タイ料理なんて,辛いだけである。
タイ人は,高温多湿の国で暮らしているうちに,味覚がマヒしてしまったのではないか?
そう思っていた。
だが,深く考えると妙なのである。
タイ料理は単に辛いだけではない。
酸っぱい。甘い。香草もやたら効いている。
「辛ければよかろう」ではなく,唐辛子を中心に味の調和をはかっている節がある。
四川も韓国もメキシコも実はそうかもしれない。
ところがブータンでは,唐辛子を「香辛料」ではなく,なんと「野菜」として食べているらしい。
サラダが唐辛子?
日本の食卓では「今日のサラダは定番のトマトとレタス」という話が…
ブータンだと「今日はいつもの赤唐辛子と青唐辛子」となるのである。
狂気である。
ブータンは,かつて「世界一幸せな国」と呼ばれていた。
しかし,そんなに唐辛子を食べて,お尻は平和なのだろうか?
…などと,今年最初の冷し中華を食べながら,ふと箸が止まった。
私は,和辛子を大量に入れる。
酢ダレがまっ黄色に濁る溶解点限界まで溶かす。
だから,耳かき程度の小さじでは,実にまどろっこしい。
麺をすすった瞬間,鼻腔から脳天へ黄色い稲妻が突き抜けて…
「食事」ではなく,「罰ゲーム」が始まったのかと思う。
ただし,そこからが本番。
和辛子により,チャーシューの塩気が立つ。
キュウリの青くささが締まる。
錦糸卵の甘みが浮く。
酢ダレの輪郭がはっきりする。
つまり私は「和辛子で味を破壊している」のではなく,「和辛子の花を咲かせている」のだ。
そう,これこそ繊細な味覚である。
決っして味音痴などではない。
むしろ高度な食文化への善き理解者だ。
───と,ここまで味わったところで,我に返った。
結局私は,ブータン人を笑えないどころか…
和辛子の中毒患者だったのだ。
赤唐辛子・青唐辛子・黄和辛子
一見,赤パジャマ・青パジャマ・黄パジャマと同じ早口言葉だが…
噛んだ瞬間,神経細胞への宣戦布告がはじまる。
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