最近の実感というか、下駄クルマをフィエスタからクラウンに乗り換えてからというもの、改めて意識するようになったのがこの話。
乗り換えて初めて知った2GRの良いところと、自分の思ってた事が綺麗に繋がってたのが嬉しくて、これを書いてたりもして。
―――
もともとフィエスタを手放してクラウンに乗り換えた理由は、一度ちゃんとしたV6に乗ってみたかったから。
だからそんな中であえて選んだのが、2GRの3.5L V6。
世の中じゃトヨタのエンジンっていうだけで 「ぶー」 っていう風潮もあるんだけど、この子に関して言えば
そんなトヨタらしい真面目なところが、良い方向に出てそうって感じるトコロがあってね。
このGRシリーズ、ゼロクラでもロイヤルとか前期アスリートに載ってる3.0Lとかは
中低回転でもしっかりトルクが出るようなエンジンだけど、レクサス向けの3.5Lだけはちょっと雰囲気が違う。
直噴を使って、高い圧縮比でもきっちり点火を攻められるようにしてるのは一緒なんだけど
大きくなった排気量は綺麗なショートストロークに仕立ててるし、組み合わせるポートもきっちり高流試型。
載せるインマニも、ちゃんと空気が吸えるような、流量優先の可変機構なしショートインマニだったりする。
ふつうの大型車なら欲しがる低回転のトルクは 「排気量が3.5Lもあるんだから」 って感じで誤魔化して
回していくと、上の方で綺麗に空気がシリンダーに入っていく、そんな素直なエンジンに見えたのね。
これって今みたいなクロスオーバー全盛期だと、低速トルクが足りない!って言われそうな仕立て。
逆に言えば、あの頃の「レクサスセダンに積むためだから」って言い訳があったからできたセットアップ。
そんなエンジンって、今となっては殆どないし、乗るとしても今が最後のチャンスかな、って。
―――
しかもいざ乗ってみたら、そんな感覚がちゃんとストレートに出てたりするんだよね。
排気量がこれだけあるのに、発進でちょっとアクセルを多めに開けると、すぐにトルコンがずるっと滑る。
そのまま滑りつつアップシフトするから、ショックは無いけどアクセルと1-1な感覚は希薄なまま。
そのまま速度がスルスルと上がって、気が付いたら定速でロックアップして巡航してる。
エンジンの吸気音もこの領域だと綺麗に消されてて、V6特有のクォーって音もほとんどしない。
だから安楽なんだけど、あーやっぱりクラウンなのかな、ってなるんだよね。
でもね、そんなクラウンの世界が、回すと色合いを一気に変えるのだ。
今までは黒子だったエンジンが、3000rpmを境にゆっくり主張を始めるの。
始まりはチェーンの音。
静かだったトーボードからシューンって音がなり始めたら、景色が変わる合図。
吸気脈動の谷間に入って、トルクの波が少しの間だけ、すーって引いていくのが背中でわかる。
クルマ全体が腰を落として、大地を蹴る準備をしてるみたいに。
そして次の瞬間、まるで舞台が転換するかのように、エンジン音が変わるのだ。
空気の流れが慣性と脈動の勢いに乗って、一気にシリンダーに入りだすのが、音で伝わってくる。
今までなってたチェーンの音が、内燃機が目一杯仕事をしているあの快音に取って代わる瞬間。
そして音が変わった…と思った瞬間、一気に増す加速度に背中を蹴飛ばされる。
トルクピーク4800rpmに向かって、右肩上がりで増えるトルクと、大きくなるエンジン音。
黒子だったはずのエンジンが生き返って、300馬力っていう数字が一気に説得力を増す。
さっきまでの繊細な感覚が、一気に咆哮と共に内燃機の存在感に変わる。
ダンパーが弱いクラウンが一気に鼻先を上げて、突進していくような感覚に囚われるぐらい。
そしてそのトルクの波と咆哮を味わっていると、やはり変化を最初に伝えてくるのが音。
あの咆哮がゆっくりと消えて、いつの間にか排気音とメカ音に入れ替わってるのに気付く。
気が付くと身体で感じている加速度変化も収まってて 「ああ舞台転換の時間なんだな」 って感覚で悟る。
そしてそんな加速度のお辞儀を感じた瞬間に、ミッションがすっとアップシフトする。
一連の演出が、まるで舞台のような起承転結を描くのだ。
―――
これをね、些細な狡い演出って切って捨てる気持ちもわかるんだ。
だってこの一連の所作は、トルクバンドがフラットじゃないエンジン特性が生むものだから。
でもね、自分はこの音と加速度の起承転結が、ホントに大事な事に思えるの。
回して回して、回しきる。アクセルを最後まで、ちゃんと踏み続ける意味がある。
それって単に右肩上がりの加速度特性だけじゃできないこと。
それだけじゃ、どこでアクセル抜いたって一緒の話だから。
ただ単調に変化するだけじゃなくて、それが段階を追って、舞台として転換していく。起承転結がある。
だからこそ、最後まで踏み切る意味が生まれるだと思うのだ。
トルクアクチュエーターとだけ考えたら、内燃機なんて本来モーターには絶対に敵わない物体。
相手は静かで、ラグも無くて、どんな特性だってアクセルに割り付けられる。
でもそんな中で、内燃機っていう生き物みたいな物体と一緒に生きるんであれば
やっぱりこういうトコロこそ、好きでいたいなぁ、って思うんだ。