れるんなら、私が心配することなかったね」
 デビルベアは、あ、とちいさな声をあげ、とりすがる表情で、詰め襟の背中に向けて片手を伸ばした。
 苦しそうな表情を浮《う》かべて顔を背《そむ》けると、ちいさな手をきゅっと握《にぎ》る。ほんとうは呼び止めたくてならないのだが、必死で我慢《がまん》しているという雰囲気《ふんいき》だ。
「ゆり絵はんなんか嫌《きら》いやぁっ!!」
 デビルベアは未練を断ち切るように勢い良く飛びあがると、空中でふっと消えた。
それより少し前——。
 ひとりと一|匹《ぴき》が校舎裏で起こしたいさかいを、じっと聞いている人物がいた。
 古泉《こいずみ》麻子《あさこ》、三十|歳《さい》。保健室の主である。
 ストレートの黒髪《くろかみ》を後頭部で結わえ、銀縁《ぎんぶち》の眼鏡を掛《か》け、白衣を着ている。
 顔色が冴《さ》えず表情が乏《とぼ》しいのは、眼鏡が光線を跳《は》ね返して白く映り、瞳が隠《かく》れてしまっているせいもあるのだろう。
 白衣はどこかくたびれて、全体に覇気《はき》のない印象だ。
 養護|教諭《きょうゆ》である彼女は、机に保健日報を聞いて目を落としている。
 だが、あまり真剣《しんけん》に取り組んでいない様子で、書類の上でペンを指先で玩《もてあそ》んだり、マグカップのコーヒーを飲んだりしている。
 いつ生徒が入ってくるかわからないから、くつろぐときでも仕事をしているポーズを崩《くず》さないのが、養護教諭のたしなみだ。
 だが、彼女はくつろいではいなかった。むしろ、ヒリヒリした緊張《きんちょう》感を全身に漂《ただよ》わせている。
 彼女が視線を向けるのは、保健室には必ずある洗面所の大きな鏡だ。高い位置にある窓の外の様子が、はっきりと映っている。
 はじめはキラキラする光が動いた。何かなと思って見ていたら、空中にクマのぬいぐるみがあらわれた。
 空中にふわふわと浮かんでいるテディベアを、誰かの手が捕《つか》まえる。
 クマのぬいぐるみの声なのか、甲高い声が、少年と会話している声が聞こえてくる。
「ワシ、ワシ、あんたはんの望み、叶えたったやおへんか」
 ——また出てきてくれたのね。望みを叶えてくれるぬいぐるみが……。
 麻子は気配を殺し、じっと耳を澄《す》ましている。
 男子生徒とクマのぬいぐるみが、おしゃべりをしている声は何度も聞いた。はじめて見たときは疲《つか》れているのかなと思っていたが、いま現実に聞こえてくる声は、勘違《かんちが》いではありえない。
 興奮のあまり手がふるえ、ネッシーがプリントされたマグカップの中で、インスタントコーヒーがたぷたぷ揺《ゆ》れた。
「悪魔《あくま》どすがなっ! ワシにはすごい魔力があるんどっせっ!」
 ——悪魔ね……。
 麻子は、ふ、ふ、ふ……と、不気味に笑った。
 これが漫画《まんが》であれば、頭上に真っ黒なカケアミがとぐろを巻くことであろう。
 彼女は地味なカバンからケータイを取り出すと、親指でボタンを操作した。ちいさな液晶《えきしょう》画面を表示されたメールの文面をじっと見る。
 それは、ネットショップのお知らせメールだった。
 十日後ほど前、ネットショッピングで購入《こうにゅう》した、ある珍《めずら》しい商品を発送したという内容である。到着《とうちゃく》予定は今日だから、晩には手に入る。
 明日には学校に持っていけるだろう。
「ふ、ふ、ふ、ふ……」
 ケータイにつけたつちのこ[#「つちのこ」に傍点]のストラップがしゃらしゃら鳴った。
 頭が丸く、胴《どう》が太く、ちいさな尾《お》がついた短い蛇《へび》のような飾《かざ》り物は、どこか不気味なデザインなのだが、彼女の纏《まと》うどんよりとした雰囲気に、不思議とよく似合っていた。
ブログ一覧 | 日記
Posted at 2018/02/02 12:30:02

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