
匂いをひどく気にしている。
どの読み物をみても娘持ちが「お父さんは臭いからいや。」と娘に言われる場面みたいなことをよく見かけるからだ。
元々変わり者の自覚があるので、誰に嫌われても気にしないが出来れば子供達にだけは嫌われたくない。
だが、絶賛反抗期中の息子にはすでに嫌われている。「対抗心があるのよ。同性だと越えなきゃいけない壁な感じ?。」嫁が子供達が去った夕食後のリビングの㊙作戦会議でビールを飲みながら『反抗期の子供と付き合う本』を片手に解説する。
「ちょっと待て。」「へ、?!」
「その本お袋の本箱のやつじゃないだろうな!。」
「そうだけど……。」
「何十年前の教科書使ってんだよ!。」
「それに信用できん!。お袋失敗してるし。」
「大丈夫、大丈夫。貴方はお母様のような優秀な母親が失敗する特殊例な人ですからね。」
「特殊例の遺伝子たっぷりふり注いじゃってるやん。あいつ。」グーにした手を駄々っ子みたいに小さく上下に振った。
「弟さん優秀やん。イケると思う。」
スン。黙った。
謎の自信で嫁が胸を張った。
「それにいつか貴方を尊敬する日も来るって。」
「いつ頃?。」しょげて言った。
「20年後くらい?。」葬式のときやん!。
因果応報である。
このように私としては娘には失敗は許されない。
少ない小遣いを投入して、デオドラントなどを購入する。通勤の行き帰りのコンビニで新製品のチェックも怠らない。たぶん騙されている。でも騙されたいんだ、消費者は安心に金を出す。もしもに備えねばならぬ。
元来私はあまり風呂が好きでない。
風呂好きだった父が子供の時、追い回すように風呂に一緒にと誘って来る。父は「子供風呂」当番に任命されていて、師弟世界な考えの父はそう云う責任はキッチリ守るタイプだった。
仕方なく父と風呂に入ると【おそろしく熱い風呂】がいつも待っていた。
「そう云う積重ねがイカンのだ。」
風呂でぬるめの湯に浸かりながら独り言した。
対息子戦は無言で耐えきる作戦に決めた。
「器で勝負だな、器で。」
お猪口の裏であった。
"I thought what I'd do was, I'd pretend I was one of those deaf-mutes(僕は耳と目を閉じ、口をつぐんだ人間になろうと考えた)"
『J.D.サリンジャー 「ライ麦畑でつかまえて」』
このように私としては娘では失敗は許されない。寂しいではないか父は。
もう何ヶ月も仕事以外で接するのは家族しかいない(web除く。)な人見知りはそう考えていた。
スーパー銭湯の風呂上がりに、
娘と待ち合わせて、
並んでリクライニングシートでくつろぐ。
「コレはあれだな。」
娘を見た。顔を見合わせた。
「攻殻機動隊!。」同時に言った。
順調にアニオタに育っている。
計画通りだ。
さり気なくあくまでもさり気なく、
円盤などを手に取りやすい場所に、
小さい頃から撒き散らしておいた。
遠大な計画である。
息子にはスルーされて失敗した。
「喉が乾いたな?!。」
「行くぞ、タチコマ。」
「もうしょうがないなー。」可愛い声を作る。
「僕だって忙しいんだから。」
カニみたいな動きで床に四足で立つ。
『タチコマとは「攻殻機動隊」と云うアニメのAI搭載のカニみたいなロボット』で、
娘について自販機まで四つ足で行く、
奇異な目で通りかかりの方々が見てくる。
恥ずかしくなって立ち上がった。
「タチコマ!。オマエ立てたのか!。まあ、いい。アレを出してくれ。」
指紋認証してスマホを渡す。
スマホを自販機のある部分にかざし、娘が健康飲料水のボタンを押した。
ガチャンコと音がして健康飲料水が落ちてきた。
今や世の中は電脳化されつつある。
ボーと見ていると、
「どうした、タチコマ。」
と娘が声をかけて来た。
「なんでもないんだ、なんでも。」
タチコマ声で話す。
横の自販機で同じ年代の娘を持つお父さんが、
「どれがいいんだい?。」みたいな、
感じでジュースを買っていた。
『笑い男』は少しだけ苦悩していた。
(いったい私は、また。何処で間違ってしまったのだろう。)
「どうした?、タチコマ。」娘がもう一度聞いた。
「なんでもありません、隊長!。」
タチコマ声で気を取り直して応えた。
亡くなった母は良く言っていた。
「うちはうち。他所はよそ。」
娘と行ったスーパー銭湯帰りに、
嫁にことの顛末を報告した。
嫁は全て聞き終わり、一言だけ真顔で言った。
「教えの意味微妙に違ーう!。」
☆使い回しランプ点灯☆
(古いアニオタ 嘘web著作家 norimaki50)
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2022/06/23 07:09:35