
本編1及び2に登場した親友の小倉(仮名)の思い出話です。
彼は、学生時代のテニス部の仲間で、長くダブルスを組んでいました。気の合うパートナーでしたが、一つだけ許せないことがありました。極度のチキンで、しかも試合中にそれが出てしまい、困ったことに隠そうとしないのです。
重要なポイントで小倉が歩み寄ってくると、だいたい危険水域に入った証左でした。対戦相手には、重要局面で切り札のプレーを繰り出す相談をしているように見えたことでしょう。実際は、まったく違います。
「やべえ、俺、緊張してきちゃったよ」
試合中にそれを言うなよ、と叱責したいところですが、相手にバレてしまうので、いつもこらえていました。
ある重要な個人戦では、試合開始前から、その発言が出たので、このままでは絶対に勝てないと思いました。
「小倉、歯を食いしばっとけよ」
かなり強くビンタをしました。
「お前もだ。俺にやれ」
身体が軽く飛ぶくらい強く叩かれました。
「よっしゃあ」と2人で声を揃えてコートに飛び出しました。
すると、刹那に小倉が駆け寄ってきました。
こいつまたかよ、と落胆したのですが、今度は違いました。
「あいつら、俺らの気合い見て思い切り動揺してたぜ」
別人の小倉になっていました。緊張しなければこれ以上頼もしいパートナーはいませんでした。試合では、彼が前衛で決めまくり、圧勝しました。
その次の試合は、準々決勝でした。一回戦を2-5からの5ゲーム連取で逆転勝ちしてから、シードも倒し、気づけば、1年生での勝ち残りは自分達だけになっていました。
しかし、快進撃はここまででした。第一セットを1-6で落とし、第二セットも1-4と一方的に押される展開が続きます。
例のごとく近づいてきたので、もういいよと言おうと思いました。この場面での彼のひとことは、まったく予想外でした。
「俺達さあ、このやり方で勝ち上がってきたんだから、このままでも悔いはないだろ」
流れを変えるには、戦術を変えるのが定石ですが、それが思い浮かばないほど圧倒されていました。
あとに先にも初めての経験でした。泣きながら試合をしたのです。最後は、小倉が3面先まで飛んでいきそうなド派手なアウトをしてゲームセットでした。
彼とは、今でも当時のプレースタイルのままで真剣勝負のシングルスを楽しんでいます。
最近、私が左膝に重傷を負ってしまったので、半年間はお預けですが、コートへ復帰して彼とシングルスをするのがリハビリの目標になっています。
Posted at 2022/11/30 07:36:54 | |
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