Ψ 第6話 戦史 Ψ
Gが、増えすぎた個体数を集合住宅に移民させるようになって、既に凄い年が過ぎていた。
根城の周囲の豊富な室内空間はGの第2の故郷となり、G達はそこで子を産み、育ち、そして死んでいった・・・。
地球西暦2003、室内最速を標榜する高橋(兄)はプロジェクトGを名乗り、酸素に侵略戦争を挑んできた。
この5年あまりの戦いで、酸素ルームの掃除機は取替え紙パックの殆どをGで埋め尽くした。
酸素は、自らの部屋選びに後悔した・・・。
~ つづく ~
Ψ 第7話 急襲 Ψ
ワンルーム空間での生活が続いたせいか、ワタクシにはGとの遭遇を予知する能力が備わって来ていました。
ニュータイプとして覚醒した、と言い切っても差し支えないでしょう。
具体的には上手く言えませんが、奴らが現れる時とそうでない時とでは、温度、湿度、匂いなどが明らかに違うのです。
それは、何もしていなくても自然に汗が滲んでくる、夏真っ盛りなある日中でした。
休日だったこともあり遅めの起床でしたが、目覚めた瞬間に自分には解りました。
「今日は激しい戦いになるな・・。」
実際、それからシャワーを浴び終えて身支度を整え終わるまでに、大小3台ものGメカを葬り去る必要があったのです。
「こいつは戻ってからも先が思いやられるぜ・・。」
外出の予定があったのですが、出発前からこんなことを考えていました。
しかし、現実はそんな先のことを心配している場合ではなかったのです。
出発予定時間をやや過ぎていたため、ワタクシは早足で玄関に向かうと、そのままの勢いでサンダルとドッキング。
長年培った「住み屋」のテクニックで、足の回転数を落とすことなくドアに手をかけます。
「カタパルトオープン!!酸素、逝きま~す!!!」
お約束どおりに呟くと、全体重を乗せて颯爽とドアを押し開きました。
その時です。
チャラチャッチャッチャラッチャ~♪
チャラチャッチャッチャラッチャ~♪
チャラチャ~チャラチャチャッチャラチャラッチャ~♪
上から、上から、何かが落ちてくる。
僕は、それを。
見・て・る~。
いきなり落ちてきた~。
上から落ちてきた~。
ふいに、落ちてきたぁ~。
上から落ちてきたぁ~。
僕はぁ~それをただただ見てるぅ~。
~ つづく ~
Ψ 第8話 クレイジークライマー! Ψ
俺としたことが油断したぜ!
野郎、なんてところに登ってやがる!!
ドアの上で待ち伏せだとぉ?!
しかも、まさかこのタイミングで仕掛けて来やがるとはな・・。
さすがの俺でも、これは想定の範囲外。
敵ながら天晴れと言う他ないぜ!
相当な実戦経験を積んだ、心理戦のプロの仕事だ。
しかし、惜しむらくは狙いが正確過ぎることだ。
俺くらいの領域になれば、かえって回避しやすいってもんだz(スポ~ッ!\(^o^)/
強引に突っ切ることで攻撃を回避しようと、屋外に向かって加速を試みたワタクシ。
だが無情にも、うなじの辺りを襲う着地の感触。
黒く大きな落下物は寸分の狂いもなく、無防備な襟首への侵入を成功させた。
途方もなく長く感じられたここまでの時間だが、これは俺の研ぎ澄まされた神経が見せたスローVTRに過ぎない。
実際はドアを開けてから着地されるまで、せいぜいコンマ2秒というところだろう。
おいそれとは更新されることのない、ドア上から首筋までのコースレコードが樹立された瞬間である。
バ、バカな・・!!
不意打ちとはいえ、俺が落下速度を見誤っただと?
いや、ありえん・・・ハッ!
そうか、解ったぜ。
さてはヤッコさん、普通に落下したんじゃねぇ・・。
ドラゴンボールとかでよくあるみたく、壁を蹴ってこっちに突っ込んで来たんだよッ!!!
なんて野郎だ・・イカレてやがる・・。
だが並のGメンバーにこんなことが出来るだろうか。
フン、出来やしねぇぜ。
プロジェクトGリーダーの弟にしてドアクライムのエース、高橋(弟)以外にはな!!
そう考えれば、俺の首筋をピンポイントで射抜いたマシンコントロールにも納得がいく。
じゃじゃ馬マシンを手足のように操る、奴の繊細なアクセルワークには定評があるからな。
アグレッシブだなさすが高橋(弟)アグレッシブ。
こんなことを考えながらも、俺の体は瞬時に反応を開始していた。
もし第三者が見ていれば、おそらくその目には次のように映っただろう。
『あ、歴史の教科書に載ってた「ええじゃないか騒動」の絵の人だ!』
奴も着地と同時にアタックを開始していたが、俺にとっては不幸中の幸いだったことがある。
奴の落下地点とその後の走りが、Tシャツと上着のスキマ重視なラインどりだったことだ。
もし素肌を重視されていたら、さすがの俺でも5秒で発狂していたに違いない。
とは言え、イメージさえしたことのない感触に襲われて悶える俺。
インナーのTシャツに爪を立て、通常の半分のスピードで歩を進めるGの感触。
こんなものをどう表現したらいいと言うのだ。
血管に侵入した使徒とか敵スタンドが、心臓に向かって少しずつ皮膚の下を移動して来る。
そんなのが一番近いかもしれない。
『オラァ!』
こいつに無傷で勝とうなどと思ったら殺られる。
そう判断した俺は自分のボディに向かってオラオララッシュを繰り出した。
傷みと錯乱が入り混じり、拳が奴を捉えたかどうかは判らない。
しかし、とにかく奴の移動する気配は感じられなくなった。
よし今だ!
すかさず上着の裾を掴むと、上下にパタパタラッシュ!
駄目だ。何かが落下した気配はない。
ならば最後の手段だぜ!
オラオラ、パタパタに加えピョンピョンジャンプを絡めつつ、これまで叩き出したことのないタイムで上着を脱ぎ捨てると、間髪を入れずに空中でシェイク攻撃。
ワンハンドしか使わなかったし、両手で伸ばして笑みを浮かべる〆ポーズもとらなかったが。
洗濯用洗剤のCMの最後とかに、ママ役の人がやるアクションを思い浮かべて頂ければまぁ近い。
~ つづく ~
Ψ 第9話 門 Ψ
殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやr
どれほどの時が過ぎたであろうか。
酸素による上着シェゲナベイベーは、世界の終わりまで続くのではないかと思われた。
しかし、通路上に何度も上着を叩き付ける姿が確認されたのを最後に、激しい戦いはその幕を閉じた。
足下に横転した高橋(弟)のマシンを横目に捉えると、大きく息を吐き出す酸素。
安堵から来る脱力感のためか、それとも心身に負ったダメージがそうさせたのか。
部屋に戻っていく酸素自身でさえ、足のふら付きの原因を特定することなど出来なかったに違いない。
1つ言えることは、この長丁場。
恐怖を怒りに変えることで精神を保っていなかったら、さすがの酸素も危なかったということだ。
並の人間ならとうに精神に異常をきたし、高橋(弟)のペースに飲み込まれていたに違いない。
キレればキレるほどに冴え渡るのが、酸素の天性の『住み』テクニックなのだ。
だが、まだ仕事は残っていた。
奴はまだ、勝負を捨てちゃあいねぇ。
横転しているとは言え、あの駆動系の動きはエンジンが生きていることを饒舌に語っているぜ。
いいさ、俺とお前。
このアパートに相応しいのがどちらなのか、今ここで白黒つけてやる。
このスプレーでな!
ハイパワースプレー+人間・・・この条件にあらずんば世帯主にあらずだ!!
クハ・・クハハハハ・・・・!!
見たか。これが真の住人の力だ。
フヒ・・フヒヒヒヒヒヒ!!!
とうとう殺ったぜ。
犯って殺った犯って殺った犯って殺った犯って殺った犯って殺った犯って殺ったフヒヒヒヒヒサーセンwwwうぇwww
アヒャヒャヒャヒャヒャ!!
アーッヒャッヒャッヒャッヒャッヒャポテチよ悟史くうううううううううううん!!!
アハハハハ
イヒヒヒヒヒヒ
ウフフフフ
エヘヘヘヘヘヘ
オホホホホホホ
こうして何とか正気を保ったまま、高橋(弟)の挑戦を退けた酸素だったが。
高橋(兄)による弔い合戦の大号令であろう。
Gの攻撃は、再びその勢いを増して行くのだった。
あれほど入念に侵入ロを閉鎖したのに、何故だ・・。
1つだけ心当たりがあった。
バスルームの天井に設置された換気ダクトである。
奥は暗くて見えないが、形状自体はGマシンが通過可能なスペースを有している。
他のコースが潰されて一度は侵入手段を見失っていたG達も、ここへ来てこのゲートの存在に気付いた。
そう考えるのが自然だろう。
急がなければ。
酸素が焦るのには理由があった。
Gとの戦いで心休まることのない生活が、次第に酸素の心を蝕みつつあったのだ。
1つには場所を問わず、居るはずのないGの幻覚が、視界の隅を走り抜けることが増えて来ていた。
部屋で過ごしている時、視界を外れたところにはいつも、壁を埋め尽くす「まっくろくろすけ」が居るのではないか。
そんな、ありえない想像が頭をよぎる日も多くなっていた。
~ つづく ~
Ψ 第10話 難問 Ψ
一体どうすれば。
換気ダクトの塞ぎ方である。
湿気の多いバスルームで換気機能を殺すことは自殺行為であるから、目張り等による封印は言う迄もなくご法度。
コタツの発熱部みたいな網でも被せるか?
両面テープでの施工になるだろうが、しっかり着くだろうか。
その前に、そんな網どこで手に入れたらいいのか。
これまでになく問題の多い閉鎖計画である。
てか下手にそんなもん付けたら、Gマシンの展示場になるだけじゃね?
計画はあっさり頓挫した。
~ つづく ~
Ψ 第11話 インスピレーション Ψ
ペロペロ!
ポクポクポクポクポクポクポク!!
ポクポクポクポクポクポクポク!!!
ポクポクポクポクポクポクポク!!!!
チーン!!!!!
脳内ギャラリーA「おい、ダクトの奥の換気扇を見てみろ。」
脳内ギャラリーB「げぇ!回りっぱなしじゃないか!!」
脳内ギャラリーA「これでGの奴、うっかり触れたら即クラッシュさ!」
脳内ギャラリーB「俺も寒気がするぜ!さすが酸素さん、考えたな!!」
シュゴァァァァァアアアアアアアア!!!
~ つづく ~
※作者急病(仮)のため暫く休載します。