ここに1台の車がある。
名前は無い。
アウディにはゲッコーと呼ばれるトカゲのマスコットがいるが、この左右に迫り出したヒップはもはやクロコダイルとでも言えようか。。
地を這うような力強いフォルムである。
このマシンはかつてルマンで8回も総合優勝を成し遂げたTDIエンジンを搭載したアウディR10の市販車候補のコンセプト画像の一つである。
R8の次のスーパースポーツモデルと噂された事もあるが、あのような事件を起こしたエンジンを搭載しているとなると、もう市販化される事はないだろうか。
その原因は2015年9月18日に遡る事になる。。。
2000年代に入ってからは地球温暖化ガスを少なくしたいと言うブームが巻き起こっていた。
京都議定書などがその際たる例で二酸化炭素排出量や、フロンガス使用を規制し、地球環境を破壊するガスを撲滅させるため温暖化防止会議が至る所で行われていた。
自動車業界はと言うと、燃費も良く、クリーンガスを排出するエンジンが求められ、各メーカーはこれらの競争に明け暮れていた。
そこで事件が起きる。。
当時世界で最も規制が厳しかったアメリカの環境保護局と、カルフォルニア州の排ガス規制を回避するために燃焼を制御するディフィートデバイスと言われるソフトを開発して検査を非合法にすり抜けているメーカーが摘発されます。
そう、ディーゼルエンジン車を多く製造していたフォルクスワーゲンです。
燃費の良さと二酸化炭素の排出量が少ない事を売りにしてTDIエンジンを多く製造していたフォルクスワーゲンは実際の走行時にはアメリカ規制値の30倍を超える窒素酸化物NOXを排出しながら走る車を作っていた事が発覚します。。。
凄い数値ですねwww
ここで話を分かりやすくする為にディーゼルエンジンについて簡単に説明させて戴きます。
ディーゼルエンジンはガソリンエンジンに比較して、大きく以下のメリットがあげられます。
①燃料消費率が良い。(最大3割、下手をするとハイブリッド車並み)
②使用燃料が安い。(アメリカは除く)
③二酸化炭素や、一酸化炭素、炭化水素の排出量が少ない。
以上3点が、ヨーロッパでのディーゼルエンジンの普及率が最大50%まで増えた大きな理由です。
ではデメリットはどうでしょう、
①エンジンオイル、燃料フィルター、などが汚れやすく交換サイクルが短い。
②音は比較的小さいが、振動が大きい。
③窒素酸化物NOXや黒煙DPMが多い。
等々、結構デメリットも有ります。
窒素酸化物や黒煙は公害になる有害物質であり、
二酸化炭素などは、直接人体に影響を及ぼさないけど地球環境を破壊する温暖化ガスとなります。
ガソリンもディーゼルも、五十歩百歩の様な気がしますが。。
読者の皆さんはどちらが良いと思われますか?
ここでは、どちらを取るかと言う問題では無いと思いますが、自動車メーカーは地球温暖化に配慮したディーゼルエンジンを多く採用した、、と言う事になるのでしょうか。
ピエヒ開発のTDIエンジンなどはその典型例でしたので、他のメーカーよりも優れたディーゼルエンジンを開発するため、当時の責任者であるヴィンターコーンという人に更なるブラッシュアップを依頼するのですが、ディーゼルエンジンの黒煙と窒素酸化物の除去には限界があり、この不正ソフトの開発に手を染める事になってしまったのでしょう。
しかし、このソフト仕組みが凄いです!
まず、検査機関などがテスト走行するにあたって厳しい手順が設けられている事を逆手に取り、ステアリング操作、車速、エンジン回転数、各計器の数値持続時間で試験走行が行われているのか、通常の走行なのかを判断してエンジン燃焼状態を切り替えるみたいです!
これにより、検査機関には、排ガス規制を、消費者には燃費をそれぞれ騙す事に成功しました。
ピエヒ氏。。。
この人は実力もさることながら、やる事がハンパないです!
このソフトを開発したボッシュ社は、テスト目的であって市販車に搭載させる事は違法だとフォルクスワーゲンに警告しているとドイツ大衆紙ビルドに語っております。。
そんなわけあるかいっ!
しかも後の会見でピエヒ、ヴィンターコーン両者とも認識はしていなかったと語っております。
談合かっ!
それが原因で2人とも辞任しているのにですよ。。。
結局この罪は誰かが被ったわけではなく、フォルクスワーゲン全体としてかぶる事になっていきます。。
リコールがヤバかったでしょう。。。
何せ、2020年3月現在で、ディーゼル不正案件で支払った損害額は、3兆4000億と報じておりましたから。
因みにフォルクスワーゲンはこの数年間平均で1兆5000億円程の純利益なので、丸々2年分働いても、返済出来ない額ですね!
従業員、結構ボーナスカットされたんでしょうね可愛そうに。。。
😭
話は変わりますが、トヨタの純利益は、2017年は2兆5000億円です。
販売台数はフォルクスワーゲンの方が首位ですが、利益率は大分差が有りますね。
このような事件を起こしたTDIエンジンを搭載した車は生産の機会がどんどん無くなっており、日本では殆ど見かけなくなってしまいました。
結局あのクロコダイルは生まれる事は無い。。。。。。
という事になってしまいましたが、それでもあれだけの実績を作った車なので、僕としてはやっぱり実現して欲しい気持ちが有ります。
かくして、ポルシェの孫ピエヒは取締役会でヴィンターコーンを道連れに引退に追い込まれます。
残ったのは、フォルクスワーゲン買収に失敗はしたものの、堅実に生きたもう1人のポルシェの孫ヴォルフガングでした。
私見ですが、自分の力のみを信じて実力でのし上がったピエヒはとても凄い人物ですが、信頼する仲間を殆ど持たず、独断で事業を拡大する傾向が多く、最後は自分の判断ミスで足をすくわれる事になったのではないかと思われます。
逆に、ヴォルフガングは技術畑ではなく、経営畑のトップですが、従業員や労働組合からの信頼も厚く、ピエヒよりも人望がある為優秀な人材も集まってきたみたいですね。
あの優秀な右腕のヴィーデキングもその1人なのでしょう。
排ガス不正問題以降フォルクスワーゲンはアウディe-tronなどで電動化を進めておりますが、カタログ上は航続距離の面と自動運転の面でまだテスラに追いついてはいません。
私はテスラを試乗した事が有りますが、自動運転技術とあの加速力は次元が違う様な気がしました。
ただし、テスラはフレームの剛性感が足りない様な気がしましたので、アウディはその点では優れているのではないかと思います。是非e-tron出たら試乗してみたいと思います。
次回最終章
ピエヒの悪戯と金字塔。