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昔書いたミニ小説でも。
夜空を眺めていた。
眠らない都会の中、夜空は明るく星はよく見えなかった。
マンションの150階の一室からの眺めは絶景と言うより恐怖を感じる。
天の星々の代わりに地上の人工の光の海原が広がっていた。
この高さになると、地平線が丸く見えるのである。
他のビルがマッチ棒のようだった。
地上より空のほうが近く感じる。ここでは地上の喧騒が嘘のようだ。
街の雑音はここまで届かず、ただ風が吹き抜ける音と
時折車のクラクションの音が微かに聞こえる程度だった。
マンション最上階の部屋のバルコニーに幸子は
肘をかけ、夜景を見つめていた。

「ふう。。。」
「疲れた…わ。」
髪を掻き揚げる仕草は同姓から見ても目を奪われるように決まっていた。
しかし、自然な仕草なので嫌味は微塵もない。
腰近くまである黒髪は長く癖は無い。
幸子は仕事で今日ニューヨークから戻ってきたばかりだった。
時差ぼけは慣れているが、今回はうまく調整できないでいた。

「まったく、昨日のプレゼンテーションは何よ!」
「ニューヨークまで飛んだのに」
「契約寸前の計画が、っっぱあぁ!じゃないの!」
「判ってるの?武!」

ヒステリー気味に白い肌を紅潮させていた。

バルコニーから振り向きながら幸子はピアスを投げつけた。
ピアスはソファーに座っていた武の手前2メーターにポトリと落ちた。
「まあ、そんなにカッカすんなよ。せっかくの夜景が台無しだぜ」
缶ビールを片手に笑っている

「まあ、今回はおじゃんだったけど、そんな日もあるわな」
「気にしないよ---に」

「なに言ってるのよ!この計画に何社の運命が掛かっていたのか
知ってるでしょ?中には自殺未遂起こした、担当も出てるのよ」
「武が二日酔いなんかでプレゼンするから…あんなところでもどすなんて…。」
思い出した幸子は、半泣きでその場に座りこんだ。

ぐびぐびと、1缶飲み干しカラの缶をテーブルに置き2本目の缶ビールを
持ち、立ち上がった。
座っていると小さく見えたが、立ち上がると長身なのがわかる。
足がかなり長い。すらりとした体型は見事に均整がとれていた。
顔は際立って整っている訳ではないが、何か不思議な魅力があった。

「まあ、そんなに落ち込むなよ。プレゼン内容は良い出来だったんだ。
事実、あのアト数社からのオファーが入ったらしいし。」
「今回のは報酬金は無かったけどな。」
「早く忘れて、次にそなえようよ。これからだよ幸子。なあ」
「一杯やるかい?」
そう言って、缶ビールを差し出した。
「いらないわよ!!」
武の差し出した缶ビールを払いのけた。
「あっ!」
缶ビールはしばらく空中に静止したように感じたが、ふっとバルコニーの
外の闇に消えていった。

「やべぇ!」
バルコニーに走り寄り下を見下ろすが、そこには闇があるだけである。
「え?落ちたの?」
「あ、ああ、落ちた。150階からな…」
缶ビールといえども地上500mからの落下である。
人に当たれば間違いなく死ぬであろう。

「下に行って来る」
上着を羽織り部屋に設置されている専用高速エレベーターに乗りこんだ。
「え??き、気をつけて」
鼻を赤くし混乱している幸子は言った。

幸子は立ち上がり部屋を何気なく見渡した。
この最上階の部屋は2人で数々の企業に
プレゼンを行いその成功報酬で購入した、いわゆる血と汗の結晶である。
企業が2人に依頼するのは成功率がたかいからだ。
商品説明を用意するのは企業で、そこにプラスαの言葉を
付け加えて発表する。
商品がいいのはもちろんだが、それに付け加えて、2人の言葉に
何か魅力があるからである。
言霊と言うのであろうか、プレゼンが完璧なのも、もちろんだが相手企業・
客先から商品についての質問や、疑問、文句が出ないのが特徴であった。
中にはトンでもない商品の契約にも成功している。が、それは後で
企業間で裁判沙汰になっているが、2人にはもう関係無い事である…。

2人は結婚している訳ではない。
5年前に出会った時、付き合った事もあるが武の酒癖の悪さに
幸子は1週間で冷めてしまい今に至っている。武はちょっかい出す度に
幸子にうまく避けられて、今では自分でも解らなくなっていた。
仕事上のパートナーとして暮らしている関係だけでスッタモンダは無かった。

エレベータが下から上がり始めた。
武が戻ってくるようだ。
落ち着いた幸子は投げたピアスを拾い付け直した。

「ポーン」エレベーターが到着した。
ドアが開く。

「どうだった?」小走りに駆け寄ろうとした幸子の足が止まった。
武の後ろに3人の男が乗っていた。

「もう1人いたんだがね、、お嬢さん。重量オーバーだってんで
置いてきたんですわ」
妙に派手なセーターを着ている男が言った。
首が短い、いや、筋肉の上に脂肪がついているので、頭が体に
埋まってるように見える。
服とは不釣合いの姿だったがそのアンバランスが怖さをかもし出している。
一目で一般人と違う様相をしていた。

「いや~ねぇ、お嬢さん、車で通りかかったらねぇ、いきなり
ボンネットにドカンと当たってねぇ、それでブシュ-ッと弾けたんですわ。
そりゃ、どっかの組の弾かとおもいましてねぇ」

「そのままスピンで、交通情報の掲示板にどかん!」
派手な仕草で両手をあげた。左の中指から小指が、、無い。

「…武、ほんとなの?」
「あ、ああ、そうらしい。」
「ら、らしいってどう言うことなの」
「下に着いたら落下物が車に当たったって、…。」
「それで信じたの?そんな車道まで届くほど強く飛んでいないはずよ」
「説明したらそうだって…缶だって」
「説明なんかなんでするのよ!?」

「まあまあ、そんなに言い合わなくても。」
一見普通の人のような紳士風の男が言った。
「我々もとくに怪我をした訳ではないし」
ステッキをコツコツとフローリングの床に突きたてた。

「…判ったわ、、払います。幾ら必要なの?」
幸子は小切手帳を取り出し、ペンを握った。
この種の輩は早期解決しないと後々面倒になることは解り切っていた。
しょぼくれている武を横目に交渉をしようとした。

「まあ、待ってください。私は貴方達にたかるつもりはありません」
「下の表札を見たんですが貴方方企業系のプレゼンテーション
専門の会社を経営してるのですよね?」
「…」幸子は黙って紳士風の男の目を凝視した。
ここで、はいそうですと答えるのが得策か、
この男が何を考えているのか理解出来ないでいた。

「【アルファオメガさざんくろす社】と言えば有名ですからね。」
「数多くの企業への商品の売りこみ、プレゼンテーションを専門に行い、
一級品の商品を高額で契約を結んだり、ガラクタ同然の商品を
言葉巧みに法律ギリギリの販売法を駆使し、契約を成功させている」
「ある意味、我々に近いものを感じるのですが、いかがでしょう?」

「い、いいえ!貴方方ヤクザ者とは何の共通点もありません!」
「私達は企業が提示した商品を解りやすくユーザーや販売会社に説明
し契約するのが仕事であってピンはねや賭博とは無縁の仕事です!」
幸子は言った後にゾッとしていた。
もう1人の男が背負っていたバックからドスを取り出していたからだ。
無言のままそのドスをスッテキを持った男に渡した。

「おい」無表情にステッキの男が言った。
「ちっ」ちらりと幸子を見て舌を鳴らしたセーターの男が空缶の置いてある
テーブルに左手を置いた。
「運転していたのはこいつなんですよ、幸子さん」
ステッキを男に渡し、上着をソファに掛け、セーターの男に寄った。

「私共は何事もケジメで動いてるんですよ」
「成功か失敗か、YESかNOか。」
「デジタルみたいなものです。0か1かしかないのですよ」
「こいつは私を目的地に連れていく事が出来なかった」
「どんな理由であれ、、失敗したのですよ」
くっと音がし、ドスが鞘から引き抜かれた。

「ひっ」幸子が言った。
武は声も出せずに立ち尽くした。膝が笑っていることに気づいていない。

この世のものとは思えない美しいライン現れた。
片側に刃つけがされていた。
まるで濡れて輝いているようである。刃紋がうねって照明が反射して
宝石のようであった。
しかし、恐ろしい輝きであった。見たものを萎縮させるほどの
威圧感が幸子と武を襲った。
見ているだけで皮膚がパックリと裂けてしまいそうであった。

抜き身のドスをセーターの男に渡した。
「な、何する気なの?」
咽でつかえていた言葉をひり出して言った。

「なに、ここでこいつにケジメを着けさせるんですよ」
「何、ひと指し指の第一関節だけです。手としては使えますよ」
「…やれ。」ステッキの男が冷淡に言った。

「止めて!!どうしたいのよ!?あなた達なんなのよ?」
我慢していた感情が一機に溢れ、叫んだ

「待て」
セーターの男は指を詰めるのを止めた。
突き立てられているドスと人指し指の間から血が滲んでいた。

堪えきれず座りこんだ幸子に男が近づき、膝を付いて言った。
「これも何かの縁です。」
「ちょうど私達は交渉人を探していたとこなんです」
「ある商品の交渉をお2人にお願いしたいんです」
「受けていただけるなら、この事故はチャラにしましょう。報酬も出します。」
呆然と話を聞いていた武が言った。
「駄目だ!そんなの、、受けられない!」
幸子もその意味がよく解っていた。
1度で終わるはずが無いからである。
手を出したらもう表の世界には戻れない。
危険な交渉であることは間違い無かった。

「ではケジメをつけさせてから話を進めましょうか…」
ちらりとセーターの男に目をやった。
「グ…ゴリッ…」ドスを持った男の右手が動き、枯れ枝を押し潰すような音がした。
透明のガラス製テーブルに赤い染みが広がっていった。
その赤い池の中に異物が浮かんでいた。
セーターの男は一言も発しなかった。が、額には玉のような汗が
浮かんでいた。
赤いフィルターがかかったように、強化ガラスのテーブルの下の白い
絨毯(じゅうたん)に赤く映っていた。

幸子はそれを見て意識を失ってしまった。。。
。。。。。。。。。。。。。。。

「ン…」
どのくらい経っただろうか。幸子が意識を取り戻した。
「私…」ソファーに横になっている今の状況が把握できないでいた。
綺麗に片付いているガラス製テーブルを見て我に返った。
「武!!あの人達は!?どうなったの!?…」
不安な顔をして武に尋ねた。
「あ・ああ、帰ったよ」
幸子に背を向けた武がベランダに立ってタバコをふかしていた。

「…うん。…でも、、でもしょうがなかったんだよ!」
振りかえった武の右手小指には赤く血の滲んだ包帯が巻かれていた。
「武!手…」青ざめた幸子が叫んだ。
「奴らの仕事、、受けなければ切り落とされるところだったんだよ!」
「頑張ったんだけど、駄目だった…」
キズは追ったものの無事だったようだ。
幸子が失神している間に武に仕事を受けるように迫った。
気の弱いところを見透かされ、その上脅しを受けた武には、
もう請け負うしか方法は無かった。

「ふう…。」指が無事なのを聞いた幸子はほっとして、冷静に考えた。

今思うと奴らは初めから私達を狙っていたとも考えられる節がある。
落下したビールが車に当たったと言っていたがビールは、きっかけを
与えただけで、当たった車も実際見てはいなかった。
会社の名前も知っていた。いや、調べていたと考えるのが妥当だろう。
そう、仕事を請け負わせる為に全て仕組んでいた、、様子を伺っていた
可能性が高い。しかし、その為にあのセーターの男に指を切断させる
なんて事が、あり得るのだろうか…。
そこまでして私達に請け負わせたい仕事って。。。

「ねえ、武、、仕事は、、何を請け負ったの?」
落ち着きを取り戻した幸子が言った。
150階のベランダに背を持たれかけた武はうつむいたまま答えた。
「ま、麻薬の販売ルートとその品質のプレゼン…。」
「え?」
幸子は自分の耳を疑った。
逃れようの無い犯罪幇助である。国によっては終身刑になる重罪である。

「後で連絡するからって…。」
「…け、警察に行きましょう…、もうそうしないとだめだわ」
「ダメなんだ…。」
頭を抱えた武が言った
「なんで?なんでだめなのよ?」
「奴ら知ってるんだ、知ってたんだ!あの事を」
「あのよるの事を」

     >>>続く
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