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2016年11月12日

Def busta 第一章・最終話

Def busta 第一章・最終話
















      決断



そんな襲撃事件から一夜明け、十勝晴れの抜けるような青空が広がった日、その事件はMBM十勝研究所・KAMUI社格納庫内に曇天模様を落としこんだ。
皆の前で電話を受けているレイ。心配そうな面持ちの作業員達。それから、少し離れた位置の作業台には、下村が腰からもたれかかっていた。
その暗雲たる原因の電話主は、今回の事件の黒幕であったから他ならない。


電話口の向こう側は他社の重役室。そこへ、電話の主が窓際に自分のシルエットを落とす。
無言のレイ 「…」








そんなレイに電話主は、上から見下ろすような口調で語ってきた。

「さて姫君。もう貴女の出番ではないですよ。堀井さんに代わって頂けますか?」




レイは受話器を握る手に力が入り、怒りに震える唇で彼の言葉を復唱した。

「貴方がたは 《 零 》の性能ダウンを望んでいるのね… エンジンを600ccにして、バッテリー出力を20%も落とせと仰るのですね。それはうちの親会社も理解していると…」





レイの周りで作業員達がどよめく。
電話の向こう側では、余裕の態度で煙草に火を点ける男の姿がある。

「そのとおりですよ姫君。しかしこれは世界中のバイク・クルマメーカーの意見なのです。それを伝える憎まれ役を、私どもが代表して、行っているだけなのです」





「ふぅ~」 とのんびり煙を吐く電話主。

「抜きん出た高性能は必要無いのです。新技術を投入しても、他社の製品と同性能くらいにしておけば良いのですよ」





『詰みだ』 そんな言葉が彼の頭をよぎる。これはビジネスという名の狩り、そう、捕食者の余裕でもあった。相手を自分の思い通り、手の平で転がしながらコントロール化におく。時に希望も与えながら、一気に地獄へ叩き落とすべく狙いをすまし、獲物の息の根を止める。

ほぼ想定内で動いている自分の計算高さに満足し、そんな自己陶酔から彼は、右の口元を嫌らしく吊り上げ、もう一度心の中で 『詰みだ』 そんな言葉を呟いた。





固く結んだ口元に力が入るレイ。
ニヤニヤと勝ち誇り、下卑た笑みを漏らす電話主。

「貴方がたの《零》は言わば驚異なのです。その新技術で存在が脅かされる会社が沢山あるのです。国内だけではなく、石油輸出国やレアアース提供国との、国交問題にすらなりかねない事態なのですよ」





また煙草の煙を一息吐く。

「発売するなと言っている訳ではありません。譲歩策のご提案をしているのですよ」






今にも高笑いしたい衝動を必死に抑え、言葉だけは冷静に吐き出す。

「さあ、お分かり頂けたら堀井さんに代わって下さい姫君」








その時レイは、自分の中で何かが “プツン” と切れたのを感じ取った。目を大きく見開き、突然声を張る。




「ふざけたこと言わないで !! 」




無言で目を細める電話主。 更に吼えるレイ。

「良い物を造りたい !! 世界一の物を造りたい !! そんな技術屋の想いをないがしろにして、お金儲けや外交しか考えないアナタ達には、もうウンザリよ !! 」





一度大きく息を吸い再度咬みつく。

「絶対アナタ達の好きにはさせない!これからは私が全てを背負って立つんだからぁーー !! 」






それは、おおよそ人との争い事を避け、あまり目立たぬよう、控えめに歩んできたレイの人生において、初めて牙を立てた瞬間であった。絶対に許せない相手への怒りが、彼女の殻を破り、捕食者への反撃に転じたのだ。





まだ無言の電話主。 それからレイは 『ふっ』 と口元に笑みを浮かべた。

「そうそう。一つ言っておきますね。私達は、この技術を独占するつもりはありませんでしたのよ」




《 零 》 を見つめるレイ。

「それは世界中のバイク乗り達のために、衰退しつつあるこの国の産業のために ! 」






次には、机を掌で強く叩き言い放つ。

「それは新しい時代のためなのよ !! 」






驚いた表情でレイを見つめる堀井は、心の中で 『お嬢様… ついに目覚めたのか !? 』 と呟き、エールを送った。





「ふぅ~~」 一息深呼吸したレイは、怒りの様相を隠し、至って冷静に語り出した。

「しかし気が変わりましたわ。この新技術は、当分の間ウチで独占させて頂きます。特に貴方がたにはお教えしません。ねっHN社の重役さん…。確か府月(ふづき)さんでしたよねぇ」






電話主にとっては想定外の事態が発生した。努めて冷静を装うのだが、動揺は隠しきれなかった。
『 ! ! ? ? 』 慌てた様子が言葉に出る。

「な、なんの事だ !? 」





不適な笑みでレイは続けた。

「以前お会いした事がありましたわよねぇ。なんとなく声に聞き覚えがありましたの。あと、粗暴な外国人のご友人達にも、よろしくお伝え下さいませ」


そしてレイは、非常に荒っぽく受話器を叩きつけ通話を切った。







“シン” と周囲が静まりかえる。 そんな中おもむろに、作業員の稲葉が口を開いた。

「エンジンが600ccで、バッテリー出力20%ダウンって…いったい…」





堀井も重たい口を開く。

「確かに本社から、その旨の連絡があったわい…。そこでこの電話だ…」






皆が下を向いてしまった。重い敗戦ムードが漂う。
しかし、それに見兼ねたレイが、懸命に明るく振舞った。一人ひとり全員に声をかけた。

「大丈夫だよぉ ! これまで皆でやってきた事は、絶対無駄にはさせないから !! 」





同じく、作業員の中田も口を開く

「でも本社が…もうどうすることも…」





涙が流れそうになる。だがここで引くわけにはいかない。レイは必死で皆を励ました。

「皆で現場の想いをぶつけようよ !! 本社だって絶対に分かってくれるよぉ !! どうしたの ? 堀井さんまでそんな顔してぇ !! 」





レイの懸命さが痛々しかった。 「 完全にヤラレた… 」 辛そうな表情の堀井。

「お嬢様…」






まさしく絶望の一言だった。本社の意向に逆らってまでこの開発は続けられない。ましてや他メーカー各社による圧力。 足掻らいようのない、権力によるメガトン級の一撃。完全なる負け戦だった。
重い雰囲気に包まれる一同。ついにはレイまでもが、言葉を失いかけた時だった。






突如後方から能天気な下村の声が届く。

「別にいいじゃねーかよ」











全員が一斉に、下村に視線を移した。先ほどと同じ態勢で、作業台に腰からもたれかかっている下村。

「スケールダウンしたっていいじゃねーか。まずは世に出さなきゃ始まらねーよ。それに…」






思わず息をのむレイ。

「それになに?」





下村は自信に満ちた満面の笑みを見せる。

「それに、カスタムで元の性能を、すぐに取り戻せるようにしときゃいいじゃねーかよ。KAMUI社のカスタム部門とか作ってよぉ。あんた等の親会社じゃ○リーアートだったか?他にも、○スモとか、T○Dとか、色々あるじゃねーの。そう考えるとよぉ、なんだかワクワクしてこねーか?」






一瞬の沈黙の後、そこで一気に空気が変わった。
レイは、今にも泣き出しそうだった表情から一変、笑顔がこぼれ落ちた。作業員達の表情も一気に明るくなる。

「そうか… そうだよな !! その手があったか !! それなら本社の意向にも逆らわず、こちらの事業拡大にも、繋げていく事が出来るぞ !! スケールダウンしたって 《 K A M U I 零 》 は健在なんだ !! 」









感心した様子の堀井。

「ふう…。全くなんて奴じゃ。本当に恐れ入るよ下村君」





瞳を輝かせる下村の、屈託ない笑顔がそこにあった。





それから堀井は 『まいった』 という様子で、高らかに大笑いを始めた。

「があっはっはっはっ。僥倖(ぎょうこう)、正しく僥倖じゃのう!全くたいしたもんじゃ !! があっはっはっはっはっは」






















      モーターサイクルショー



明けて翌年の3月。東京モーターサイクルショー20XXが開催された。
会場内は超満員の大賑わい。一般客にマスコミ。いつになく盛大な様子で、KAMUIのブースは特に注目を集めていた。












その時アナウンスが叫んだ。


「 K A M U I ブース !! 」








注目のステージには、白いベールがかけられた、1台のバイクあった。


「今ここに、新時代モーターサイクルの登場だぁ !! 待ちに待ったそのバイクの名は 《 M S T 零 》 だあーーーー !! 」


その合図と共に、2人のキャンギャルが白いベールをめくる。同時に観客からは、歓喜のどよめきが起こった。
中からは金属光沢・白銀色の 《 零 》 が現われ、斜め下から照射したライトは、とても神々しく 《 M S T 零 》 を光輝せていた。







それから一斉に、無数のフラッシュが発光し、ファンファーレの如くそのバイクを祝福した。そう、あの時の雷鳴のように。





その会場、そのブースはひときわ熱気を帯び、いつまでも歓声が絶えなかった。


















          ケリ





モーターサイクルショー会場の屋外。その道路脇には、荷物がパッキングされたZ1000MkⅡが、黄昏の夕陽に照らされ佇んでいた。

そこへ、デスペラードジャケットを着た下村が歩み寄り、おもむろにエンジンをかける。軽くセルが回り、Zと呼ばれるバイク特有の、虎が喉を鳴らすような 「ゴロゴロ」 という、野太い排気音とメカノイズが響いた。





不意に、スリムなダークスーツに身を固めた姿のレイが、下村の後方から声をかけてきた。

「下村くん。やっぱり来てくれたのね」










嬉しそうな表情のレイ。下村も屈託のない笑顔を見せる。

「おう。もちろんだよ二宮。格好良いデビューだったじゃねーか」





レイは少しはにかみながら答えた。

「うん。それもこれも全部下村くんのお陰だよ」





手をヒラヒラとさせる下村。

「はっは。俺ぁ何にもしてねーよ」





「あっ ! そうだ !! 」


レイは大切な事を一つ思い出した。

「そういえば《MST零》の意味、まだ言ってなかったよね」。





「ん?」 という表情で軽く頷く下村。 そこで夕陽をバックにしたレイが言った。

「とても大事な事よ、よく聞いてね❤」







少し溜めをつくる。次の言葉は。


「 MBM SPCIAL TRADITINAL ZERO ( MBM 社の特別な伝統の零 )、そして MY DEAR PARTNER OF SIMOMURA TAKASHI ( 親愛なる相棒・下村 貴 ) そのイニシャルから MST にしたのよ❤」






急に顔が真っ赤になった。照れ笑いの下村。

「なんだよオイ。こっ恥ずかしいこと言ってんじゃねーよ」





その様子を見て、腕を後ろに組み、楽しそうにするレイ。

「私ね、あのとき下村くんが現われてくれて、本当に嬉しかったの」





また「うん?」という表情の下村。 それからレイは頬を赤く染めた。

「私ね、思わず神様に感謝しちゃった。だってね、高校の頃ずっと憧れていた下村くんが突然現れて、私の事を助けてくれたんだもん」





こういう場面には慣れていない下村は、非常に照れくさくてたまらなかった。
それから、おもむろに空を見上げるレイ。

「私ね、南條の名前がずっと重かったの…。だから下村くんが、昔と変わらず、私の事を二宮って呼んでくれて、本当に嬉しかったの」







軽く頷く下村。

「そっか…」






“すっ” と下村に近寄るレイ。

「だからね、私も下村くんがよく言う“ケリ”をつけたいの」





それからレイは、左の掌で下村の目を覆った。少し冷たいが柔らかい掌の感触がとても心地よい。しかし、やはり照れてしまう。

「はは。何やってんだよ」






そう言いながら、レイの手を優しく握り、ゆっくりと引き離したその時、突然レイが下村の唇に自分の唇を重ね合せた。
全ての時が止まり、そこには2人だけの、濃密で甘美な世界が広がった。胸の高鳴りが体温を急上昇させる。












そうして2人の唇がゆっくりと離れ、互いに見つめ合う。
それからレイは優しく微笑み、瞳から溢れ出た一筋の涙を、指先で軽く拭った。

「これが私からのお礼。そしてまだ二宮だった頃の、自分へのケリ」





更に見つめ合う2人。

「二宮…」

下村は言葉に詰まってしまった。






「これでようやく、私の青春時代にもケリがつけられたよ」

やはりレイの微笑みはとても優しい。












そんなレイがとても愛おしかった。このまま強く抱きしめ、この場から連れ去ってしまいたい。下村はそんな衝動にも駆り立てられていた。だが、KAMUI で 幸せそうにしていたレイの笑顔や、堀井達作業員の笑顔も、同時に思い出していた。 






『ダメだ』  心で呟く。


下村は、そんな自分だけのチンケな想いで、レイの幸せや、KAMUIの未来を壊す訳にはいかない。そうとも思った。辛かった。心が張り裂けてしまいそうだった。
だが、そんな想いを振り切るように、手に取ったヘルメットを被り、レイに一つだけ確認をした。

「そっか…。覚悟したんだな 二宮…。いやこれからは 南條 零 … か」





2人はまた見つめ合った。

コクンと頷き、下村の目を真っ直ぐ見つめる美しいレイ。いま2人の胸には、さっきまで近くにいた筈の大切な人が、急に遠くに行ってしまう。そんな悲痛な想いが、何度も何度も行ったりは来たりと、去来していた。









それは精一杯の痩せ我慢。

「じゃあな…レイ」






愛しさ、切なさ、もどかしさ、はち切れんばかり想いを胸に、最後の台詞を発する。







レイは最高の笑顔で応えた。

「ふふ。ようやくだね。初めて名前で呼んでくれた❤」










『 レイ 』 一度頷き全てを飲み込んだ。それからアクセルを捻り、クラッチを繋ぐ。
今は相棒の咆哮だけが心のバランスを保つカンフル剤となっていた。決して振り返りはしなかった。下村は軽く左手を上げ、夕陽に向かい走り出した。










レイは瞳に涙を浮かべながら、いつまでもいつまでも、下村の姿を見送った。



「さようなら。私の 《 Def busta 》 … 」
























      エピローグ



すぐ近くの建物の影。そこに隠れ、2人を忌々しげに見ていた男がいた。口元には悔しそうな表情を滲ませ、激しく歯ぎしりをしていた。そしてさっきまで喫していた煙草を、手の中で握り潰す。
男は手に火傷を負ったが、そんな肉体的苦痛は、今回受けた屈辱を思うと、毛先の痛みほども感じないくらいに、怒りに打ち震えていた。



それから前に歩き出した男は、物陰から出てその全貌を現す。まだ30代半ばで、とても端正な顔立ちをしている。だがその男こそ、下村とレイにミソを付けられた、HN社の重役、府月(ふづき)本人であった。




「Def busta下村か…。その名前、よく覚えておくぞ」






府月は鋭い目つきで、走り去る下村を睨みつけていた。








第1章・完











「あとがきのようなもの」 へつづく



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Posted at 2016/11/12 11:04:04

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