
ある朝届いた友人からのLINE、「事故りました」。
車屋さんに次の車を見に行ったあと、廃車となった元愛車に忘れ物を取りに行った。
ロードサービスによって引き上げられた友人の愛車は無惨な姿になっていた。タイヤは完全に潰れ、バンパーやフロントグリルは外れかかって、ラジエーターがむき出しになっている。足元にはエンジンオイルが滲む。
LINEで画像が送られてきてどんな破損状況か事前に分かってはいたが、いざ目の前にすると言葉を失う。友人に怪我がなくて本当によかった。
愛車が自分の命と引き換えに主人を守った。そう思うと、このフロントがひしゃげた車をただの事故車としては見られない。車としての最後の仕事を立派に果たした姿がそこにはあった。
あの事故の衝撃を君が全て受け止めてくれたおかげで友人は無傷で帰ることができた。きっと痛かっただろう。私からもありがとうと伝えたい。
バキッという音をたてて運転席のドアを開き、友人が車に乗り込む。ハンドルにもたれかかって友人が何かをつぶやいた。涙声だった。
後部座席には潰れたタイヤやフロントから脱落したであろうパーツが横たわっている。近いうちに解体される運命にある車、ついこの間までにぎやかだった車内がそこにあったとは思えなかった。友人のすすり泣きが聞こえる。
どこへ行くにも一緒だった、自分の相棒とも言える存在。それが一瞬の出来事で、唐突にいなくなってしまう。どんなに長く大切に乗っていても、一瞬で最期を迎えてしまう。
ああ、私のシーマにもいつかこの日が訪れるのだろうか。事故で廃車となるか、修理不能となり廃車となるか、はたまた自然災害により廃車となるか、どんな形で最期を迎えることになるかは分からない。
人間である以上運転中にミスは起こるし、機械である以上使い続ければどこかが壊れる。自然の脅威に逆らうことなどできない。いずれにしても、「その日」は唐突にやってくる。こちらの心の準備などお構いなしに。
もし明日、シーマとお別れすることになったとしたら…想像できない。この世界からいなくなってしまう愛車に乗り込み、きっと私も友人と同じように涙を流し、言うだろう。「…ただいま、ごめんね」と。
「その日」が来る前に、一緒にたくさんの思い出をつくろう。行きたい場所に行き、やりたいことをやり、会いたい人に会いに行こう。その思い出たちが、きっと次の一歩を踏み出させてくれるから。
終わり
ブログ一覧
Posted at
2025/06/16 22:32:01