
あれから何年経つのだろうか。今は亡き愛犬を連れた散歩の途中だった。隣町の街道沿いの輸入車の中古車販売店の前を通った時だった。普段はさっと通り過ぎるそのお店の前の駐車場にその車はいた。サラリーマンにはとても手が出せないであろう高級外車。その姿はどっしりと堂々とした面構えで鎮座していた。
メルセデスベンツGクラス、ゲレンデバーゲン。見るだけならタダとばかりに愛犬と近づき車内を覗き込んだ。さすが高級車、まず室内の木目が目に飛び込んできた、豪華だった。愛犬がタイヤにおしっこを掛けないようにと注意しながらしばらく見ていると、お店の車庫から恰幅のいいツナギを着た御仁が出てきた。
『どうぞ、ゆっくりご覧になってください』
「いやいや、通りすがりにちょっとだけ覗かせて貰っただけですから」
『そんなことおっしゃらずにどうぞどうぞ』
とドアまで開けて中を見せてくれた。
「私のようなサラリーマンにはとてもこんな高級車は乗れませんから・・・・いやもう十分ですから」
見ているこちらが恥ずかしくなってきた。
『そんなことはありませんよ』
『思ってらっしゃる以上に手は掛かりませんよ』
優しく、そしてどんどん話しかけてくるその方、実はこのお店のオーナーだった。
それが、ゲレンデを前にして初めて交わした会話だった。
実は、それがきっかけで2度3度と足を運ぶうちに話は予想外の早さでトントン拍子に進むことになり、1ヶ月もしない内に300GEを手にすることになるのである。
このクルマ、いわゆるクロカンタイプの車の中でも車高が高く、しかもスクエアなボディの為か矢鱈大きく感じるが、実は意外に小さい。ランクルを横に置くとよく分かるが高さを除けばひと回り小さく見える。しかも着座位置が高いため非常に運転し易い。相方もこれは気に入ってくれた。取り回しが楽で車庫入れも楽。これは乗った人でなければ分からないかもしれない。
300GE(全長×全幅×全高) 4,490 × 1,810 × 1,970(Gクラスは現行モデ ル以外はほぼ同じ)
ランクル・プラド(現行) 4,760 × 1,885 × 1,850
ランクル200 4,950 × 1,970 × 1,880
ところで、そのクルマ、確か7万km以上走った1994年モデルではなかったか。10年という年数が経っていたと思うが、それまで乗っていた塗装もやつれた真っ赤なVOLVO940ESTATEを引き取ってもらい国産の新車を購入する価格に幾ばくか上乗せした金額で手に入れたように記憶している。
3,000cc、直列6気筒のエンジンは平坦路では素晴らしい音を聴かせてくれた。が、2トンを軽く超えるこの車体にはやや荷が重すぎたようで、高速道路を追い越しレーンで走ることは躊躇われ、山道に入り坂道が続くともなると後続の車に道を譲らざるを得ないという状態だった。それでも長距離を走った。高速道路も走った。北は青森県まで行った。雪の中も走った。
重く、坂路、高速道路で鈍重でも、腐ってもゲレンデ、全身を分厚い鋼鉄で覆われたような引き締まったボディの剛性感、ガチッと閉まる扉の音、そして何よりその姿には惚れ惚れした。
Posted at 2021/12/29 20:48:49 | |
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