みなさんにぜひ知ってほしい製品がある。その名をエアハブという。
大阪府堺市にある町工場「株式会社中野鉄工所」の発明で、ホームページによれば以下のような製品だ。
(「株式会社中野鉄工所」より引用)
- エアハブは自転車を漕ぐことによりタイヤに空気を送り込み適正な空気圧を保ちます。
- パンクを回避出来る!パンクの原因の8割は空気圧低下によるものです。タイヤチューブからはゴム風船がしぼむのと同じように常に空気が漏れているためリム打ちやタイヤチューブの擦れによりパンクを起こします。適正な空気圧を保つことでパンクを回避できます。
- チューブ・タイヤが長持ちする!常に適正な空気圧が保たれているため摩耗が最小限で済みます。
- 常に快適走行!ころがり抵抗が減り軽快に走れます。
- メンテナンスフリー!面倒な空気入れから解放されます。
(「製品 - 株式会社中野鉄工所」より画像引用)
この素晴らしい発明について、私の自転車ライフとあわせてご紹介させていただこう。
私は「ブリヂストン サブナードスポーツ エアハブ」という自転車をかれこれ15年ほど愛用している。高校3年間の通学と、その後の駅までの通勤、そして車に乗れなくなってからは生活の大部分をコレに頼っている。自慢はなんと言っても発明まもない初期型のエアハブを搭載している点だ。
今も、両親にコレを買ってもらった時のことをよく覚えている。エライもので、当時中学生だった私は、既にエアハブの存在をカタログ等で知っており、その素晴らしいメリットに心惹かれていた。だから自転車屋の店頭でコレを見つけるやいなや、自転車屋の店主に頼み、またがらせてもらって、細部までくまなく観察したりした。
しかし店主(年配男性)はちょっと不満そうな顔をしていた。しばらく店主と私の母親が喋っているのを聞いて理由は明らかになった。
当時、高級な通学用自転車の筆頭として「ブリヂストン アルベルト」が売り出し中であり、店主はアルベルトのセールスに注力していたのだ。
(「アルベルト | [通学・普段使い自転車]通学・通勤向け自転車 | 自転車 | ブリヂストンサイクル株式会社」より画像引用)
当時たしか5万円くらいしたと思うが、私の目から見ても、店主の言う通りアルベルトは通学用として最高の選択肢と思われた。堂々たるスタッガードフレームに輝きを放つステンレスパーツ類、透明なチェーンカバーに覆われたベルトドライブは油染みひとつなく、ハンドル中央にはデジタルメーターが備わる。コイツなら卒業までサビひとつ無く、油の一滴も必要なく乗り続けることができるだろう。
しかし残念ながら、王者アルベルトにはエアハブの設定は無かった。その理由は、エアハブがハブダイナモと両立できなかったためと思われる。ハブダイナモは、ブリヂストンの誇るオートライトの代名詞「点灯虫」に必要不可欠。「点灯虫」こそ高級自転車の証。後にハブダイナモが付けられるよう改良されるが、当時のエアハブ車は昔ながらのダイナモライトを装着せざるを得なかったのだ。回転が重くなってガーガーうるさくなる、お馴染みのアレである。高級志向としてコレはいただけない。
私としては、エアハブに目を奪われてそのようなデメリットは関係がなかった。店主は母に最後までアルベルトを勧めていたが、結局私がエアハブにこだわりサブナードスポーツを購入となった(3万5千円也)。
さっそく通学用として使用し始めると、その軽快な走りで大いにメリットを感じられた。いつも「空気を入れた直後のような」軽快さが感じられるのだ。走行中、かすかに「ヒューヒュー」をポンプの音が聞こえて、この不思議な発明品に心ひかれて走った。当時は体力もあって、田舎道なので結構なスピードで巡航していたように思う(20km/hくらいか?)。
永く乗ってみて分かったのは、さすがにすべてのパンクを防ぐことはできないということだ。釘が刺さったりしてパンク修理に出すことは多々あった。しかも多くの場合は、エアハブの働きでなかなか空気が抜けきらず、パンクの判断が難しかった。逆に言えばパンクが軽症であれば結構な距離を走れてしまう。今日現在、パンク修理の跡が両輪のチューブに合計で6箇所も発見された。決してパンクは少なくない。
さて、どんな発明も、最初から完成されているものはない。市場に出て、消費者生活に揉まれるながら、フィードバックを受けて改良され完成に近づくものだ。
エアハブにも同じことが言える。すでに述べたハブダイナモの追加もそうだが、さらに私の愛車には初期型ならではの弱点があった。製造元ホームページのQ&Aにある「タイヤ・チューブの交換をしたいのですが専用ですか?」の問いに対して、専用ではなく汎用品に交換できるという回答の上、以下のような注意書きが添えられている。
※エアハブ販売初期の特殊米式チューブをご使用の方へ
汎用英式チューブに交換し同時に英式アダプターとホースを交換することで続けてエアハブをご使用いただけます。
「ご質問 - 株式会社中野鉄工所」より引用
これは逆に言えば、特殊米式チューブはもう生産されていないので、英式チューブに交換するしかなく、よって英式アダプターとホースを入手する必要があるということだ。
まさに、私の愛車がこの特殊米式チューブを現在も使っているのだ。
とうとう先日、後輪がパンクした。DIYでチューブを出して見ると、穴が空いたというより劣化によって裂けてきており、これ以上は使えない状態だった。
「ならば前輪はどうだろう?」とタイヤレバーを差し込みグイグイとこじった時、「プシュー」と嫌な音がした。見るみる空気が抜け、愛車は両輪ともパンクした状態になってしまった。
自身の作業ミスで、貴重な特殊米式チューブに穴を開けてしまいガクッときた。どちみち後輪はもうダメなので、この際両輪ともチューブ交換をしよう。
しかし15年も同じチューブで走っていたことになるのだろうか?途中、まだ特殊米式チューブが生産されていた頃に交換したような気がするが、少なくともここ10年は同じチューブだったはずだ。ゴムって、紫外線に当たらないと長持ちするんだなぁ。
取り急ぎ、ホームセンターで普通の英式チューブ2本とバルブセットを買ってきた(およそ2千円也)。一旦エアハブのホースを外してこれらを装着しておき、「英式アダプターとホース」とやらを製造元から取り寄せよう。ということで、一旦ごく普通の自転車になってしまうが、近日中に再びエアハブ車として復活する予定だ。
エアハブならではの面倒くささが否めないが、「空気を入れた直後のような」軽快さのためには仕方がない。
ところで、結局エアハブ一般には普及しなかったようだ。街なかでエアハブを見かけることは、まず無い。大手自転車メーカーのカタログからも淘汰されてしまった。なぜだろう?
おそらく、コストがかさむ点と、本当にメンテナンスフリーになると自転車屋の仕事が減るので、あまり売ってもらえなかった、等の理由だろう。
ただし、調べてみたところ、エアハブの製造は現在も続けられており、車椅子やレンタサイクル等ニーズに合わせて使用されているようだ。もちろん誰でもパーツとして購入し自転車屋で装着してもらうことが可能で、基本的にどんな自転車もエアハブ車にできるということだ。価格や工賃が分からないが、この記事を読んで興味を持たれた方は、ぜひ自転車屋で尋ねてみてほしい。
昨今、ちまたでは「パンクしないタイヤ」が多く出回っているが、あの手の製品は想像するにタイヤが重くなって走行性能への悪影響が出るだろう。タイヤにはしっかり空気が入っているのが何より望ましいのだ。
繰り返すが、いつも「空気を入れた直後のような」軽快さは、クセになる気持ち良いものだ。一般には普及しなかったが、ぜひ多くの方に知ってほしい製品だ。
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