所詮蟻の目だと自覚している。己のからだを現場に運ばないと、生の取材は成立しない。現地にいながらの見落としなど星の数。あまりの情報量の多さに、海外モーターショー取材からはいつもフラストレーションの塊になって帰ってくる。
あらゆる情報が自宅の机上で得られるサイバー社会にあって、あれこれ工面しながらこの身を運ぶ酔狂を笑う向きもあるようだ。かつて顎足枕付きの豪遊をあたりまえのように思っていた時期がありました。四半世紀も前、誰よりも早く若い分際でそういう境遇を得ていました。
今では勘違いを招きやすい処遇に疑問なしとはしないけれど、メディアの価値を知るPRセクションは洋の東西を問わず現実的なのです。すべて打算で動いている。でなければ、上場企業の部長級でもエコノミーで飛ぶ時代に誰がフルフラットシートを奢ったりするものですか。
立場が変われば評価も変わる。いずれにもなってみなければ分らないことですが、幸い顎足枕と自腹の両方を経験している。昔は無邪気に自慢げに話をしたこともありました、僕も。波風立てなければいいのにと思うかもしれませんが、既得権益に執着する人々の腐敗は想像以上に進んでいる。
正義を装って特定の情報を流布する人には注意が必要です。21世紀はvsで№1を決めるチャンピオンシップではなく、あらゆる可能性を総動員したエネルギーミックスで立ちはだかる難問を解決していく時代。特定の国の1ブランドの技術展開を持ち上げて、他の可能性を貶めるような利益誘導型プロパガンダに与するなんてジャーナリストを名乗るなら論外。お天道様は見ています。
とくにグローバル化にともなうフラット化が進行した現代では、情報レベルでは同じでも実態は全然違うということが増えています。一見同じに見えるので、向こうもこっちと同じ思いだろう……鵜呑みにすると完全に間違える。そういうことがあり得るようになりました。
自分の責任において判断するためには、現場を踏まないわけには行かない。そんなこんなで、暮らしぶりが日増しに厳しさを増すなか、クルマの情報のデパートと化した国際モーターショー詣でを続けているわけです。賢くないし、上手く立ち回れない自分に呆れたりもするんですが、これも性分ということで。
モーターショーといえば、先月(1月)のNAIAS(北米国際自動車ショー:デトロイトショー)でリポートし忘れたことがありました。NAIASは、昨年のチャプター11後のLAショーに続く米国内国際オートショーですが、その会場からGMの標記が消えていました。
キャディラック、ビュイック、シボレー、GMCという新生GMに残った4つのブランドそれぞれがブースを設定していたけれど、そこにGMの文字はなし。かつてはドォ~んと『GM』マークが存在感を示していたのに何故?
GMアジア・パシフィック・ジャパンのYさんにあらためて聞くと、リック・ワゴナー時代は、『ONE GM』ということで(ン? 今年のフォードもONE FORDとか言っていたな。もともとは"ONE MAZDA"が最初だったということですが)、GMとしてすべてのブランドを統合する戦略を採っていた。
それがチャプター11(米連邦破産法第11条)による再生の道を選んだ時からの方針転換で、『良いGM』として残った4つのブランドをフィーチャーすることになったということです。かつてはGMのロゴとキャディラックやシボレーなどのブランドマークが並記されることがありましたが、現在ではそれは御法度。モーターショーのブースでGMのロゴを見かけなかった訳はそういうことだったのでした。
皆さんは、GMというと時代に取り残されたダメな自動車メーカー、ことによるとそんなイメージをお持ちになっているかもしれません。たしかに国からの融資をお願いする公聴会にファルコン・プライベートジェットで飛んで行ったリック・ワゴナー前CEO(だけではありませんでしたが)に見られたエグゼクティブの特権意識、いわゆるデトロイトマインドはどうしようもなかったし、企業衰退の元となった強すぎる労組UAWも問題でした。
年金の負担が経営の重石になったのは間違いないようだし、ワーカーに過度の負担を強いない労働の質のあり方が、アメリカ車から競争力を奪ったという話は事実であるようです。クルマは工場で作られる。
あたりまえのことですが、どんなに優れた設計でも最終的にクルマのクォリティを決めるのは工場の能力であり、末端のワーカーの働きぶりです。労働者の質の話ではなくて、UAWが決めた非能率な組合就業規則が、アメリカ車から競争力を奪ったのは間違いのないことであるようです。
しかし、その現実とGMという73年にわたって世界一の自動車メーカーとして君臨し続けた企業の底力は別物と考えた方がいい。かつてGMサターンの日本導入の際に、デトロイト郊外ウォーレンのテクニカルセンターの一部を覗いたような記憶もあるのですが、ここには世界最先端の技術が揃っているということでした。
その全貌を知る前にGMは破綻してしまい、現在往時の勢いがあるかどうか正確なところは不明ですが、私企業のGENERAL MOTORSから国が管理するGOVERNMENT MOTORSとなったからには、威信にかけても再生を目指すことになるはずです。持っている技術の粋を結集して、ちゃんと機能する工場で未来指向のクルマを生産する。そういう方向に動き出したと見る必要があります。
5月1日から2010上海万博が始まります。一昨日キャディラックCTSワゴンの試乗会に行き、NAIASでの反省会と今後の情報交換をしました。そこで、上海万博にGMが大きなパビリオンを作り、かなりのスケールのイベントを組んでいるという話を聞きました。詳細はまた後でということでお開きとなりましたが、帰宅後いろいろ調べて行く内に
注目すべき記事を見つけました。
上海万博の1業種1社という独占的な契約に上海汽車集団(SAIC)と合弁を組むGMが、グローバルスポンサーの10社に名を連ねている。契約は破綻する前の06年に成されたもので、紆余曲折はあったにせよGMはしっかりした長期戦略で次代へのサバイバルを考えてきたということになる。
09年の中国におけるGM車の販売合計は約183万台。中国におけるGMの主力乗用車ブランドはビュイックで、台数の主体はそれとは別の商用車(上海通用五菱汽車)ということだが、首位で同じSAICグループと一汽グルーブで合弁を組むVWを抜いた年もあるということで、激しくトップ争いをしていることに間違いはない。
潰れたはずなのに、いつの間に?……という感じがするかもしれないが、中国のモーターショーでのGMのプレゼンスはまったく小さくないし、上海では路上におけるGM(ビュイック)車も珍しくない。アメリカ本国のマイナス分をきっちり中国で埋めている。どころか、次世代エネルギー車の覇権争いの場となる中国市場において、圧倒的な優位に立ったかの印象さえ与える積極展開を周到に用意していたことになる。
日本のトヨタでもドイツのVWでもなく、アメリカのGM。日本の目と鼻の先で、斜陽と思われていたメーカーが驚くべき存在感を示そうとしている。まさか、一連のトヨタ騒動との関係はないだろう……いや待てよプリウスのいわれなきリコールはここに繋がらないか? 何か嫌な雰囲気が漂ってきます。確証のない妄想は戒めたいところですが……。とにかくこれ以上オウンゴールを量産しないためにも、必要以上に騒ぎを大きくしないことを心掛けるべきだと思います。
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2010/02/22 00:54:25