堅雪かんこのブログ一覧

　　

　　今週の日曜日から代車の三菱ランサーに乗っている。すべての操作が軽くへなへなと頼りないのだが、慣れとは恐ろしいもので昨日アウディＡ４に乗ったら今度はアウディがものすごく剛性感のある鉄の塊に感じられた。（またカレラ４からアウディに乗り替えた場合は、アウディが逆にへなへなと感じられる）



　そんなランサーであるが、なぜか心が軽くなる。この現象は一昨年に代車で古いスターレットを借りた時も感じたことだった。
　人のクルマだという気軽さもあるが、どこに行っても目立たず匿名性を保てるという安心感がある。また駐車場に停めるときも気を遣わない。



　それで思い出したのは「天下無敵」という言葉である。内田樹の「日本辺境論」の後半部あたりに書いてあったことだが、天下無敵というのは敵を全部倒してもういなくなったという意味ではないのだそうだ。武道的な意味での天下無敵とはどうやって「敵」を作らないかを工夫することにあるのだという。内田の言う敵を作らないとは、「こんなもんでしょ」と現実を涼しく受け入れ、無限の選択肢などは幻想と思い、あるがままの制約を受け入れることだと言っている。



　これをクルマに置き換えるなら、世の中にはもっといいクルマがあるはずだと思えば、自分のクルマに満足する日は決してこない。特に速さを指標にするスポーツカーならなおさらで、GT-Rもフェラーリもポルシェもそれに沿った序列が自ずと生じる。つまり「敵」に常に囲まれる立場にある。
　また、駐車場なんかでクルマに危害を及ぼすものすべてが「敵」になる。高速道路では飛び石を放つトラックも敵だ。



　　三菱ランサーはそういう競争や気遣いから無縁のところにいる。その気楽さが解放感につながる。日本社会においては、人より目立たないというのが暗黙の作法であり、一般の会社経営者も社用車は今でも圧倒的にクラウンが多いのではと思う。銭湯の湯に皆でつかるように、同じ湯加減であれば安心する。ランサーはそれ以下の並み中の並みのクルマである。
　さらに、クルマをコーティングしたり、クリフォードのセキュリティを着ける必要もない。こういうのもすべて「敵」対策なのである。このような意味でランサーは「天下無敵」なのだ。



　しかし、そうであっても私は別な選択をしたい。理由は簡単、そういう人生はつまらないから。「敵」があるからこそドラマが盛り上がる。「かかってこいやーおりゃ～！」と言えるクルマをいつか所有してみたいものだ。カレラ４とは別に。