
近年、日本の新車市場ではSUVが圧倒的な存在感を示し、2010年代以降 SUV は「万能性」と「デザイン性」を武器に急速に普及しました。しかし、その裏側には必ずしも可視化されない課題が存在します。本稿では、日本市場を中心に SUV の影の側面を学術的視点から整理し、あわせて英国で進みつつある SUV 規制の動きも紹介しながら、より立体的に考察します。
1. 燃費性能の構造的課題
SUVの重量増・車高増による燃費悪化は「構造的」な弱点です。近年のハイブリッド化によって改善はしているものの、同一プラットフォームのセダンやコンパクトカーに比べて依然不利であることは多くの研究で指摘されています。特に都市部のストップ&ゴー環境では燃費低下が顕著で、ガソリン価格の影響を受けやすい構造的脆弱性と言えます。
2. 維持費の増大──大径タイヤ・保険料・税負担
SUVの維持費の高さは、日本のユーザーにとって大きな関心事です。18〜20インチ級のタイヤ交換コストは15〜30万円規模になることもあり、さらに重量税・自動車税・車両保険なども割高になりやすい構造があります。初期費用よりもむしろ長期的な維持費の差が家計負担に影響する点は、もっと意識されても良い部分でしょう。
3. 都市部での使い勝手と駐車インフラの問題
都市部の道路インフラは大型車向けに設計されていないことが多く、SUVは物理的制約に直面します。立体駐車場の高さ制限(155〜160cm)、コインパーキングでの車幅ギリギリ問題、細街路でのすれ違いなど、日本の都市構造はSUVに優しいとは言えません。
コンパクトSUVの人気が高い理由の一つは、こうした都市部での「サイズ制約」を回避するためでもあります。
4. 安全性の二面性──“自分に強く、他者に厳しい”問題
SUVは乗員保護性能が高い一方、歩行者や自転車など第三者への加害性が高いことが海外研究で繰り返し指摘されています。
重心が高い → 横転リスクの増大
ボンネット高が高い → 近距離の死角拡大
衝突時、歩行者の上半身に直接ダメージが集中
小型車 vs SUV の衝突では小型車側の被害が相対的に増大
米国ではSUVとの衝突時の歩行者死亡率が“乗用車の約44%増”という研究結果もあります。
このように「大きい車=安全」とは限らず、誰に対して安全かを考える必要があるのです。
5. 環境負荷──日本のSUV市場は国際的にどう見えるか
SUV増加がCO₂排出量を押し上げていることは、国際比較の中でも明確に示されています。
IEA(国際エネルギー機関)の報告では、世界のSUVによる年間排出量は約10億トン──もしSUVを一つの国とみなせば「世界第5位のCO₂排出国」に相当します。
日本では EV シェアが1–2%台と低いため、SUVの増加は気候政策上のボトルネックとも指摘されています。
◆【
国際比較】英国で進む「SUV規制」の動き
ここで、日本の議論をより立体的にするために、英国で実際に動き始めている“SUV抑制政策”を紹介します。
● 1) ロンドン市長:パリのSUV課徴金施策を「注視」
Sadiq Khan(ロンドン市長)は、パリで導入された「SUVの駐車料金を大幅に引き上げる施策」を参考にし、ロンドンでも検討したいと表明。しかし、市長は現在「SUVへ追加課金を課す権限を持たない」ため、法改正が必要とされています。
● 2) 地方自治体レベルでは既に“追加負担”が開始
英国初の本格的SUV規制は ウェールズ・カーディフ市で始まりました。
非EVの大型SUV(車重2,000kg以上)
EVの大型SUV(2,400kg以上)
これらを対象に、駐車許可料を割増にする制度が導入。走行禁止ではなく、“使うほど負担が増す”仕組みです。
● 3) 安全・都市形成の観点からの批判
英国内ではSUVが都市部の約30%を占めるまで増加し、
道路占有の増大
歩行者・自転車の安全性の低下
駐車スペース不足
都市景観の阻害
などを背景に、非政府組織や大学研究者が規制強化を求める動きが拡大しています。
● 4) 日本への示唆
日本ではまだ同様の規制は始まっていませんが、
都市部のインフラ・安全性・環境負荷という問題構造は英国と同じため、
今後は日本でも議論が高まる可能性があります。
■まとめ──SUV時代の「選ぶ力」
SUVは確かに魅力的です。しかし、市場が成熟してきた今こそ、
構造的な燃費の弱点
維持費の高さ
都市部インフラとの不整合
第三者への安全性
環境負荷と国際的規制の潮流
これら“影の部分”を理解した上で、自らの用途・生活環境・価値観に適した選択をすることが重要です。
特に英国などで進む「SUV規制」は、日本にとっても他人事ではなく、
今後の日本市場がどの方向へ進むのかを考えるための重要な材料になります。
SUVの光と影。その両面を見つめることで、より賢いカーライフを築くことができるはずです。
Posted at 2025/11/23 15:32:02 | |
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