
大地の果てるところ。
森林が荒野に姿を変え、その荒野がゆっくりと海に沈んで果てていくところ。そんな場所が北海道にある。
私が小中学生だったころ、知床の意味は「大地の果て」とか「大地の行き詰まり」などと教えられていて、てっきりそういうものだと信じ込んでいたが、実はただの「岬」あるいは「突端」という意味らしい。そう言われてみると、確かに知床岬は山脈がそのままオホーツク海に突き出た形の、まさに突端といった地形だ。そして、私としてはもっと果てと呼ぶにふさわしい場所があると思っている。それが野付半島だ。
野付半島は知床半島から少し南に下ったところの標津町と別海町にまたがる細長い半島で、砂嘴と呼ばれる砂が堆積した独特な地形からなる(関東では江の島や富津岬が砂嘴の代表例です)。

※出展:Wikipedia(パブリックドメイン)
古来、野付半島は海岸の浸食で流れ出た砂がこの地で溜まることでその地形を保っていたが、現代では河川や周辺海岸の護岸工事の結果、その砂が供給されなくなり半島としての姿が失われつつあるらしい。
野付半島の中ほどにある「トドワラ」。立ち枯れたトドマツが塩性湿原の中に残る奇勝だが、昔の写真と比べると倒木も含めトドマツの残骸はだいぶ数を減らしてしまった。半島の付け根の方も浸食と地盤沈下のせいか海がすぐ近くまで迫っていて、近い将来、野付半島は北海道から切り離されて島になってしまうと言われている(野付半島消失とトドワラの縮小そのものに因果関係があるかは調べてないので分かりません)。
トドワラ

※出展:
Wikipedia(FoxyStranger Kawasaki撮影 CC BY-SA 3.0)
野付半島は、今この時間も波に削られながらゆっくり朽ちて沈んでいる。
まさに大地の果てていくところなのだ。
ふつう大地の変わりゆくスピードはゆっくりで、それに比べれば私たちの人生などほんの刹那に過ぎないが、先のトドワラの変化でも述べた通り野付半島は例外。たぶん私たちの人生の歩みの中で、野付半島が変わっていく様を目の当たりに出来てしまう。
40年前の様子を載せているブログがありました。
「40年前の北海道・トドワラ」
そんな野付半島を訪れたのは2022年10月のこと。初めて訪れたのは2018年7月だったから、そこからだいたい4年ぶりになる。
前日に宿泊した霧多布を出発し、国道244号線を北上。しばらくは森と牧草地の中を走るちょっと退屈な道だが、風連湖を過ぎたあたりで海沿いに出ると東側に海を臨みながらの絶景ルートとなる。
しばらく走ると右手に平らな野付半島が見えてくる。奥の山がある陸地は不法占拠されている国後島。
何とこの日は蜃気楼が発生していて、野付半島が浮いて見えるではありませんか。
教科書に載せていいくらいに思える見事な蜃気楼!
南側から野付半島に入るには、半島そのものが視界に入ってきてもだいぶ遠回りが必要になる。上の写真を撮った場所からはさらに20kmくらい走って、道道950号線へ右折すると野付半島がはじまる。
半島付け根のこの辺りが、いちばん陸地の幅が狭いところ。
高潮や高波で通行止めになることがあるらしい。
少し走ると野付半島ネイチャーセンターに着く。
この写真は外海側から北海道本島を望む形。
逆の外海側には石ころの海岸が広がり、もうすぐそこに国後島が見える。
駐車場でクジャクチョウが羽を休めていた。関東平野では見かけない北方系のチョウ。
ネイチャーセンターでは食事もできる。ホタテバーガーがとても美味しい。時期が合えば貴重な北海シマエビの踊り食いも可能で、意外と侮れないグルメスポット。
※写真は前回2018年7月に訪れた時のものです。
ネイチャーセンターを過ぎてすぐの辺りは美しいすすきの草原となっている。
ネイチャーセンターから数km進むと道道950号線は終わり。
一般のクルマはこれ以上先には進めない。
※写真は前回2018年7月に訪れた時のものです。
がしかし、なんとネイチャーセンターで侵入許可をもらうことが出来る。
(ちゃんと申請書の提出と身分証明書の提示が必要です)
ということで侵入許可をいただき、どんどん先に進んでみる。ただし道道950号線の終点より先はずっと砂利道が続くので、サスが硬いクルマは大変…。
しばらく進むと周囲がすすきの草原に塩性湿地が混じるようになる。ただの泥のようにも見えるが、間近で見ると泥炭のような感じ。
塩性湿地は野鳥の楽園。いずれここも沈んでしまうのかな…。
この日は本州ではめったに見られないオジロワシの姿も!
(解像度低くてすみません。。。)
クルマで行けるのはこの辺りまで。地の果て野付半島のさらに果て。
実は徒歩であればさらに奥まで行けるものの、さすがに時間がかかりすぎるので断念。

※出展:
OpneStreetMap(Open Database License)
ちなみにすぐ上の写真の撮影時の足場にしていた石積みは、江戸時代の船着き場の跡だそう。今の状態からは全く想像できないが、このあたりはかつて街があったようで住居跡やお墓が埋まっているらしい。伝承によれば遊郭もあったとか。
荒野、草原、海、湿地、遺構、そして地平線。
およそ日本とは思えない景色が広がっている。
ここは野付半島。木も草も街も、みんな朽ち果てていくところ。
さて、本日の旅程もまだ長い。
感傷的なこの地をほどほどに愉しんだら、もと来た砂利道を引き返す。
ネイチャーセンターまで来たらお礼を述べて許可証を返却し、次の目的地である知床峠へ向けてハンドルを握った。こうして最果ての地、野付半島に別れを告げ、再び人の営みの中に戻っていく。
了
参考資料
・野付半島トドワラ付近で認められる地盤沈下に伴う急激な海進現象 2023年3月17日閲覧
https://www.gsj.jp/data/gcn/gsj_cn_vol3.no11_325-326.pdf
・「40年前の北海道・トドワラ」 2023年3月17日閲覧
https://plaza.rakuten.co.jp/hasep2004/diary/201810300000/
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2023/03/20 16:10:36