学生時代、夏合宿を軽井沢で行っていました。団体向けの民宿で、完全に貸し切りの状態でした。1年生は、入浴が最後になりますので、夕食が終わると、大急ぎで洗濯機をまわしていました。夜更かしをする元気などまったくなく、早く就寝しないと身の危険を感じるほど、日中の練習がきつかったのです。
ある日、ポロシャツを1枚洗い忘れていることに気づきました。慌てて、洗濯機に戻ると、ときすでに遅しでした。同学年の女子に占領されていました。最後の1台を早紀(仮名)が動かそうとしているところでした。
早紀は、裕福な家庭で生まれ育ち、やや浮いた存在になっていました。一例として、「免許持ってるけど、ポルシェ以外は運転できないの」と発言したことが、周囲からの不興を買ってしまっていました。本人は、半クラッチが苦手なことをユーモアで表現したつもりだったそうですが、逆効果でした。なにかと誤解されることが多かったのですが、根は優しい女子でした。
一縷の望みをかけて、その場にいた早紀に「1枚だけ混ぜてもらえない?」と訊ねてみました。
「あと30秒遅かったらアウトだったね。今、洗剤入れるところ。どうぞーっ」
こうして翌日の午後、少しだけ早紀の匂いがするウェアを着て、ゲームに臨みました。秋の団体戦のレギュラー決めが始まっており、重要な試合が続きました。
いきなり、5回対戦して1回勝てるかどうかくらいの格上の先輩との接戦を制しました。ゲームの流れを左右する重要なポイントが2回あり、いずれもネットインするラッキーがありました。この日、3連勝し、レギュラー入りが当確になりました。
洗濯の時間に、早紀を見かけたので、「今日もいいかな」と頼んでみました。
「ドジだね。洗濯物を2日続けて忘れるなんて」
「実は、違うんだよ」
早紀に、ゲンを担ぎたいという話をすると、とても喜んでくれました。「シャツ全部入れてみなよ」といわれ、既に干してあった分まで洗い直すことにしました。合宿の3日目から3日連続で、早紀の匂いがするウェアで通すことになったのです。さすがに全勝はできませんでしたが、格上の先輩をひやりとさせる試合をすることも重要で、そういう意味では、達成率100%だったといえました。
合宿が終わると、早紀は、部がチャーターしているバスには乗らず、宿舎まで迎えにきた実の兄のポルシェで、新潟の実家に帰っていきました。なので、彼女とは恋愛につながるエピソードは何もありません。今思えば、一種の「あげまん」だったような気がします。それも、とても稀少な、プラトニックな「あげまん」でした。
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2023/10/22 08:40:50