
二部 事実に物差しを当てる
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篠原 私は土曜だって、日曜だって休むことはありません。真夜中に呼び出されることが
月に8回ぐらいあります。月に6回ぐらい当直をしておりますが、さらに8回ぐらい夜中に呼び出されている。それは、なぜ、呼び出されるかというと、シートベルトをしないで、ぶつかってくれて大怪我をしてくれるからです。これからの季節は忘年会シーズン。みんな酒を飲んで、なおかつ当然ノーベルトで、あっちこっちで突っ込んでくれるので、夜の2時、3時にERにやってくれるわけです。そうなると、当然、私が呼ばれるわけで、いっぱい人が寝ている間に、働かざるを得ない状況になっている。したがいまして土曜も、日曜も、家族と一緒にどこかへ行くなんていうことは、絶対ありません。金曜日ともなれば
連休前。必ず人心が緩んで、ふだん以上にみんな酒を飲んで二次会、三次会へ行って、車で突っ込むということをやるわけです。そういうのは、みんなノーベルトなのですね。ですからせめて酒を飲むな、といってもなかなかこれは難しい。シートベルトをしなかったら車が動かないようになっていたら、僕の仕事はずいぶん楽になるのではと思うわけであります。
清水 アルコールを検知したらエンジンが動かないとか。
篠原 私は自分が楽をしたいから交通事故はゼロになってほしい。そのためにとにかく皆さんにシートベルトをしていただければ僕の仕事はうんと減るだろう。それだけで満足です。
清水 ERドクターの悲痛な叫びですね
篠原 ほんとうはもっとも皆さんにお見せしたいのは事故の現場の潰れたクルマと患者さんの重症度です。その乖離は想像以上です。ドクターカーで現場に行ってみたら、ものすごく潰れたクルマを見て「あーこりゃ、死んでいるだろう」と思っていたら意外と元気だった。
清水 ベルトを装着していたのですね。
篠原 そうです、ベルトを装着していたのです。あるいはクルマの潰れ方を見て「こりゃ、たいしたことないだろう」と行ってみたら3人亡くなっていた。
清水 ベルトなしで命を失ったのですね
篠原 そうです。この悔しさをどうやって皆さんに伝えることができるのか。ほんとは一つ一つの事故の写真をお見せすればいいのかもしれない。しかしわれわれにはいわゆる守秘義務があり、患者さんを見せ物にするようなことをしちゃいけないのです。これは法律で決まっております。ですからさっき私が申し上げた事故の事例だってほんとうは医者としては言ってはいけないことなのです。「患者さんがベルトしないために死にしました」なんていうことは口が裂けても言ってはいけいない。しかしこの悔しさは耐えきれないほどです。
清水 現場の車の潰れ方、それから患者さんの重症度、それを見なければわからない世界。
どうにかして現場の写真なしに、皆さんにわかっていただく方法はないか。精一杯の努力が先生の事故データなのですね。
篠原 「シートベルトをしろ、しろ」ってくだらない。ただ、それだけのことを
いいに来たのか。「そんなローテクなものを、いまさら」と思わないでください。ただの
ローテクなシートベルトをしないがためにどれだけの人が大怪我をして亡くなって
るのか。福島県の郡山周辺だけでこの数値ですからね。全国では押して知るべし。おそらく全国でどんなに多くの救急医がそのために戦っているのか。とにかくベルトしてください。
清水 ベルトなくして安全は語れないですね。ありがとうございます。
Posted at 2012/05/29 13:20:55 |
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クルマの安全 | 日記