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2008年04月04日 イイね!

親父と赤いメルセデス

■以前に記したメルセデス・ベンツとの出会いを書いた時に、ふと思い出したことを今日は記しておこうと思います。

ー親父と赤いメルセデスー

■「自分では絶対に乗らない」と誓ったはずのメルセデス・ベンツを手にした理由は、目の前の個体に「ベンツ」的象徴ともいえる富や権力の臭いがなかったからに他ならない。
 中古車ゆえの125万円のプライスタグは国産小型車の新車価格と同程度だったし、Cクラスというレンジはコンパクトセダンの範疇。しかもそれが馴染みの中古車屋に並んでいるのだから当然そこにベンツ的象徴は微塵もなく、お買い得商品の身近さだけが漂っていた。
 だが何より僕を購入へと突き動かしたのは、その個体がメルセデス・ベンツとしては珍しく、赤いボディ色を纏っていたからだった。
 市場に出回るこのブランドのクルマは白、黒、シルバーがほとんどを占めるため、極めてマイナーな赤はそれだけで、いわゆる「ベンツ」であることを逃れているように思えた。
 こうしてベンツ臭がないことを理由に手に入れた98年式のメルセデス・ベンツC200を毎日の生活の中で使って、僕はそれまでの誓いが完全なる誤解の上に生じたものであると知り、自分を恥じた。
 当時メルセデス・ベンツのラインナップ中最もコンパクトだったCクラスは、実際に使ってみると同サイズの国産セダンより遥かに小回りが効いて取り回しやすく、狭い路地でも臆せず入っていけた。乗り心地は上級モデルの感覚がしっかり残される上に高速道路へ乗り入れると、これもまた同サイズの国産セダンと比べ物にならぬ重厚感があった。つまりベンツ=富と権力の象徴という一般的なイメージの影に、実は高機能という価値が隠されていることに気が付いた。なるほどこれほど高い機能を有するなら新車価格が高くても不思議ではないと思ったし、僕が食わず嫌いで勝手に良くないイメージを作り上げていたことを思い知ったのだった。
 しかし僕の回りの人たちはやはり、僕の赤いメルセデスに対していわゆる「ベンツ」のイメージを抱いた。仕事仲間には「日和ったな」とか「儲かってるな」と揶揄され、赤いボディ色は母にわずかな嫌悪を抱かせた。しかしそんな中で、親父は回りと少し違った。

■事業で失敗した親父は、ちょうどその頃国産高級セダンを手放したところだった。そんな親父は赤いCクラスを見て、
「赤いメルセデスもカッコいいな、俺もまた頑張って今度はメルセデスに乗るぞ」
と言ったのだった。メルセデス、という他が言わぬひと言が、強く心に残った。
 ただ僕はこの頃、そんな親父を尊敬できなかった。だから当時のそのひと言に苛立ちを覚え、親父に失礼な言葉を投げて別れた。
 そして3ヶ月後、再び親父と会ったのはER室(救急救命室)。親父が運ばれた翌日、面会が許された段だった。だがその場で僕は親父が一命を取り留めた安心感と悲しみに暮れる母を想うあまり、厳しい言葉を口にした。
「身体を休める良い機会だから母をこれ以上悲しませないためにも、今後のことをはっきりさせてほしい」
そのひと言に親父は、
「ああ、分かってる」
とだけ言った。そしてこれが親父と交わした最後の言葉だった。それから4日後、父は様態が急変し逝ってしまった。
 その後の様々な問題は親父が残した保険と実家を手放すことで解決した。母は家を失ったが当時所有していたS2000を売却して僕の側に住む場所を探すこともできた。
 結局プラスもなければマイナスもなかったことに気付いて僕は、最後に交わした言葉を悔いた。それに後から思えば、
「俺もまた頑張ってメルセデスに乗る」
と僕に言ったことは、親父が今後どうするかの明確な意志表明だったのだと理解した。そして既に遅過ぎたが、親父への誤解が解けた。

■失敗はあったが親父には現状を打破しようとした強い意志があったのだ。しかし僕はそれに気付かず、親父を良く思わなかった。そんな僕の誤解までをも親父は、死をもって気付かせてくれたと思うと申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
 赤いメルセデスを多くの人が理解しようとしないのと同じように、僕もまた親父を理解しようとしていなかったのだ。しかし親父は赤いメルセデスを理解してくれた上に、僕の親父への誤解すら解いてくれた。親父の器の大きさを、思い知らされた気がした。
 親父の死をもって誤解が解けるというのも本当に情けない話だが、そうして僕は親父の偉大さを改めて知り、改めて尊敬を覚えた。
 物事の真実や本質は実際に触れなければ分からないし、誤解や間違ったイメージで接するのは最も良くないことで、結局それは自分に計り知れないほど大きな反省として跳ね返ってくる。僕はそのことを赤いメルセデスで気付いたはずなのに、結局は親父から究極の方法で教わってしまったのだ。そう思うといくら頭を下げても悔やまれるし、いくら感謝してもし足りない。なぜならそれは今の仕事をして僕が生きていく上で、最も大切なことの一つでもあるからだ。
 桜の花が見事に咲き誇る頃になると、いつも親父と赤いメルセデスのことを思い出す。そして今日の命日には、いつも自分が万事に対して誤解を抱いたり間違ったイメージで接していないか、そして親父のような広く大きな器をもって生きているだろうかと、僕はひとり静かに自問するのだ。
Posted at 2008/04/04 00:44:07 | コメント(8) | トラックバック(0) | ショートストーリー | 日記
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