TL;DR
みんな賢くなって正しく価値のあるものにお金を使いましょう。
※できるだけ避けたかった話題だけど、火の粉が飛んできては仕方がない。
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先日、地元のスーパーオートバックスにバケットシートを付けてもらった。
シートについての一通りの説明を受けた後に気分良くしていると、高額商品を購入したからか取り付けてくれた店員から次の発言が。
「SEVって知ってますか?」
曲がりなりにも科学教育に携わっている者としては流石に苦笑いするしかなかった。
店員は話を続ける。「僕、身体に付けるのは効果なかったんですけど、車に付けたらすごく効果があって……」
熱の籠もった言い方で私に説明する。まさか私が先ほどの待ち時間、店内のSEVコーナーを半笑いで眺めていた人間だとは知らずに。
聞きながら思った。この手では最も科学的根拠がない上に法外に高額であるSEV、これを売ろうとしているこの人は悪なのか、それともまさか善意なのか。
SEVのお金を集める仕組みは(後述するように)非常に有能であるから、この人が儲け側に入っているならまだ理解できるんだけど、まさか金出して買ってないよね?店員だから販売促進のためにタダで支給してもらっているのよね?と心配になった。
まず、少なくともSEVは、科学的や技術的な根拠が示されていない。
よく「特許技術」という売り文句があるが、特許は新しいアイデアとそれっぽい技術説明があれば通る。科学的や技術的な裏付けは必ずともとも必要とされないということを皆は知るべきである。
流石に永久機関の発明とかはあからさまなのは却下されるけど、再現性を特許の出願書類に書く必要はないし、再現性がないなら別に特許証を出してしまっても他者の権利を侵害しないので何の問題もないし。
私も特許はいくらか書くので知っているが、知らない人も多いのかもしれない。
ちなみに、SEVの特許については、以下のブログが非常に面白かった。
Link: トムイグ, "SEVという商品の根拠となる特許を読んでみました ", 2016年12月23日,
https://minkara.carview.co.jp/userid/1160010/blog/39048470/
次に、「有名なレーシングチームも使っている。トップレーサーも使うんだから効果があるに違いない」という意見について。
SEVのすごいところは、性能向上についての科学的根拠はないが、車載したからと言って車の性能に悪影響も全くないということ。だって信者のメンタル以外に全く何の変化も起さない物であるのだから。
これが例えばオイルとか機能部品であれば流石にレーシングチームも怪しいものはできるだけ使わないであろう。ところが良くも悪くも何の効果もないから、車内に置くだけでスポンサー料が入るとなればコスパ最強である。喜んで置くだろう。だって金もらう方だから。
対してそんな製品を安くはないお金を出して買う立場としたらコスパはどうだろう。
「実際性能上がったからいいんだ」と言う人もいるかもしれない。しかし、それ本当にその製品のおかげですか?「フィーリングがいいから」と言うなら、あなたがそもそもこの商品に望んだのは性能向上ではなかったのですか?と聞きたい。その上で問題ないなら、私から何も言うことはない。
流石に消費者庁案件になってないのかなと思って調べてみた。
たとえば2008年に公正取引委員会が効果のない燃費グッズについて排除命令をだしていたり、定期的に優良誤認とされるものについては行政指導が行われている。ただSEVはその対象になっていない。
SEVのウェブサイトをよく調べてみると理由が分かった。すごい、全く具体的な効用を書かずに「フィーリングがよくなる」で押し通している。
これは排除できない。すごい。賢い。
さらに、高額な商品を買った人間の心理としては効果があるという方にバイアスが働く。そうでないと悲しいから。
そうすると、勝手に購入者が商品を良いように宣伝するようになる。これも人間の心理を突いた巧みなビジネスである。
しかし、お金集める方法としては本当によく出てきているな。お金を出す人がいなくなれば成り立たない仕組みだけど、人の心はなんと弱いのか。
藁にもすがって車の性能を上げたいという弱い人の心の隙を突いて、大手メーカーのレーシングチームや名の通ったレーサーを広告塔にして
金を巻き上げ、もとい、カーチューニング業界の経済を回している。
ただ、これは健全ではないと思う。
もっと真っ当なやり方で車好きの一般人を楽しませて欲しい。
「取り付けたら実際に性能が上がった」というケースがあることもちろん理解する。ただ、論理的にその商品との因果関係が証明できないでしょうということである。
犯罪者の多くが直前の食事にパンを食べていたからと言って、パンが犯罪を助長すると言えないのと同じ。
日常的な誤差の範囲でも高額商品を付けたことから心理的に効いたと思い込む気持ちや、別の要因があることを考慮してないケースとか。
とある高価なフューズ(これも怪しいが)が効果があるんじゃなくて、取り替えたときに接点が磨かれたことが原因で配線の導通が元に戻ったので、本当は純正フューズでもよかったとかね。※これにも言いたいこと山ほどあるが割愛。
レーサーも分かって広告塔をやっているのだろうか。効果もないのに「フィーリングがいいですねー」とかスポンサー料をもらって金を巻き上げる立場で言ってたらクソであるが、テストの時に用意された車は本当になんか別の要因で性能が異なっていた可能性はある。
とはいえ安くない商品を勧める広告塔になると言う意味ではプロなんだから、そこは慎重にすべきであって、罪はあるは思うが。
ただ、レーサーは個人がこういう科学や技術に無知だからということなら理解できなくはない(許すとは言ってない)。
そういえば、行政指導で排除されないためにかウェブページには効能書いてないのに、レーサーとかの広告塔には動画で「フィーリングいいですけど、これは○○についてもよくなるんじゃないですか」的な優良誤認まがいなことを言わせていた。ある意味法律のギリギリを突いていて商売上手であるが、これは罪が深い。
インプレッションしているレーサーも同罪。やっぱり許されない。
さらに企業としてコラボしているTRDやLEXUSは本当に
クソ残念である。ここが個人的には一番問題があると思う。
これはレーサーのように無知であるでは済まされない。
まぁ彼らも自分達のブランドの価値はSEVと同程度と思っているということだろう。
私もTRDやLEXUSの信用はSEVと同程度と思うことにする。
そういえば、トヨタのアルミテープチューンの検証動画で紹介されていた「理論派」チューナーがSEV(かそれに類する)と思われるネックレスをしていてすごく気になった。空力について理論的なことを言っているのだが、どうもすっと頭に入ってこなくなった。スポンサーで苦労しているんだろうかとか余計なことを考えてしまって。安易にそういう物を使うことが、こうやって説得力を失ってしまうことに気づいているのだろうか。
※ちなみにアルミテープチューンは静電気力と除電の話なので科学的・理論的根拠はありオカルトではない。ただ方法が適切か、必要とされるところで必要以上の効果があるか問題である。
上記を分かった上でもSEVを愛用しているという人は、別にそれでいいと思う。信教の自由というのは誰にでも保証されるものである。
SEVを通じてチューニングカー業界にお金を回したいというのであれば、ある種正しい目的での購入であると思う。私は中抜きされるのはイヤだけども。
性能向上目的ではなく「SEV付けてると不思議と事故らないジンクスある」とかそう言う微笑ましい理由で流行るのであれば健全な社会なのである。
価格は全然微笑ましくないので、それでも私はつけないけど。
車好きのみんなが健全で楽しいカーライフが送れるように、我々も賢くあらねばならないけど、業界もちゃんとして欲しいです。