10年位前ある雑誌で、有名なアルペンスキーの選手(誰だか忘れた、多分ジョルジョ・ロッカだと思う)のインタビュー記事を読んだ。その中に、「私はイタリア人だが、自転車ロードレースというスポーツは好きになれない。あらゆるスポーツの中で唯一、絶対的に“主と従”の身分差があるからね」という記述があった。92年の「ツール・ド・フランス」第14ステージ。(この年から、NHK衛星放送からフジテレビが放映権を取得し、山岳ステージの衛星中継を独占で行っていた)86、89、90年と優勝したZチームのエース、グレッグ・レモンが序盤のステージからまるで精彩を欠いていて、このアルプスの山岳ステージも、最初の超級カテゴリーの山岳に入ったところで遅れ始め、リタイアするのは誰が見ても明らかでした。レモンのリタイアの瞬間を捉えようと、TVカメラや写真カメラマンを乗せたオートバイがその後ろにハイエナのように何台も群がっていて、「残酷やなぁ~(苦笑)」とTVを観ていたけど、今にも止まりそうになりながら上るレモンの後ろに、ピッタリとアシストのジルベール・デュクロラサールが付いて走っていた。“エースのレモンはもうダメだ”と判断したとき、Zチームのルジェ監督は全てのチーム員に「レモンをアシストしなくていい」と指令を送ったはずである。スポンサーのために、残った選手で成績を残すようにレースを組み立てていかなければならないから。でもデュクロラサールだけは、エースのレモンと共に心中(リタイア)することを躊躇なく選んだ。後のインタビューで、「苦しんでいるレモンを捨ててレースをすることはできなかった」と語っていたけど、その姿は本当に胸を打った。それは、“アシストの働き無しにエースは勝てない。だから、アシストとして走ることに信念を持っているんだ”という意志だったんだと思う。そして、レモンが遂に走れなくなって自転車の上に突っ伏した姿をカメラが囲んだ。映像には映らなかったけど、デュクロラサールも一緒に自転車を降りた。この日、デュクロラサールが見せたアシストの姿が、今でも強く印象に残っている。