みんからユーザの書き込みを見ると、フェライトコアを後付でとりあえずどこかにつけるとノイズが減る!
という適当な感覚でフェライトコアを取り付けている人を良く見かけますが、
自動車ECUの技術屋である自分からするとトンでもないことです。
まず、フェライトコアはオカルトアイテムではありません。
れっきとした電子部品です。詳細なスペックシートがあります。
ノイズの除去を目的とする事が多いと見受けられますが、多分皆さんが普段ノイズとしてとらえているのはラジオなどの可聴域の雑音の事だと思います。
フェライトコアが扱う周波数帯は可聴域より遥かに上であり、単純に効果は出ません。
FMやAM帯に不要ノイズが乗っているならばそれらのノイズを除去するということが偶然出来るかもしれませんが、スペックシートも見ずに闇雲に色々な配線にフェライトコアを付けるのは大変危険です。
基本的にはフェライトコアは交流(時間的に電圧が変化している信号だと思っていただければOK)に対して働く素子です。
ここで重要なポイントは、フェライトコアはある周波数に対して抵抗となる。
抵抗に電圧をかけると電流が流れて発熱する ということです。
また、本来取り付けた線が伝えたい周波数の信号を吸収したり、反射したりしてしまうという危険もあります。
発熱する場合の危険としては、もともと雰囲気温度の高いエンジンルーム内でコアが発熱し、
メーカーの想定するワイヤの耐熱温度を超えたとしましょう。
ワイヤの中のシールド線や芯線が露出してショートするかもしれません。
ただの信号線なら良いですが、電源線とグランドであれば最悪の場合出火します。
(たいていの場合はヒューズが切れるので大丈夫ですが・・・)
そもそもその取り付けようとしているフェライトコアは車載向けなのでしょうか?
車載向けは防水・耐震・防塵・耐熱(-40℃~125℃)が原則です。
車載対応でない物を使用してケースが変形し、ワイヤにテンションをかけてショートや接触不良等を招きかねません。
さらに、その取り付けようとしているワイヤが扱う信号の種類や必要な周波数は判っているのでしょうか?
単にエンジンをかけようとしたらかからない。かかったけどウォーニングランプが点灯する。
といった症状なら危険は少ないと思いますが、もし走行中に不具合が発生したらどうするのでしょうか?
実は自己診断がターゲットとする不具合が発生しているのに、取り付けたフェライトが減衰させた事で
隠れてしまっていて、ある速度や温度に達した場合に唐突に危険なモードへと陥ることになるかもしれません。
判らないことには手を出さないが鉄則です。
部品メーカーは各自動車メーカーの厳しいノイズ規制、国ごとに設定されている規制に合格する為に、後付フェライト以前に色々な対策をしています。
・ノイズを食らっても誤動作しない
・ほかの部品の誤動作の原因となるようなノイズを出さない
という事の為に膨大な時間と費用をかけています。
自分もそういった仕事をしている一人です。
ノイズの世界は奥が深く、各部品単体、車に組み付けた状態、稼動状態、経年劣化まで含めて
保証期間中、場合によっては半永久的にバランスするべく神がかり的かつ余裕度のある定数(部品それぞれののスペックと思っていただければOK)を導き出すために大変な努力をしています。
(見えないだけで部品の内側にきちんと対策部品が実装されています。)
(実のところワイパーや電動ミラー、ウォッシャー用のポンプ等のモーターは昔は結構酷いノイズ出てましたが・・・ そういった危険なやつらにも負けないように作ってます。)
もちろん、ユーザーが変な事を行う場合も想定したりしていますが、
その想定を超えることを行った場合にこれらの努力が水泡に帰すという事を心してください。
だからこそ僕はあまり自分の車をいじりません。
特に電子系は判る分だけ不明点が多いところは怖くて弄れません。
フェライトコアの基礎知識
http://www.murata.co.jp/products/emc/basic/ferrite/reason.html
本当に不要なノイズがある線に乗っている場合に対策が必要であれば、
以下の測定器を使用します。
・オシロスコープ ・・・電圧、電流からノイズの形を見る (FFTで簡易的にスペアナの代わりも出来る)
・スペクトラムアナライザ ・・・ノイズの周波数成分を分析する
・インピーダンスアナライザ ・・・ 対策部品や作ったフィルタの周波数特性を測定する
・ネットワークアナライザ ・・・ 対策後に理想的な終端抵抗となっているか確認する等
・各種プローブ ・・・ 測定による影響を最小限に抑える事、正確な値を測定する為に色々必要です
・電波暗室 ・・・ 外来ノイズの影響を受けずに測定したり、微小なノイズを受けるのに必要です。
これらをそろえようとすると軽く億を超えます。
逆に言うとこれらが無ければ効果的で不具合を出さない対策は不可能です。
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Posted at
2011/02/09 00:04:34