あの日、私はドーヴァー海峡上空6000mを北上していた。私の後にはカレーの戦闘機基地を離陸した11機が続いている。英国南東端にあるグリ・ネ岬の海岸線が左翼前縁に近づく頃、われわれはゆっくり左旋回して西南西方向に機首をとった。旋回によって編隊がやや間延びする格好になったので、無線で僚機に注意を促す。目を皿のように見開いて、四方遍く注意を払い見張りを続けるが、敵機の姿はない。
海峡上空はコバルトブルーに晴れ上がっていたが、英本土の方向には密な積雲があって、ところどころ塔状に発達していた。断雲の下に見え隠れする、白い石灰岩の海食崖を辿るように、われわれのBf-109E4戦闘機は進撃する。機首と翼端そして垂直尾翼に塗られた黄色の戦術識別塗装が鮮やかに映えている。
アドラーターク*1から1週間、英国南部の敵空軍基地に対して、我々は精力的にフライエヤークト*2をこなした。大部分は旧式のハリケーンだったが、われわれは遭遇した英空軍を一蹴した。この調子なら、あと一押しで英空軍戦闘機隊に引導を渡すことができるかもしれない。計器盤に目をやると、K子ちゃんに貰ったフレシュヒェン(ケロちゃん:本官のお守りネ)がブラブラ揺れながら笑っている。
その時だった、第2小隊長のポルヒ中尉の声が飛び込んできたのは…
「3時上空敵機!急降下する!」
「@@@@野郎、来やがったぜ」
500mほど上空から黒いゴマ粒のような敵機が急降下してくる。地上からレーダー誘導されて、断雲の陰を巧みに利用して接近してきたのだ。1、2、3、4…12機、その後ろにさらに12機。敵はわれわれの倍、しかもこちらは劣位。全く不覚を取ったものだ。接近するにつれ特徴的な楕円形の主翼がはっきりと見えてきた。スピットファイアだ。
「ブレイク!攻撃開始せよ」
とは言ったものの、ここは各機思い思いに反転急降下して逃げるしかない。第一撃をかわせばなんとかなる。急降下速度はわれわれの方が速いのだ。フットバーを左に蹴って、操縦桿を左に倒す。右上空からスピットファイアの一番機が覆い被さるようになって撃ってくる。8挺の7.7㎜機銃が火を吹き、主翼前縁が真っ赤に燃えているようだ。私は機を左横滑りさせて、敵機のまき散らした曳光弾の火襖を掻い潜った。
一撃目は何とかかわしたものの、敵はわれわれの倍だ。態勢を立て直す暇もなく、二撃三撃される間に、われわれは高度を失い、Bf109が優位に立てる縦方向の機動を封じられてしまった。敵の注文通りに右に左に割り込まれて、たちまち低空での乱戦となった。隊長機は列機を失い、列機は隊長機を失う。こうなると旋回性能に劣るわれわれは不利だ。
いつの間にか、私の後ろにスピットファイアが2機忍び寄っている。前の1機がを発砲するのと同時に、私はスローロールを打って火箭をかわした。しかし、この機動によって速度が落ちたのがいけなかった。後方の敵機が射撃しながら距離を詰めてくる。絶対絶命とはこのことだ。
その刹那、私は良いことを思い出した。スピットファイアのマーリンエンジンはキャブレター式なのでマイナスGがかかると燃料供給が滞ってエンジンが息をつくという弱点を抱えているのだ。それに引き換えわれわれのダイムラーベンツDB601は燃料直噴式なので、どのような機位になろうとも、燃料供給は安定している。背面飛行をすれば奴らはついてこられない。
どうしてこんな簡単なことに気がつかなかったのだろう。私はもう一度スローロールを半分打って背面になった。どうだ、思い知ったか@@@@野郎。
その時、レシーヴァーからポルヒ中尉の素っ頓狂な声が聞こえた。
「背面飛行をしているのは少佐の機だけです」
ΣΣ┏(_□_:)┓iii
バックミラーに機銃から火を吐くスピットファイアの姿が映る。機体のあちこちに被弾して、カウルが吹き飛び、滑油が噴き出した。あっという間に、風防ガラスは噴き出した滑油で真っ黒になってしまった。大きな衝撃とともに右翼端が無くなり、時計回りの錐揉みが始まる。操縦桿を左に倒し、フットバーを左に蹴ってカウンターを当てたが態勢は回復しなかった。機を捨てて脱出しようと渾身の力で風防を押したが、フレームが胴体に食い込んだのか、テコでも開かない。ああ、ここで死ぬんだな。私が死んだらK子ちゃんはダルマセリカ野郎の所へ行ってしまうのだろうか…。ドーヴァーの青黒い海面が近づいて来た。私が覚えているのはそこまでだ。
*1アドラーターク(Adlertag)
「鷲の日」
1940年8月13日から16日にかけてドイツ空軍が英国に対して実施した一日当たり延べ1000機規模の航空作戦の暗号名。
*2フライエヤークト(Freiejagd)
直訳すれば自由狩猟、ここでは制空権奪取のための航空撃滅戦。
ココまで読んで下さったアナタはエライ!
実際に見た夢はイタリック体のところですが、話が繋がるように前置きをつけました。
今回は残念ながらオリーブドラブ色のダルマセリカ野郎やK子ちゃんの実体は出てきませんでした。
毎度のことですが目覚ましムジークのローゼマリーに救われました。
また、ご本人に無断で出演して頂いたみん友の
ポルヒ・キャララさんにお礼を申し上げます。
それにしても夢の中とはいえヴァカ丸出しをしたものです。
知らず知らずの間にストレスがたまっているのでしょうか。
Posted at 2009/08/07 23:35:34 | |
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