朝起きて、自分の両足を見た瞬間、
私は凍りついてしまった。
いつもの2倍くらいの太さに腫れ上がり、痛みで歩くこともできない。
しかも、その影響で体温があがり、高熱時特有の「ふわふわ」した感覚。
原因は、金曜日に何かの虫に刺され、それが化膿してしまったこと。
救急病院での手当もむなしく、明らかに悪化している。
JOY耐決勝当日、朝6時のことだった。
前夜、監督からの言葉が頭をよぎる。
「最悪、お前がドライブしない作戦も考えておくからな」
・・・冗談じゃない。
ここまできて走れないなんて、絶対にありえない。
なにがなんでも走る。
そう決めて、私は自分に暗示をかけた。
痛くない。腫れてない。熱なんかない。
そうするとあら不思議。
スタスタと歩けるようになった。
2010年の私のJoy耐は、こんな試練とともにスタートした。
決勝レース前のピットは、緊張感と興奮が入り混じる、独特の雰囲気が好きだ。
でも今年の我がチーム「TOKYO NEXT SPEED」は、ひと味ちがう。
高橋国光さん、松田秀士さんという、
日本が誇る名ドライバーを迎え、なんというか「安心感」が漂っている気がする。
スタートドライバーは国さん。
グリッドは90台中86番グリッドと、
もてぎのストレートが終わる間際くらいまで後方だが、
我がマシン「チャレンジング・インサイト」の強みはなんといっても燃費。
後ろからジワリジワリと、速いマシンを追い上げていく「カメさん作戦」だ。
予定では7時間を2回の給油で走り切る。
給油1回ごとに10分間のピットストップが義務だから、
給油回数は少ないほど有利。
ラップタイムでは約20秒ほどの遅れをとるインサイトは、
さぁ、果たしてどこまでいけるか。
10時30分、ついにグリーンシグナルON!
すべては順調に進行していた。
国さんはさすがの貫禄で、安定したタイムで周回を重ねる。
マシンの調子も良さそうだ。
しかし1時間経過した頃、なんと!
はやくもセーフティカー(SC)が導入された。
そこで国さんとピットとの意思疎通がうまくいかず、
国さんはピットインして給油へと向かった。
SCの合間に給油を済ますのは、耐久レースの王道だ。
しかしインサイトの場合はこれが、作戦よりも1時間以上早いタイミングだった。
私は慌てて出走準備をして国さんと交替。
満タン状態のインサイトでコースインした。
監督は、「具合が悪くなったら、いつでもピットインしてこい」
と念を押して送り出してくれた。
国さんも秀士さんも本当に心配してくれて、感謝の気持ちでいっぱいだ。
そんな気持ちからか、走れた嬉しさからか、
今年で7回目の参戦になる私のJoy耐歴の中で、いちばんリラックスしている自分がいた。
どんなに抜かれても、どこのコーナーもストレートも、
素直に「楽しい!」と思える。
走っているうちに、どんどん元気になってきて、
20ラップを超えても「まだまだイケるな」と思えたほどだった。
しかしコース上はスピンやコースアウトするマシンが増え、
黄旗がしょっちゅう出る。
そんな頃、目を疑うようなピットサインが出た!
「給油なし P IN」
なんと、給油をせずにドライバー交替だけ行うという指示だ。
えー、まだ走れるのに、と思ったが、
従うしかない。
こうして私は無事に26ラップを走り、ピットへと向かった。
交替したのは、もう一度、国さんだった。
時刻は午後1時過ぎ。
雨がポツリポツリときていたが、まだウェットになるほどではない。
国さんはまたしても、安定したタイムで2時間を走りきってくれたが、
実はその間、無限のCR-Zで出場していた「チーム国光」のドライバー、
伊沢選手と山本選手たちと、
コース上でいろいろと「遊んで」いたらしい。
国さんいわく「後ろからついていって、真似して走ってみたりね。面白かったよ」
同じレースで監督とドライバーがバトルする・・・。
そんな光景が見られるのも、このJoy耐の魅力かもしれない。
さて、午後3時過ぎ。
チャレンジング・インサイトは無事に、
3番手にしてフィニッシュドライバーとなる、松田秀士さんに交替。
このちょっと後から雨が強まり、
レースはさらに荒れ模様になっていく。
しかしそこは、現役最年長GTドライバーの経験と貫禄。
まったく危なげない走りで、ピットは安心して見守ることができた。
チェッカーまでラスト10分、というところでのSC導入という、
前代未聞の状況を、秀士さんはこう振り返った。
「もうみんな最後だから燃費とか関係ないし、
全開でスリーワイドでコーナーに突っ込んでくんだからすごかったよ」
最後の最後で、クラッシュしたマシンも少なくなかったらしい。
しかも、すでに交替から3時間半、60ラップ以上も走り続けていた秀士さん。
そんな中でも無事に、完璧にチェッカーを受けてくれた秀士さんを、
チーム全員で拍手で迎えた瞬間は、本当に感動的だった。
そして、過酷な7時間をノントラブルで闘い抜いたインサイト。
総合58位、エコカークラス7位という結果には決して満足してないけれど、
ハイブリッド、そして2ペダルでここまで楽しめるマシンを誇りに思う。
ちなみに3台出場したインサイトの中では、トップでフィニッシュ!
たくさんの応援、そしてご協力に、無限大のありがとうを贈ります。