2021年02月28日
伝聞証拠②
★証人の記憶喪失
321条1項の供述不能事由に「記憶喪失」という文言はないが、当該列挙事由は供述不能により証拠として使用する必要性を要件化したものであるから例示列挙と解する。
そうだとしても、例示されている供述不能事由に匹敵することを要する。
この点、判例は「供述拒否」も供述不能とするが、これではあまりに容易に伝聞例外が認められる事となり妥当でない。
そこで、長期間にわたり回復見込みがなく、証言を得ることが不可能又は著しく困難で、誘導尋問をしても効果がなかった場合に限って供述不能事由に当たると解する。
★証人の国外退去
確かに、形式的には321条1項の例示事由の「国外にいる」場合には当たるとしても、被告人の反対尋問権の重要性、適正手続きの保障(憲法31条)の観点から、伝聞例外の形式的適用は慎重であるべきである。
そこで、国外退去させられた外国人の検面調書を証拠請求することが手続的正義の観点から公正さを欠くと認められるときは、321条1項2号前段の適用はなく、証拠能力を否定すべきであると解する。
★実況見分調書の証拠能力
実況見分は検証類似の性格を有するため、実況見分調書について検証調書の伝聞例外を定める321条3項の「捜査機関検証調書」が適用されないか、同項の「書面」に実況見分調書が包含されるか問題となる。
思うに、321条3項が、比較的緩やかな要件で証拠能力を付与した趣旨は、検証は専門的訓練を受けた捜査員が行なう技術的事項であるため恣意の入る余地が少なく、複雑な事項については書面で報告した方が正確を期待しうる点にある。
そして、検証と実況見分は強制処分か任意処分かの違いはあるものの、専門的訓練を受けた捜査員が行なう技術的事項であるため恣意の入る余地が少なく、複雑な事項については書面で報告した方が正確を期待しうる点で双方は同様であるから実況見分調書に対しても321条3項の趣旨が妥当する。
よって、実況見分調書も同項の「書面」に包含され、321条3項の適用があると解する。
★現場指示部分(若しくは添付写真)と現場供述部分(再現写真)の証拠能力
実況見分調書のうち、立会人の現場指示部分、若しくは添付写真は、別途、伝聞証拠には当たらないか。
思うに、現場指示が実況見分の対象特定の手段として、地点特定の立証趣旨にとどまる限り、実況見分調書と一体として、321条3項により証拠能力が認められるものと解する。
もっとも、現場指示を超える現場供述部分(又は再現写真)は、実況見分の現場において取調べをしているのと同様であるから、もはや実況見分の一部とは言えず、立会人の供述録取書に当たるものと解する。
従って、かかる供述録取書は、録取の伝聞性払拭のため供述者の署名押印(321条1項柱書、322条1項)と、現場供述部分(又は再現写真)が被告人以外のものである場合は321条1項3号の要件(被告以外の「員面調書」要件、直接知覚者が供述不能かつ不可欠)を、被告人のものである場合は322条1項の要件(「被告人供述書」要件、不利益事実の承認、特信状況、任意性)を、それぞれ321条3項の要件(「捜査機関検証調書」宣誓、専門書面、尋問で担保)に加えて充たす必要があると解する。
★328条の趣旨①同一人の不一致供述
328条は弾劾証拠として提出できる証拠について何らの制限も設けていないが、同条によって提出できる証拠は「同一人の矛盾供述」に限るものと解する。
そもそも、法廷外の供述証拠が伝聞法則の適用を受け証拠能力が否定れるのは、反対尋問等によって内容の真実性が吟味担保されないからであるから、伝聞法則の適用を受ける供述証拠とは「要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる証拠」をいう。
この点、同一人矛盾供述は当人の供述の信用性を減殺するものであって、それぞれの供述内容の真実性は問題とならない。
しかし、ある事実に対する別々の人の異なる内容の供述(別人の不一致供述)は、つまるところ内容の真実性が問題となる。
従って、328条が許容する弾劾証拠は同一人が不一致供述をしたという事実自体を証拠に、その供述の証明力を減殺する場合に限るものと解する。
★328条の趣旨②厳格な証明
本来、証明力を争うための訴訟法的事実は自由な証明で足り、必ずしも証拠能力有す証拠による適式な証拠調べ手続きを要しない。
しかし、証明力を争うためであれば、あらゆる伝聞証拠を自由な証明で足りるとすることは、裁判官は証拠能力のない証拠によって事実上の心証形成をしてしまうことになりかねず、伝聞法則の趣旨が没却される。
従って、328条が許容する証明力を争うための証拠は、伝聞法則の趣旨を実現すべく、厳格な証明を要するものと解する。
★証明力を争う証拠は証言前の供述に限るか
328条は、321条1項1号後段、2号後段と異なり、供述時期を明示していない。
この点判例は、公判準備における証人尋問終了後に作成された同人の検面調書を、かかる証人の証明力を争う証拠として用いても、必ずしも328条に違反するものではないとする。
しかし、証言後に得られた公判廷外の供述でかかる証言を弾劾することは公判中心主義(282条1項等)に反し、不公正の危険を伴う。
思うに、証人が公判廷で検察官の予期に反した証言をした場合には、その証人尋問中に問いただすか、再尋問して、あくまでも証人尋問によってその点を正すのが、公判中心主義(282条1項等)に照らして妥当である。
よって、328条によって証拠としうるのは、公判廷における供述以前の供述に限られると解する。
★弾劾証拠の署名・押印
328条により許容される証拠は321条1項柱書の定める供述者の署名押印の要件を満たす必要があるか。282条に明文なく問題となる。
思うに、同条によって伝聞法則の制限が解かれるのは原供述者の伝聞性のみであり、録取の伝聞性の問題は残ることになる。
そして、321条1項柱書が署名押印を要求した趣旨は、録取の伝聞性を払拭する点にある。
従って、328条により許容される証拠も録取の伝聞性払拭のため供述者の署名押印要件を充たすものに限られると解する。
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2021/02/28 02:10:35
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