「我が第七師団は鉄甲騎兵連隊を有しているので、その活用にと地形に気を配っている内にいつの間にか通じたものですね。」「余はボーンの提案を用いる。貴族軍への命令は、ドーマヌーケ。そちの師団から致せ。」ゴルゾーラが結んだ。ナーザレフは忿怒に顔を赤黒くして押し黙った。「ボーン、余はそちにもう一つ質問したい。そちの見るところ、王女軍はゲッソリナで我等を待ち受けるのか、それと街道途上で迎え撃とうとしているのか、どちらじゃ。」「それは情報が入っ恒指期貨てないので分かりません。当て推量を申し上げるわけにも参りません。ただ、チャード殿には直近コデコトマル平原にゲッソリナ方面からの通行人が有ったかどうかは確認しておいた方が良いでしょう。もし通行人が途絶えていたら、王女軍が防諜の為に遮断したと考えるべきです。斥候活動や進軍には一層緊張感を高める必要が有ります。」「うむ、心得置く。では皆、散会じゃ。」去り際、ボーンはナーザレフから不穏な気配を感じ取ったていたが、消えるように下がって行った。 クービルがナーザレフに耳打ちしていた。「教祖殿、ボーンが随分目障りな様子ですが、間違ってもタンニルあたりを呼んで消そう等とは考えませんように。十二神将と言えど、あの男と渡り合えるのは私ぐらいですよ。」ナーザレフはクワッと目を剥いた。図星であったらしい。 ボーンは逆らわず、風に柳と受け流した。「いや、それは案ずる事は無い。南北への道はいずれも人が二人通れるほどの隘路、これを進む貴族軍は長蛇の列をなして進む他はない。街道側から二千か三千の兵で蓋をしてしまえば、街道に戻ろうとしても戻れるものではない。」 涼しい顔でクービルが言った。教祖であるナーザレフが躍起になって反対したのに、軍議での発言は別物とばかりの素っ気なさである。「そうなのか。クービル、地形に通じておるな。」とゴルゾーラは少し笑顔を浮かべた。笑顔になると妹のエレナに似た美男子であるため、華やいだ雰囲気を醸し出す「やはり愚策でしたか。恥ずかしい限りです。」 翌日、つまりコデコトマル平原で貴族達が合同会議を催した日にボーン提案の貴族軍に対する転進命令を持って、ドウマガ原の太子軍の使者が出発した。使者と言っても、直前にハンベエによる軍監察員全滅事件が勃発しており、王女軍側からの更なる謀略攻撃も案じられるところから、一千人の兵を率いて行った。 一方で、この日イザベラから貴族軍の合同会議に関するクーちゃん通信を受け取ったハンベエが更に早馬を命じてその内容をベッツギ川にいるモルフィネスに送り、同日夕刻にはモルフィネスの知るところとなっていた。このあたり、王女軍、太子軍、貴族軍の行動が目まぐるしく錯綜している。ノーバーがドウマガ原に向けて様子を探りに行かせた偵察員は途中で、進軍してくる太子軍の使者部隊を見付け、報告にドウマガ原に舞い戻った。ノーバーが偵察員から使者部隊が向かっているとの報告を受けたのは、奇しくもベッツギ川でモルフィネスの下にハンベエからの早馬が着いたのとほぼ同じ、その日の夕刻であった。ノーバーは偵察員の報告を受けるとすぐにトネーガのところに相談に行った。身辺警護を固めて籠もっていたいのは山々であるが、そうも言ってられない。それに軍監察員達が居なくなって、多少は気も安らいでいた。「私がドウマガ原に向けて送った偵察の者が、途中でドウマガ原の方から向かって来る太子の軍を見掛けて報告に立ち戻って来た。」
ナーザレフ教団は人売り達が仕事に対して感じている罪悪感を煽る一方で、人の為す事は神の御心にかなうかどうかにより罪ともなり功ともなる、同じ事をしても神の御心にかなうかどうかで別れると分かったような分からない説教をし、免罪という事を唱えた。免罪符という札まで売るようになった。ある程度力を付けて来ると、今度は比較的力の弱い他の神を祀る団体を攻撃し、その神官や僧侶を陥れたり暗殺したりしてまで信者を増やす事に狂奔するようになって来た。特に五、六年前にゴルゾーラがボルマンスクに就任した後はそれに取り入り、勢力拡大に拍車が掛かった。最初の数年は二、三人の弟子と乞食行脚みたいな所から始めて病を治すと言う触れ込みで少しずつ信者を増やしたようだ。ある程度信者が増えて来ると、寄付金による孤児院の経営をする一方、その裏でこっそりと人身売買の取引を始め、教団の資金源にし始めた。その流れの中で、人売りの業者と繋がりができ、業者を積極的に入信させて行った。危ない事は百も承知さ。でも今の御時世、子供だからって危険が避けて 生髮方法 くれるような世間じゃないしさ。あ、勿論王女様以下が庇護してくれる有り難さは身に染みて分かってるよお。」「ふむ、失礼した。もっともな話だ。」この後ロキが伝えたのは、怒りや憤りも含むが、ナーザレフの率いる教団の所業についてロキが捉え得た情報であった。ナーザレフという人物が布教を始めたのは一番古い話では十五年ほど前らしい。「子供には子供の情報網が有るから、大人達にはバレないよ。特に孤児だから大人を信用してないところも有るしねえ。それに、この問題はオイラ達孤児にとって見逃せない大きな問題で、じっとしてる方が無理だよお。「かなりオイラが想像で補った部分は有るけど、奴等の成り立ちはそういうものらしい。」「想像で補った?」「うーん、かなり風評めいた話が多くて実態が掴みにくい集団みたいなんだよね。それに奇跡だの聖者だの嘘話をでっち上げるのが上手い集団みたいなんだよお。でも、売り飛ばされたり、酷い目に遭わされた子供がかなり居るのは間違いないんだよお。」「・・・・・・。・・・・・・ふむ。で、信者はどのくらい居るんだ。」「オイラの計算では二万から三万人だよお。」「ん? 意外と少ないな。」「今のところはそうとも言えるねえ。でも放って置いたら、どんどん増殖しそうな気がするよお。」闊達明朗なロキが暗い溜息混じりだ。(三万か。今ならまだ、その唯一絶対とかいう神を抹殺できるかも知れんな。)ハンベエという若者は、瞬間恐ろしい考えを頭に浮かべた。信者全てをこの地上から消し去るという虐殺である 唯一絶対の神という話を聞いてから、ハンベエは神を倒す、神を消し去る方法をヒョウホウ者として大真面目に考えた。そこで出た結論は、結局神はそれを信じる人間が一人でも居る限りけして消える事はない。信者を根こそぎ消し去り、その神についての記録、記憶も跡形残らず消してしまう外無いというものだった。げにヒョウホウとは空恐ろしい思考法である。(戦う者は相似ると言うが、唯一絶対と唱える者と戦う術は全否定の外は無い・・・・・・という結論にならざるを得ない。)
稼業を始めてから、初めての失敗であり、予想もしなかった恥辱であった。(あの時、ハンベエ・・・と言う妙な男に邪魔されたけど、それ以前に聞いていた人柄とあまりに違うエレナの雰囲気がアタシの手元を狂わせたんだ。)とイザベラは振り返っていた。依頼に嘘が有ったと知ったイザベラは激しい怒りを持った。しかも、その嘘の内容がエレナの人柄を著しく貶めるものであった事が同性であるイザベラの腹立ちに油を注いだようだ。その怒りが初めての失敗りという屈辱的事態も相俟って、最早エレナの暗殺を遂行する事よりも、嘘の情報で自分を踊ら " それは秘密ではありません、私たち全員が最終的に老化し、老化の兆候が現れます 大多數青少年女孩的化妝方式都與青少年男孩不同 一些針對少女的流行美容秘訣並非基於任何事實證據 「これは少し無料の美容アドバイスです"せた依頼者の落し前をつける事にイザベラを向かわせる事となった。直接依頼をした人間を既に始末し、一応の決着を付けはしたが、イザベラとしてはその背後にいた太子ゴルゾーラに対しても敵意を持たざるを得ない。現に今も持っていた。.とイザベラは説明された。当時職業暗殺者であったイザベラは、依頼理由をそれ程深刻に考えなかった。所詮生有る者は全て死ぬ。早いか遅いかだけの違いである。軽く考えて依頼を受けたのであった。さて、その後であるが、既に御存知の通り、ハンベエと言う妙な男が現れて暗殺は失敗、自らは一度はその男の手中に捕われるという目も当てられぬ惨めな事態に陥った。
その冷ややかな心で、イザベラは太子ゴルゾーラの心を推し量った。御存知の通り、イザベラは人の心を操る術を使う(人を操る術が使えるという自負心が強かったが故にこそ、エレナ暗殺で自分がペテンにかけられて踊らされた事で頭に血が上り、依頼して来た人間に怒りの矛先を向けてしまったのだが。)。人の心理を腑分けするのはイザベラにとってさして難事ではない。少なくとも当人はそう思っている。まあ、ハンベエのように良く分からんところの有る奴も居ないじゃないが。)自負心の陰で少し苦笑が漏れる事もあるイザベラでも有ったが。 繰り返しになるが、イザベラはエレナとゴルゾーラの間に起こった悲劇を知っていた。(太子はエレナを『汚れの乙女』と思い込みその手にかけようとした。)勿論、そこには正気を失ってしまうような特別な事情があり、単純に『汚れの乙女』の伝承を信じ込んだとも思われない。エレナ殺害未遂事件の後、太子ゴルゾーラは『汚れの乙女』の伝承について考え直した事は無かったのだろうか?、いや、きっと有ったに違いない。そして、その胡散臭さに気付いた事であろう。だが、後になって気付いたとしてももう元の兄妹には戻れない。既に一度は妹を殺めかけてしまったのである。そしてその一方『汚れの乙女』の伝承を完全に否定し切る事も出来ない。ゴルゾーラが疑惑と後悔の念の間で大いに悩み苦しんだであろう事は想像に難くない。(そこをつけこまれたか。)とイザベラは思った。ハンベエとは違う意味でイザベラも又無神論者であった。何故なら、イザベラは人の心を操る幻妖の術を使う。しかし、その術はタネも仕掛けも有り、使っている本人には全く何等の摩訶不思議なるものはないのである。. こういう術を能く使う者が神など信じ得るだろうか。幻妖の術を使う者は時に神だとか、妖異の類いであるとか、人間の迷信に巣くう者すらダシにする。とてもでないが、神など信じていた日には出来るものではない。おっと言い過ぎた。神や魑魅魍魎に取り付かれておかしくなった挙げ句に不思議の術を現す人間もいないではない(尤も筆者はお目にかかった事はなく、話に聞くものも、ただの気狂い沙汰にしか思えないのだが)。だが少なくとも、イザベラはその類いの人間では無かった。神など信じぬ故にこそ、迷信に囚われ易い人の心に付け込む暗示、催眠の術を能く使ったのである。およそ宗教は人の心の傷に付け込んで信者を得るのが常套手段である。不安、不満、悩み、その他迷信。それ等は本来、当人自身が対峙し、立ち向かって解決しなければならないものである。少なくとも、人間以外の生き物はそうしているような気がする。
それを聞いたラシャレーは、太子ゴルゾーラにナーザレスこそ邪悪なる者であるから、遠ざけるよう訴えた。しかし、ナーザレスの教えに既に帰依していたゴルゾーラはラシャレーの諌言を受け入れなかった。反ってラシャレーを獄に入れたのであった。此処まで話してボーンは一息ついた。ボーンとイザベラは今湖上に船を浮かべて話をしていた。ダアレも居ない所とは良く言ったもので、なるほどこれなら、周りで聞き耳を立てるものは水と魚ばかりだろう。" 俺達は戦争するんだ こんなに目尻を下げ、嬉しそうに笑う父を久し振りに見た"敵同士の陣営に属する二人の誰にも知られてはならないランデブーであった。小船の上で互いに見つめ合う二人。だが、其処に甘美なものはカケラも無い。双方一分の隙も見せまいと緊迫の空気に満ち満ちていた。「ラシャレーが獄にねえ。それじゃ、いつ殺されるか分からないって事かい。」「それはない。俺達サイレント・キッチンが付いている。既に牢の関係者もサイレント・キッチンの息のかかった者に入れ替えている。宰相閣下には手は出させん。」「へえー、ラシャレーが獄に入れられるのをオメオメ許したってのにかい。」獄に降ったのは、太子の命に従った宰相閣下の御心だ。」・・・。まあ何にしろ、良くない状況だね。」「ハンベエはどうしている。」「どうもこうも、当面の敵を倒してからは気楽なものさ。アタシがこっちに向かう直前には能天気にお師匠様とやらの所に里帰りして行ったよ。だが、ラシャレーが投獄されたと知ったら、流石のあの男も驚くだろうね。」「ハンベエは太子ゴルゾーラ殿下と戦うつもりかな。」「ふん、ハンベエがどうこうよりも太子の奴がエレナとやるつもりなんじゃないかい。. 「何を言う。宰相閣下が居られる限り・・・。」「ふっ、もう先は見えたよ。アタシの知りたい事は大体聞かせてもらった。そっちに他に知りたい事が無いなら、船を戻しておくれ。」「始めに船を漕いで来たのは、イザベラお前だろう。」「だから、帰りはアンタに漕いでもらうのさ。アタシばっかり無防備になるのは不公平だからね。」「おかしな真似はしねえだろうな。」「精々用心おし。」ボーンは苦い顔で櫂を取り舟を岸に向けて進め始めた。イザベラに対する警戒は少しも緩めない様子だ。 鏡のような湖水の面を波も立てずに小船が滑って行った。. ボーンと別れた後、イザベラは一旦アジトに戻っていた。途中何度も道を変え、付けて来る者が居ないか確認した上での事である。ボーンに危害を加えるつもりの無い事は何と無く感じられたが、この世界油断は禁物、『誰が敵で誰が味方か簡単には決め付けられない』のだ。アジトに帰ってから、いやいやアジトに帰る道筋も考えている事がある。太子ゴルゾーラの事である。ラシャレーを投獄した一件。平たく考えれば、ゴルゾーラはラシャレーを切り捨てそのナーザレスと言う男を採ったという事になろう。一面識であったが、イザベラは宰相ラシャレーを直に見ている。風呂好きなハンベエほどの高い評価と好意をラシャレーに抱きはしなかったが、やはりゴロデリア王国を支える柱石としてはラシャレーの右に出る人物は居ないだろうと、イザベラも率直に感じていた。 そのラシャレーを切って捨てた。イザベラはエレナとゴルゾーラの間に起こった忌まわしい事件を知っている。そして、その後ゴルゾーラがエレナを亡き者にしようとしていた事も。何と言っても、イザベラ自身が依頼を受けてエレナの命を狙った張本人なのだ。最初はイザベラもエレナ暗殺の黒幕がゴルゾーラだとは知らなかった。だが暗殺失敗の後、直接の依頼主に口を割らせてその背後に太子ゴルゾーラいる事を知ったのだ。当初、イザベラの受けたエレナの暗殺理由は次のようなものであった(今更ではあるが此処で明かす事とする。今頃何をと読者にお叱りを受けるかも知れないが、まあ、御勘弁。)。. 王女エレナは実父であるバブル六世と実の親子でありながらふしだらな関係にあり、その寵を頼んで兄ゴルゾーラや弟フィルハンドラについて有る事無い事讒言を吹き込んでいる。かかる輩の存在は王国の恥辱であり、王家の行く末を揺るがす許すべからざる存在であるから、消して欲しい。
「モルフィネスさんの言うとおり、チリソスが自殺したと言うのは理解出来ないわ。それ程、潔いならあんな事しないで欲しかった。それに、死ぬくらいなら逃げてもらいたかった。」自分の部屋でエレナは一人ごとのように呟いていた。今この部屋にはエレナ自身と侍女頭のソルティアがいるばかりである。昨日の夜の内にヘルデン達がフーシエを捕えたという報告は既に届いていた。逃げてもらいたかったとは、チリソスは謀叛に加担したのですよ。」呆れたようにソルティアは主の顔を見詰めた。心なしソルティアの顔色は良くない。「そうであっても、私はこれ以上身近の者に死んで欲しくないのです。それにしても、何故チリソスは逃げ出さずに自害したのでしょう?。」「ひょっとしたら、チリソスはセイリュウと特別な関係にあっ劍橋英語課程價錢 たのでは。愛おしい殿方の為なら女は大それた真似をする事も有り得ますし、直ぐに後を追ったのも分かる気がします。」「愛おしい殿方。ソルティアから珍しい言葉を聞くものです。そなたにも居るのですか? そんな人が。」「私には居ませんよ。姫こそどうなのです。」「私・・・今は私の為に命を賭して戦ってくれた方々にどう報いようかと、そればかりを思っています。」「そうですか。それは大事な事でございますね。でも、老婆心で一言忠告させていただくなら、ハンベエにだけは気をつけた方がよろしいかと。あの者は何を考えているか知れません。ステルポイジャン達と戦ったのも果たして姫の為やらどうやら。」「お黙りなさい、ソルティア。口が過ぎますよ。.「申し訳ありません。」エレナはソルティアの口をぴしゃりと塞いだ。尤も、ハンベエがステルポイジャンと戦ったのはエレナの為だけでない事は戦う前からハンベエ自身に説明を受けていたエレナであった。亡くなられた太后陛下の下で働いていたフーシエを捕えたとの事。フーシエはルキド達に私の命を狙わせた張本人何か分かるかも知れませんね「そうでしょうか。姫のお命を狙った者の言う事等信用しかねますが。」やはりソルティアの顔色は良くない。一方、王女エレナの顔色もあまり良くないのである。エレナの表情には何かを恐れているような諦めているようなものが浮かんでいた。 ハンベエとモルフィネスはフーシエと対面していた。捕えられて連行された時はふん縛られていたフーシエであったが、今はその縄も解かれ机につかされて、両の手首を痛そうに代わる代わるさすっていた。この小男は意外ににふてぶてしい顔付きをして、捕われの身をさほど恐怖していない様子であった。さて、私に聞きたい事が有るのでしょう。何なりとお聞き下さい。」 薄気味の悪い笑みを浮かべてフーシエがほざいた。『引かれ者の小唄』という言葉が有るが、フーシエの態度、どうも死を覚悟した者の開き直りとも取れない。ハンベエ達が自分を簡単には殺さないだろうと妙に高を括っている雰囲気があった。 ハンベエは無表情にその様子を見ていた。モルフィネスはいつもの鉄仮面、氷のように冷たい視線を向けてフーシエの挙動の端々まで注視している。この二人の視線に曝されて尚もふてぶてしい態度が取り続けられるとはフーシエも意外に太い奴なのだろうか。毒婦とも言うべきモスカ夫人に側近く仕えていた男である。一筋縄には行かない人間に違いあるまい。. 「では聞くが。」最初に口火を切ったのはハンベエであった。しかも次にハンベエが尋ねたのは意外な事であった。「モスカは死んだのか。」フーシエは虚を突かれたようにキョトンとした顔になった。てっきり王女エレナ殺害の企てを短兵急に聞かれると思っていたのに、この剣術使いが最初に聞いて来た事はとっくに舞台から引きずり下ろされているはずのモスカ夫人についてであった。(何だ? トンチンカンな質問をする奴だ。それともモスカ様が生きていて背後で私を操っているとでも勘繰っているのか。・・・思えば、モスカ様もまた時に物の化や鬼女かと疑われるほど恐ろしげな一面が有った。或は、この連中モスカ様の怨霊でも怖れているのか。) フーシエの心にふとハンベエを侮る心が兆した。しかし、ハンベエはフーシエの心中等まるで知らぬかのように相変わらず無表情にフーシエを見ていた。ヒョウホウ者としての癖なのか、殆ど一切感情の読み取れない顔付きをしている。