ずいぶん前に読んだ
この記事。
(登録が必要ですが、無料ですので興味のある方は是非読んでみてください)
元マツダのクレイモデラーでロードスターの開発にも関わりのある石井誠氏が
黄綬褒章を
受賞されたとのことで、氏が書かれた本を長い間探しておりました。
というのも、すでに絶版になっておりまして、私が探していた当時は古本含めてどこにも無かったのです。(なんか、
今はAmazoneにすごい値段のものが出てますね・・・)
去年の冬頃(記事が掲載されてすぐに)、Amazoneに定価ぐらいで買いますと要望を出しておいたら、半年ぐらい経った去年の秋ぐらいに突如送られて来まして、一通り目を通し終わったのがオーストラリアに行く前。
というわけで、ずいぶん間が空いてしまいましたが、せっかくなので紹介させていただきたいと思います。
まずはクレイモデラーというお仕事。
最近、日産の新型ムラーノのコマーシャルで登場したので皆さんご存じですよね。
デザイナーがデザインした車のボディーをクレイ(粘土のような樹脂)で盛ったり削ったりしながら、立体物に仕上げる職業です。
動画もありました。
私はNHKの「
プロフェッショナル 仕事の流儀 カーデザイナー・奥山清行」編でそんなシーン(発砲スチロールを削るシーン)を見たことがあったぐらいで、実際に車を作るときに、こんな行程を経て作られているということはそんなに意識はしておりませんでした。
見逃したからは
こちらからどうぞ。
さて、こちらの本です。
表紙は非常にシンプルで、クレイモデラーがクレイを削るためのスクレーパーだけが描かれています。
中身はと言うと、、、
のっけからこんな資料写真やら
こんな写真が出てきて、ロードスターファン、マツダファンの方ならきっと興味深く本書を読むことが出来ると思います。(画質が悪いのは意図的にそうしております。本に掲載されている写真はクリアーなものです)
ちなみに、右上の写真はオレンジカウンティでの作業の様子。写っているのは渡米してモデリング作業をされた梶山さんと森さんでしょうか。
左上の写真、NAマニアな方ならきっと気付く点もあるでしょう。最終デザインモデルだそうで、実車を遥かに越える精密さで作られているのだとか。
本書では著者の生い立ちに始まり、造船科で学び、鉄鋼船の造船所で働いた後、1958年に東洋工業(現マツダ)に入社した辺りのエピソードから話がスタートします。
船の舳先や波切り部分なんかは複雑な幾何学カーブが入り乱れていて、それが後のマツダのオーガニックなデザインの原点になったであろう事を想像させてくれます。
石井氏が入社した1958年は当時三輪自動車をメインで作っていた東洋工業がはじめてデザイナーや作図担当者を採用しはじめた年だそうです。(つまり社内デザイナー、モデラー一期生)
当時はインダストリアルデザイナーでマツダとは嘱託契約だった
小杉二郎氏がスケッチした物を参考にまずは基本線図を書き起こし、1/5のクレイモデルを作って立体物としての承認を取り、それを元に設計図を起こし、木型で1/1のモデルを作って最終確認(木なのでやり直しは基本無し)、1/2図面を書き起こして、設計、生産という流れだったそうです。
ちなみに、造船の盛んな広島という土地柄か、木工の得意な職人さんはたくさん居たそうです。
普通車のデザインの世界ではデザイナーが表でモデラーは「言われたとおりの作業をする」裏方的存在。もともと作図(製図)担当で設計・生産技術もある程度わかる著者は、「誰もやる人が居ない」という理由でモデラーもこなすようになります。
氏は言われたとおりに作業をこなすだけでなく、デザイン意図を読み取り、さらにこの後の生産工程でも問題が出ないように立体物を作っていたそうです。線の描き方一つからデザイナーの想いを汲み取り、形に仕上げていく。デザイン画は鉛筆で書かれたラフなもので良い、その方がニュアンスをくみ取りやすいから、、、つまり、本のタイトルにもあるとおりデザイナーが描いた「想い」を実際の形に仕上げるのがモデラーの仕事であると主張します。
インダストリアルデザイナーの小杉氏が描く丸っこいラインのクルマの図面を描く人を(広島という土地柄もあって)造船業に求め、著者である石井氏が入社した。最初はそんな流れだったようです。
もちろん、これはマツダの話であって、他のメーカーには違うやり方だったところもあるようです。マツダのようにデザインスタッフを外部からの調達に求めたところもあれば、内部スタッフを育てたところもあるし、モデラーが図面を起こす場合もあれば、デザイナーが図面を起こす会社もあったそうです。
いずれにしろ、こうした経緯があって「マツダらしさ」というものが出来上がっていったんだということの一端が、この本に書かれています。
小杉二郎氏デザインのR360クーペ。
イタリアカロッツェリアベルトー社デザインの初代ルーチェ。
こうやってあらためて見てみると、当時のデザイナーさんや職人さんが良い仕事をしたことが手に取るようにわかる美しさですね。
その後、コスモスポーツのあたりでデザイン重視の流れから1/1スケールクレイモデルを使用して調整が必要ということになりますが、なにせ日本(しかも広島の一企業)にはノウハウがまったくありません。(コスモスポーツではアメリカ製のクレイの取り扱い方がよくわからず悪戦苦闘したそうです)
そこで、クレイの扱い方からテクニックまでGM出身者の方を招いて学んだり(費用を出したのはクレイを輸入している業者さん)、それをマツダ流にアレンジしながら昇華させていく過程が当時も職場風景や役員とのやり取りも含めて丁寧に語られます。
この後、デザインセンターが完成し、ようやく鋳物工場の裏の一角での作業から、ちゃんとした部屋が割り当てられるようになります。
さらに、こちらのファミリアはフォードとの共同開発。デザイン原案はフォードの物が採用されたようです。
なんと、アメリカデザインなんですね。
(そう言えば、大学時代に友人がこの後のモデルのファミリアに乗っていたのですが、内装の照明がオレンジだったんです。今思えばアメリカ市場を狙っていた・・・、それは考えすぎですかね)
こちらがフォードレーザー。たしかにソックリですね。
この時にフォードのモデラー(アメリカ人だけでなくドイツ人、イタリア人、男性女性含め多数)がマツダ社内に(国際情勢もあって)極秘に来社し、共同で作業をしたことがマツダのクレイモデル作成の転換点になったのだそうです。
この時のエピソードも欧米スタイルのデザイン実務の先進性や合理性、日本人の丁寧な仕事ぶりについていろいろ感じさせられるものでした。
このあと、ロードスター乗りにとっては有名なアメリカのデザインセンター立ち上げの話やら、
ロードスターの開発秘話も出てくるのですが、それは是非本書を手にとって・・・、って書きたいのですが、手に入りにくいんですよね、この本。
では、最後にロードスターの項から一文だけ抜粋しておきます。
「はじめのデザインスケッチの段階からちゃんとしたセオリーがあって、よくまとまったデザインでした。とにかくツーシーターに割り切って、長さ、幅、高さのプロポーションがいい。ぱっと見た感じで、気持ちがすんなり入っていける。大きさとカタチがうまくかみあっていて、筋が通っている。そのへんが、同じ曲線的なスポーツカーでも、なんだか虚勢を張ったような中途半端に大きいクルマとは違いました。」
というわけで、機会があったら手にとって読んでみてくださいませ。
小杉二郎氏とR360もどうぞもうちょっと本の内容を知りたい方はこちら話を広げるなら、著者とほぼ同期入社の小林平治氏(コスモスポーツデザイナー)の話しもどうぞ