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むらっち2のブログ一覧

2018年07月23日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第8話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第8話




   22 OFFERINGS TO THE GOD OF SPEED

  







 

俺はロブの前で、KAMUI零の事件をポツリポツリと話し出した。












正直、自分で何をどういう風に語ったのかは、よく覚えていない。ただ何となく、支離滅裂にならないよう、言葉は選んでいた気がする。









そして、悔しくて悔しくて、時折込み上げてくる感情が、激しく溢れ出す。



「貴、わかった。わかったよ。お前は何も悪くない。むしろ正しい行いをしたんだ」

ロブは瞳に涙を浮かべながら、何度も俺の肩を叩きそう言った。

「お前は、レイさんを始め KAMUI を助けたんだ。確かに時雄の件は残念だった。だが、奴だって、きっとお前の事を、誇りに思っている」




ダメだ…。ロブを直視できない…。

「きっと時雄は、自慢の息子だって、誇りに思っているさ。きっとそうだ」




くそっくそっくそっ!自分の無力さに、無性に腹が立つ。




「貴、よく聞いてくれ」

ロブが俺の顔を覗き込んできた。

「いまあの街は、府月に牛耳られようとしている。実質、あの街、すべての工場の期間社員達を、意のままに操れるようになると、どうなると思う?産業の動脈を握られるとどうなる !? きっとまた、第二第三の時雄が生まれることになるんだ !! 」




ロブの声が、深く、鋭く突き刺さってくる。

「そうなんだ。スティール・ランナーを自分の配下に治めてしまえば、あの街のバイク好きやクルマ好き、すべてのチームの人間が、府月の手に落ちることになる」




俺もロブの目を見返した。

「そんな事をさせる訳にはいかない。そのためには、府月の思いのままにならない人間が、スティール・ランナーを倒し、その野望を打ち砕かなきゃならんのだ」




そうだ。そうだ ! 修二 !!

「いまソレが出来る可能性があるのは、貴、お前だけなんだよ。修二を、いや、あの街の仲間を護ってくれ!たのむ貴 !! 」




チカラの籠った、ロブの言霊を受け取った。『仲間を護る』 そう、それがSANTANAの誓い。
そうだ。悲しみに暮れている暇なんかない。そうだよなオヤジ !?



俺は俺の、正しいと思う道を突き進むぜ ! どうか見守っていてくれ。










          23


次の日、俺達は再びT峠に戻ってきていた。
話しを少し巻き戻すと、前日、ロブはZ1000Mk2に “ ある魔法 ” を施した。それはデチューンという魔法だ。




一通りMk2を走らせ、現状を把握したロブはこう言った。

「やっぱり、こんなセッティングをしてやがったのか。ある程度馬力を上げれば、あとは人間の方で乗りこなすってか?離れて暮らしていたとはいえ、やっぱりお前たちは親子だな。時雄もこんなセッティングを、よく好んだんだ」





「どういう事だよ。もっと詳しく説明してくれよ」

「ああ、つまり、これじゃあサーキットでタイムは出せねぇんだよ。中間を犠牲にして、ピークパワーを狙うセッティングじゃあな。それに、2バルブエンジンの良さが、全然生かせていない」

「でもオヤジは、コレでタイムを出してたんだろ?」

「そうなんだ…だから、よく意見が衝突した。これで調子の良い時は、スーパーラップまで叩き出しやがってよぉ…。常識外れもいいとこだ…。ブツブツ…」

「ロブさん、ブツブツ言ってねーで、どうすれば良いのか言ってくれ」

「ああ、そうか、すまん」




ロブは一つ咳払いをした。

「おほん。つまりな、このKAMUIのフレームの件も相まって、完全にバランスを崩しているようだが、ちょっと見方を変えれば良いだけなんだ」

「つまり?」

「つまり、あと10馬力くらいデチューンして中低速重視のセッティングに変える」

「ああん !! 何だって !? ここに来てデチューンだと?本当に大丈夫なのか?それで、タイヤが滑らなくなるのか?1分28秒台が狙っていけるのか?」

「まかせろ。それで、A3の持てるチカラを、存分に発揮できるようにしてやる」

「で、具体的には?」

「まず現状のKERKER KR管のエキパイを42.7φから40φにまで絞り、4 in 1構造の集合部に仕切り板を入れ4 in 2 in 1構造にする。そして、FCR41φも35φにまで落として、セッティングを出すぞ。それで、よりドッグファイト向きにもなる」








マジか !? 本当にそれであのFと互角に闘えるようになるのか?不安が募る。





「ところで、あのFの仕様はどうなってんだよ?」

「ああ、アレか…アレはな…」

「なんだよ、はっきり言ってくれよ」

「1123ccで150psきっちり出している。4バルブエンジンらしく、上までカーンと回るエンジンだ。今のこのA3みたいに、中間を犠牲にしてな」




ロブがニヤリと笑った。

おいおい。本当に大丈夫なんだろうな…。









          24





それは、本当に魔法と呼ぶに相応しかった。あんなに苦労したコーナーリングが、今度は驚くほど、よく決まるようになっていた。
ロブのいうデチューン。吸・排気を絞り、ピークパワーを殺し、2バルブエンジンらしい、中低速重視のセッティング。そう、恐ろしいほどに乗りやすい。

しかも、こうすることにより、コーナーでタイヤが滑ることもなくなり、ましてや、どんなところからも、自在にラインを変えていけるだけの、軽さと扱いやすさ、つまり、真ん中にぶっ太いトルクが備わっていた。馬力を落としているなんて、言われなきゃ気付かないレベルだ。



「チクショウ。なんてオヤジ共だ!クソッタレめ !! 」

思わず顔がニヤけてくる。









           25



午後9時。苫小牧市のとあるショットバー「Memphis(メンフィス)」。そこには、数多くのバイク乗り達が訪れる。




元々は店名と名を同じくする、アメリカン系バイカーチームの溜まり場であったが、修二の介入により、彼が作ったSANTANとも友好関係が結ばれ、様々なタイプの者達が出入りするようになった。
店内はそここそ広く、そのほとんどが立ち飲み席で、テーブルが置かれているだけだが、メタル調のカウンターは、10席スツールが設けられている。その他にも、バンドが演奏するための簡易ステージや、ビリヤード台、ピンボール台にダーツマシンまで設置され、仲間と夜通し、ALLで遊ぶには最適な場所だ。









実はこの店の元オーナーは、初代スティール・ランナーの “ フレデリック平(フレディー) ” であったのだが、今は、その実子であるエミーとマリーが跡を継ぎ、いつもカウンターの内でバーテンをやりながら、店を切り盛りしている。










「おかわりをくれ…」

カウンター右端の奥から、ベイツの革ジャンを着た修二が、マリーに声をかけた。





「修二…。あんまり飲めないんだから、無理しないほうがいいよ」

「…。頼むよ。僕だって飲みたい時くらいあるさ」

マリーは少し困った表情をしながら、ワイルド・ターキーのオンザロックを手早く作り、修二の前にグラスを“スッ”と置いた。







修二は、そのグラスの中で、ゆっくり溶け出す氷の様子を、暫く眺めていたのだが、次には、ワイルド・ターキーを一気に口の中に放り込み、喉が焼ける感覚に、苦い表情を見せていた。

俯く修二。その様子に、マリーは黙って、彼の手を握った。







同じく、カウンターの反対側に座っていたスキンヘッドがエミーに呟く。

「おい、どうしたんだ修二のヤツ。随分と荒れてるじゃねーか。お前も行って慰めてやれよ」

「ふん。グリム・リーパーと呼ばれている男が、ずいぶんお優しいこったね。アタシが他の客と口きくのでさえ、ひどく嫌がるクセにねぇ」

「…。ああ、確かに。正直、俺はお前に惚れてる。だから、他の男と話しているところを見るだけで、激しく嫉妬しちまう」









修二といつも行動を共にし、ボディーガードの役を買って出ている、スキンヘッドの大男は “ グリム・リーパー(死神) ” と呼ばれていた。





「だけど修二は別だ。アイツは特別なんだ。荒れている原因は、あの下村ってヤツの事なんだろ?」




下村と聞き、エミーの片眉がピクリと反応する。

「全く、修二の話どおり、マジで化物じみたヤツだったな…。憧れの先輩か…。それをこんな形で再会しちまったんだから、裏切ったような気持ちになってんだろ…」




グリム・リーパーは手に持っていたコロナビールを一口呷った。

「今日はよぉ、2人で慰めてやれよ」




「ふふん」

エミーは鼻で笑ってみせる。

「修二は大丈夫さ、強い男だよ。なんせアタシ等が、本気で惚れた男だからねぇ」

真っ赤なルージュが、勝ち誇った微笑みを見せる。




「確かに修二は特別。いいかい、よく聞いておきな。アタシ等2人はねぇ、その修二の子を産むんだよ。3代目スティール・ランナーをね ! 」




一瞬目を見開くグリム・リーパー。

「おいおい、マジかよ…」


エミーはまた、鼻で笑ってみせた。




そんな様子を尻目に、その横では、バンドマンのような風体の、初老の男が、ハイネケンのビールを片手に、酷く酔った様子で、ジュークボックスへコインを落とし込み、レニー・クラビィッツ 『自由への疾走』 を選曲した。やがてスピーカーから、エッジの効いた、ギターサウンドのオープニングが流れ出る。ニヤリと薄笑いを浮かべるバンドマン。












実はこの男、バイカーチームMemphis(メンフィス)をまとめあげている人物で、通り名を “ ギブソン ” と言い、フレディーの盟友でもあった男なのだが…。









その瞬間だった。それは突然やってきた。そこに大嵐が発生したのだ。入口ドアが勢いよく開け放たれる。店内の客が全員、その方向へ向いたとき、戦慄が走った。なんと、そこに現れたのは、デスペラードジャケットを着た下村だった。

「はっはっは。修二め~っけ♪」





肩の毛皮がなびく下村の傍には、岩野と成海の姿があり、ついでに、オドオドした様子で、ガソリンスタンドの “ 田代 ” が立っていた。





それを見たエミーとマリーの2人が、バーカウンターを飛び越えたのと同時だった。店内全てのバイカーが、一斉に下村の前に立ち塞がる。

だが、それは無駄な行為だった。えも言われぬ下村の無言の迫力は、そこに居る全員を圧倒していた。皆、彼の強さを知っているが故、恐怖からくる萎縮でもあった。そして彼が、歩を進めるたび、立ち塞がった者達は、後ずさりを始める。その様子はまるで “ モーゼの十戒 ”の様だった。














エミーとマリー、グリム・リーパーでさえも、冷汗が流れた。だがしかし、そんな中にあって、たった一人だけ、下村に臆することなく、彼の正面に立ったのは修二だった。
自信に満ちた落ち着きのある表情に、凛としたその立ち姿。そこには、先程までの焦燥感や、アルコールに酔った雰囲気は、微塵も感じられなかった。これこそ、修二がいつの間にか身に着けた、2代目スティール・ランナー、王者の風格である。









「修二…」

「Def busta…」

2人は睨みあった。











「修二、待たせたな。こっちの準備はOKだ。いつでもヤ(走)れるぜ」

「そうですか…。では良いステージを用意しましょう。来週の日曜、SRB(スティール・ランナー・バトル)の最終戦、サーキットバトルが開催されます。そこで決着を付けましょう。貴方が出場できるように、僕の方からオフィシャルに、掛け合っておきますよ」




下村は力強く頷いた。

「ああ、楽しみだ。ケリを付けよう」





そう言い、獰猛な肉食獣のような迫力を持つ彼は、踵を返し、その場を立ち去ろうとした。が、その前に、度胸のあるハンターが、もう2人出現したのである。

「Def busta … か…。俺は ガープ(Goap) ってチームを纏めている、フロストってモンだ」

「俺はノーマン。ウチのチーム(Bael) のモンがずいぶん世話になったなぁ」



フロスト(霜男)と名乗る大男は、その名のとおり、氷の様に冷たい眼光が特徴的で、対するノーマンという男は、ギラギラと野望に満ちた眼をしていた。





『Goap に Bael 。 西と東の悪魔王か。全く面白い連中だ』 下村は心の内でそう呟いた。








「俺の弟のハックは、先日テメェが暴れた喧嘩で、怪我ぁしちまってな…。可哀想に、テメェの強烈な左ミドル(キック)を右肘に喰らったあいつは、その勢いで右肩を脱臼しちまったんだ」

下村は “ ふんっ ” と一つ鼻を鳴らした。




「俺はアイツを、バエルの実力者である、ノーマンの元に、修行に出していたんだ」

フロストは、更に静かに語りかける。

「そう、バエルはノーマンズランド。代々統治する者が居ない、実力がモノをいうチーム。そのチームで頭角を現し始め、遂にはエースライダーにまで、上り詰めたのによう…」









フロストの凍てつく視線が痛い。

「Def busta、テメェのせいでなぁ、ハックはSRB(スティールランナーバトル)に、出られなくなっちまったんだよ」





下村は、黙ってフロストの眼を見つめていた。そしてノーマンが吠える。

「このクソヤローが ! 今度は俺が相手になってやる !! 」








だがフロストは、今にも飛び掛かりそうなノーマンの肩を抑え、静かに言った。

「やめとけよノーマン」


次には、下村を睨み付ける。

「今度はサーキットで勝負だ。テメェ逃げんじゃねぇぞ。いいか、ステゴロの時のようにいくと思うな。レースじゃあ、再起不能になるまで、徹底的に叩きのめしてやる」

さっきまでの冷たい瞳が、今度は鋭い眼光で、ギラギラと燃え出していた。








下村は思わず嬉しくなる。 『 ここは本当に面白い街だ 』 心からそう思った。

「はっは。いいぜ。ケリを付けよう」






彼は“ニヤリ”と不敵に微笑み、2人を押し除け、バーの外に出ていった。
そしてギブソンがリクエストした、レニー・クラビィッツのクールな名曲は、嵐と共にその役目を終えた。











          26



バーの外に出た下村は “ ふぅ ” と一息つく。この緊張感がとても心地よかった。それから、ヘルメットを被ろうとした時、後から着いてきた成海が、青い顔をして言ってきた。


「ちょっと何なの下村さん !? こんな夜中にツーリング行こう、なんて言い出したかと思えば、いきなり宣戦布告って、どういうこと !? 冷汗かいたじゃない! 生きて帰れないかと思ったわよ !! 」

「成海ちゃん…」

岩野は言葉を失っていた。




「はっは、ワリィワリィ。でもよう、一つ良いこと思いついたぜ」

岩野と成海は、顔をしかめながら首を傾げる。




「せっかくココまで来たんだから、このまま函館まで行って、イカ飯でも食おうぜ ! 奢るからよぉ♪」

「はぁ~?函館ぇ~!?ここから何Kmあると思ってんのよぉ~」

「成海ちゃん…」

「はっは。早く用意しろよ ! 置いていくぜぇ~(笑)」

「ちょ ! マジで言ってんの !? 」





そう言いかけた成海の声は、Z1000Mk2が奏でる、猛獣のようなエキゾーストノートに掻き消された。そして下村は、フロントホイールを天高く突き上げ、荒々しく走り出す。








「成海ちゃん、もう行くしかないッスよ」

岩野もDR-Z400改450SMヨシムラ仕様を、素早く発進させる。








「もぉ~マジなのかよ !? ちょっと待ってよぉ !! 」

それから、3眼ライトのKX500は、闇をつんざく2ストの炸裂音を残し、離陸しそうな勢いで、ストリートを走り去る。











それは、あっという間の出来事であった。時間にしてみたら、一つのロックなサウンドが終わる、5分程度であったが、その場に残された、ポカーンと呆けた表情の “ 田代 ” にしてみたら、永遠に終わらない、遥かなる5分間に感じていたことだろう。

田代は途中、拉致されるように、この場にまで案内をさせられ、おおよそ経験したことのない、一触即発、極度のプレッシャーに晒され続けたのだ。
解放された途端、緊張の糸がブッツリと音を立て切れた。夢か幻か。田代は、ただただ、その3人を、ポカーンと見送るしか出来なかったのである。










つづく






Posted at 2018/07/23 21:27:42 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2018年07月12日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第7話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第7話














          18

「岩野ぉ、全然ダメだ、コーナーでアクセルを開けると、リヤタイヤが簡単に滑っちまう !! 」

俺と岩野はT峠で新Mk2のシェイクダウンを行っていた。ひと通り走ってきた俺は、ヘルメットのバイザーを上げて、岩野に叫んだ。




「まいったッスね~。まさかこんな弊害が…」

「もう少し、リヤのプリロードを緩めて、柔らかくするか !? 」

「いや、おそらくプリロードも減衰力もこれが限界ッス。これ以上柔らかくしたら、パワーを掛けたとき、滑らなくなるかもしれねーッスけど、逆に踏ん張れなくなっちまうッスよ」

「くそっ ! !… まいった」




確かに新しいMk2は、依然とは比べ物にならないくらい軽くなった。それに、しなやかにして強靭なフレームは、強力なトラクションと動力性能を生み、あの 『 KAMUI零 』 のように、点から点へ移動するかのような動きを、このバイクで実現できるはずだった。が、違った。最大のメリットとなるはずの軽さが、現状のサスセッティングには釣り合わず、文字通り足枷となっていた。そう、車体が軽くなり過ぎたため、コーナーでアクセルを開けると、いとも容易くリヤタイヤが滑ってしまい、まともに走れない事態に陥ってしまったのだ。




「こうなると、この車重や走らせ方に合わせたサスを、ワンオフで作って貰うしかないッスね。減衰力も伸び側縮み側、もっと細かく調整できるように…」




イライラが募る。今すぐにだって修二と ヤ(走)りたいのに。アイツはあの F で待っているんだ。まいった…。

「くそったれ、それじゃ時間が無い。ダメだ。それじゃ遅せぇんだよ ! どうしたらいいんだ !? 」

誰にではなく、自分に問いただした。











          19


その後、一端 『 Garage SANTANA 』 に戻ることにした俺達だったが、帰り道においても、あらゆる交差点で、いろいろな走り方を試してみたが、全くをもって、焼け石に水といったところだった。







「くそぉーーー !! 」

ダメだ気持ちがザラつく。いや、焦る気持ちで心がザラつく。せっかくの珠玉といえる、このフレームを活かしきれていない。


「1135 cc でツインプラグ化して 150 ps 。トルクに至っては 12.0kg/m。 元々がもともとだけに、ギリギリのところで、セットアップしてたっスからねぇ…」




『どうすればいいんだ。どうすれば…オヤジ…』 オヤジ… “ オヤジ !? ”

自分でも驚いた。突然オヤジの事が頭をよぎった。まったく。どうしちまったんだ俺は…。確かにこのエンジンを最後に組んだのはオヤジだ。だけど、弱気にも程があるよな。普段思い出しもしないようなオヤジの事を思い浮かべるなんて。くそったれめ。




しかしそんな時だった。一台のトヨタ・サクシードバンが、Garage SANTANA の駐車場に入ってきた。そしてそのバンからは、見たことのある風貌の男が現れた。そう、それは苫小牧市で会った、あのセイコーマートの、小太りの店長だった。








店長は周囲を一望し、なんとも懐かしそうな雰囲気で、静かに語りかけてきた。

「そうか…まさかとは思ったが、お前が下村のセガレだったのか…。俺がそのA3を見間違うなんてな。スカチューンまでされて、すっかり様変わりしたなぁ」

「いきなりなんだアンタ !? 」

やはり気持ちがザラつく。









「そう睨むな。少し落ち着いて、俺の話しを聞いてくれないか?」

その店長は、あくまでも穏やかに、俺に語りかけてきたんだ。














          20


「俺の名前は “ 六部本気 ( ろくべもとき ) ” 。 あの街じゃ 『 ロブ ・ マジー 』 なんて呼ばれている。ああ、冷やかしなんかじゃないぞ、尊敬だ。尊敬を込めてだぞ」

ニヤリと笑う六部。とりあえず敵意は無いようだ。

「貴は俺の事を覚えていないだろうな…最後に会ったのはかなり前だから。お前のお袋さんの葬式の時だ。小学生の頃か…」





そんな事はどうでもいい。一体何をしに来たんだこの男は?どうにも怪しい。

「そう睨むな。それにしてもお前さん、あの街じゃ、かなり有名人になっちまってるぞ。 “ デフバスタ と名乗る男が スティール・ランナー に宣戦布告してきた ! ” ってな。 近所のガキ共が騒いでいた。そしてその噂の発端となる “ バエル ” との大乱闘だ。 しかも、たった一人で暴れまわったんだって !? まったく、とんでもない奴だなお前は」




俺は更に睨んでやった。










「はっは。まあ、順を追って話すから、よく聞いてくれ」

ようやく本題に入りそうだ。

「俺はな、お前の親父、下村時雄 ( しもむら ときお ) とは盟友でな。その A3 (Z1000Mk2 ) で一緒にレースをやっていたんだ。俺が主にメカ担当で、時雄は乗り手だった。だが時雄は、メカとしても優れていたからなぁ。 “ メカを知る者は走りを知る ” ってよ、知ってるか? ヤツは、必然的に速く走れる資質を、備えていたんだな」









どういうつもりだ?なぜ突然オヤジの話しになるんだ?

「いまから十数年…、いや、正確には20年くらい前だな、当時俺達には凄いライバルが居たんだ。そいつの名前は 『 フレデリック ・平(たいら )』。 ハーフでな、皆 “ フレディー ” って呼んでいた。かなりハンサムな奴だったよ。ああ、そうだ。そいつが初代スティール・ランナーだったんだ」













俺はようやく、黙って話を聞く気になっていた。さっきまでは、ケツでも蹴り上げてやろうかとも、本気で思っていたんだがな。

「フレディーは、あの街に駐在していた米軍パイロットの息子でな。あの、お前が暴れたイベント会場、あれは米軍のために建設された、飛行場跡地なんだよ。だけど、わずか数年で撤退し、より条件の良い千歳基地と統合したりでな…。まあ、そんなのはどうでもいいな。でもあの頃はそんな軍の連中(米兵)が多くてな、あの使われなくなった飛行場で、ドラッグレースなんかが、よく催されるようになった。それがアイアン・バウンド。スティールランナーバトルの始まりだったんだ」



まったく…。 どいつもコイツも、なんだっていうんだ。










          21


俺とロブ(六部)はMk2を挟むように向かい合い、話を続けた。






「当然、俺達もそのレースに参加した。当時はドラッグとオーバル、あとストリート(峠)がアイアン・バウンドの、レースウィークに実施された。で、その時すでに、ストリートレースを一つ獲っていたフレディーと、初めて対決したんだ。もちろん俺達の圧勝だったよ。だけどフレディーは俺達を敵視するどころか、その速さをえらく称えてくれた。まあ、なんというのかな?風土の違いとでもいうのか、素直に速い奴を認め称え合い、レースが終わったら、ビールで乾杯して即ダチになる。そんな、本当に気持ちの良い奴だったよ」










俺は黙って聞いていた。

「そのうちフレディーに、マシンのチューニングを頼まれるようになった。俺も時雄も喜んで受けたよ。でもあの F をバラした時は、本当に驚いた。あのフレームはクロモリ鋼管で作り直された代物だったんだからな。フレディーは腕の良い板金工でもあったんだ。あの街の、いろんな連中の手を借りて完成させた、自慢のマシンだ!なんてよく言ってたっけ」













その当時、プライベーターとして、あの硬いクロモリ鋼を加工していたんだな。本当に凄い連中だ。

「そして俺達は、一番過激な純正カムシャフトを持つ、CB900F のエンジンをベースに、1123 cc までチューニングし、あのバイクに載せ、無敵のスティール・ランナーを生み出したんだ」










ロブはまたニカッと笑ってみせた。それからロブは、ポケットからセブンスターを取り出し、旨そうにゆっくりと煙草を吸い出した。だがそれは、これから話そうとする、内容の重さに耐えるための、準備だったのだろう。煙草の火をもみ消した頃には、表情がかなり険しく一変していた。






「それからの5年間は、俺達の一番輝いていた時期だった。だけど、そんな黄金期は、永遠ではなかった。フレディーは事故で命を落とし、時雄は嫁さんを亡くしたショックから酒に溺れ、俺はバイク屋としての商売が上手くいかず、ついには店を畳んだ…」

ロブは俯き加減に話し出す。





「それから10数年…。あの、エミーとマリーはもう知っているだろ?」

「ああ、あの XLCH と XR750 だろ」

「そうだ。あの2人だ。あの娘達はな、フレディーの娘なんだ。そしてフレディーは3台のバイクを、この世に残した。それがあの娘達が乗っている2台のハーレーと、CB750F だ」









俺は思わず目を丸くしてしまった。

「去年、どういう経緯かは知らんが、エミーとマリーが修二を連れて、俺を訪ねて来たんだ。F を蘇らせてくれって言ってな」

ロブの眼をみつめ、ゆっくりと頷いた。




「バイク屋は商売として成り立たず、見事に潰しちまった今の俺はよぉ、ただのコンビニの雇われ店長だ。だけど、バイクの事は簡単には諦められなかった。ずっとバックヤードビルダーとして続けていた。わかるヤツのマシンだけ、俺のチューニングをわかってくれるヤツだけのをな。あの2台のハーレーも、俺が手を入れたんだ…」

ロブの表情がどんどん険しくなる。




「あの男勝りで、誰のジャジャ馬馴らしも受け付けなかった、あの2人の娘がよぉ、自分たちが惚れた男だって言って、修二を俺の元に連れてきたんだ。父親の F を復活させたいって言ってなぁ…。俺は感動で震えが止まらなかったよ」






ロブは、またセブンスターに火を点け、少し間を取りながら、話しを続ける。

「修二の最初の印象は、ただの優男だった。正直、なんでこんな奴に、あの2人が惚れたのか、少々不思議だった。だけどその理由はすぐにわかった。修二はな、ケンカなんてからっきし弱いくせに、あの二人を護るため、フレディーの F を護るために、拳を振り上げて闘ったんだ。アイツは本当に良い奴だった。だからこそ俺は、あの F を本気で組み上げ、魂を吹き込んだんだ…だけど…だけど…」




それから、何度もタバコの煙を吐きながら、絞り出すように言葉を発した。

「不思議だった。まだ20やそこらのガキが、豊富な資金を持ってくるんだよ。最初は、貯めていた金を、持ってきているんだとばかり思っていたが、そうじゃなかった。俺はバカだ…。そんな事にも気付かず、フレディーの F を蘇らせられる喜びで、気付かなかったんだ…」










ロブはそこで黙ってしまった。堪らず俺は聞いてしまう。

「どうしたんだよ?その金が何だっていうんだよ !? 」





それからロブは何度も頷き、意を決したように口を開いた。

「その金はな… ある奴から資金提供をうけていたんだ。そいつの名前は “ 府月 ” 。 “ 府月周遠 (ふづきしゅうえん)” … 」





府月?どこかで聞いた名だ。しかし思い出せない…。なんだこれは?凄く嫌な胸騒ぎがする…。





「いいか貴、心して、よく聞いてくれ、府月は俺達の敵でもあるんだ」

ロブの眼に強い光が宿っていた。さっきから嫌な胸騒ぎが止まらない。





「府月はHN社の重役なんだ。それに、北海道、あの工業都市に強い影響力を持つ大物だ。そして2年前のある日、お前のオヤジ、時雄は、まさしくこの場所で死を迎えた。それにも大きく関係している」






まさか…


「時雄はなぁ、お前が帯広市のバイク屋に就職したって喜んでいた。本当に喜んでいたんだ。アイツの夢はな、お前と一緒にここで働くことだったんだ。お前が施設に預けられてからは、ずっと断酒していたんだ。それは、またお前と一緒に暮らしたいと、心から願っていたからなんだ。だからここの業務を拡大して、岩野を雇い、クルマの整備を手掛けるようになった。お前がいつ帰ってきても、一緒にやっていけるだけの、ベースを作るためにな。そしてある時、大口の仕事を取って来たんだ。それは自動車学校の、教習用バイクの整備だった。時雄は本当に嬉しそうだった。 『 倅も頑張っているんだから、俺はもっと頑張るぜ!』 ってな。でも…、でも…、それは…、序章だった…」



まさか…



「最初は上手く行っていた。だけどある時、教習車に使っている、HN系のバイクの部品が、一切手に入らなくなったんだ。何故だと思う?あの府月だ ! なんの恨みがあったのか知らんが、こんな小さなバイク屋に対し、あらゆる方面からの、部品供給を止めてしまったんだ !! 」




ロブは一度大きく深呼吸をした。

「時雄は必至であちこち駆け回った。だけど、どこも部品を卸してはくれなかった…。あっけない幕切れだ。それで終わり。時雄は、仕事と信用を一気に失った…。失っちまったんだよ…」



まさか…まさか…



「そんな時に、大量の酒瓶が入ったダンボールが、店の前に置かれていたんだ。おかしいだろそんなの !? だけど、もうまともな判断なんか出来なかったんだろう…。十数年続けていた断酒を破り、一気に飲んでしまったんだ。で、次の日の朝、新聞配達員が、大量の空の酒瓶と共に、時雄の冷たくなった亡骸を発見した」



まさか…まさか…まさか…




「貴、たしかに証拠は何もない。だけど、俺にだってまだ、多少なりともツテがある。間違いなく “ 府月 ” のヤローの仕業ってのは分かっているんだ !! 俺は本当にバカだった。そんな奴の金を使い、喜んでバイクを弄っていたのだから…。なんだか、悔しくて、悔しくてよぉ…」



まさか…まさか…まさか…



「だけど分からないのは、なぜ時雄が狙われたのかなんだ。ん?おい、貴、どうした?大丈夫か?」



そんな… まさか…






「貴 !? 」

「ロブさん…」

「どうした?」

「俺なんだ…俺なんだよ…」

「どうしたんだ !? 」






2年前の KAMUI 零 の事件、HN社の重役・府月。そしてオヤジの死。そうだったのか…。
自分の中で全てが繋がった。




「俺なんだ…オヤジが死んだ原因を作ったのは俺なんだよ…」




そう言った瞬間、突然、目の前のロブの姿がボヤけ出した。そんな俺の目からは、止めどもなく、熱いものが溢れてきていた。





すまん…



すまん… オヤジ…。








つづく




Posted at 2018/07/12 19:49:24 | コメント(0) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用
2018年07月07日 イイね!

初めての軍幕キャンプ

初めての軍幕キャンプ
台風が過ぎた7月5日、キャンプしてきました

天候:霧雨、気温は5℃… サムイ……(T_T)

修行でもしに来てるみてーだな(/ー ̄;)










とりまー、100連泊ちうの友人テントに軍幕をドッキング~♪


















愛用の泊鉈(トンビ鉈)で薪割りを楽しんだり










ブッシュクラフトもやってみたり










晩メシはちと豪華に楽しみ













夜は軍用ランタンの柔らかい灯りに癒され









小腹が空いた頃には塩ホルモンをw



この頃になると、そうとう酔っぱらい、タクランケになってるw

そうこうして夜が更けてゆく




















で、朝!

先ずは かにぞうすい♪





ほんで











その辺に生えているキノコを採ってきて

※注、ち⚪ちんではない!












スープと






パスタを作ってみる


















うまし! キノコうまし!!



※注、ちんち⚪ではない!












しかし困ったことが…





昨日から笑いが止まらない…



















ヒャッハー…







びょーいんに行ってきます…

















ごめんなすって




Posted at 2018/07/07 12:33:48 | コメント(2) | トラックバック(0) | キャンプ | 日記
2018年07月01日 イイね!

White grenede 第五話

White grenede 第五話












    8


出走番号は11番だった。フル参戦している車両が先に走り、スポット参戦は後に回されるようだ。それにジムニー&軽クラスは一番の激戦区となるらしい。やはり車種はジムニーが大半で、その他にパジェロミニや軽ワゴンの改造車があり、あと、軽トラが1台。もちろんその軽トラは、下村さんのとこの『Garage SANTANA』の車両だ。

自分の出番を待っている時間が長い。胸が高鳴る。それは緊張からなのか、それとも高揚からくるものなのか。ヘルメットの顎紐を締め直し、グローブのフィット感も確かめる。




それから、何気なく外に目をやった時、Garage SANTANAのドライバーと目が合った。

「あ…キレイな娘…」








下村さんのチームは、バイク乗りが主だったメンバーだと聞いたけど、あんなキレイな娘までがバイクに乗って、レースをしたりするんだろうか?疑問が湧き起る。

「だけど、なんだろあの娘?私を睨んでいる気がするけど…」

私は思わず目を伏せてしまった。






    9




「どうしたっスか?成海ちゃん」

「いや別に…」

つい苦笑する成海。しかし彼女の心には少々面白くない思いがあった。




「あ~~、やっぱりダメ。岩野さん、なに?あの女 !?」




きょとんとする岩野。成海の視線の先にはTraffic Eagleのジムニーに乗る端野ミホの姿があった。

「なんなのアイツ。トロそうな女」

成海は吐き捨てるように言った。




「ああ彼女っスか !? 彼女はタカ社長のとこのドライバーっスよ」

「そんなのは見ればわかる!アタシが言ってるのはさ、あんな周りに流されているだけの、トロそうな奴が、下村さんに認められてるってのが…どうにも…」

成海は途中で口をつぐんだ。




「ああ、そっちっスか。面白くないんスね。まあ、自分もそう思うんスけど、なんというか、今日は見ものっスね」




どうにも釈然としない成海。それにもう一つ疑問があった。

「それにさぁ、なんで下村さんは、突然4輪のレースをやろうって言い出したんだろ?」

「そっちは簡単っスよ」

岩野がにこやかに答えた。

「下村さんと成海ちゃん、ウチの主力選手の2人が怪我してんスから。リハビリってことなんじゃないっスかね?それに、新たな分野の開拓でもあるんスよ」

「ふ~ん…。そっか。下村さんもアタシも大怪我しちゃったしね。ちょっとバイクはまだ…。まあ、その話はまた今度…」




それでも成海は、どうにも釈然としなかった。










     10


あっという間に成海の出走順番となった。ゼッケンは10番。Traffic Eagleの一つ前だ。
成海は、岩野のセットアップに絶大の信頼を寄せている。よほどの事がない限り、破綻はあり得ない。沸々と内なる闘志が湧き上がってきた。

スタートフラッグが掲げられた。『用意』である。スターターの頭頂部に掲げられたフラッグを見やり、タイミングを計る。グローブの中の手が汗ばんでいた。自分の鼓動まで聞こえ出す。なんとも心地よい緊張だ。

それから間もなく、フラッグが“さっ”と振り下ろされた。『スタート』だ。




成海は派手に泥を巻き上げながら、第1コーナーの右ヘアピンへ突入して行く。その後に待つ45Rと30Rの右コーナーを抜け、タイトなS字へ。やはり綺麗にクリアーし、裏ストレートに進入。
時折、轍で思うように滑らず、片輪が持ち上がってしまう場面もあったが、逆にそれが観客を沸きあがらせた。








その様子を見ていた岩野は一人つぶやく。

「それでいいっス成海ちゃん。もっとガンガン攻めて下さいっス。軽トラはその名前と見た目でよくバカにされるっス、だけど300㎏以上の荷物を積んで、悪路を走るように設計された車体・足回り・ステアリング性能は、頑丈そのものっス。それはスポーツカーの設計理念にも近いんス。しかも DA62T は、他の軽トラより軽く造られていて、エンジンを始めとして、あらゆる流用可能パーツが多いんス、ちょっとした工夫で軽トラは化けるんス。オフロードの戦闘機と呼ばれるジムニーにも、引けを取らないくらいになるんス。もっともっと、ガンガンいって下さいっス !! 」




高回転域で、よりカン高い音となった軽トラDA62Tは、泥濘や轍をものともせず走り抜けて行く。まさしく軽いボディーの恩恵だった。
そして裏ストレートのドン詰まりには、きつい25Rのヘアピンが待ち受ける。
目を “カッ” と見開く成海。スピードを乗せたまま、車体を綺麗にスライドさせて行く。そして最後に、緩い丘を乗り越えゴールだった。

ゴール後、電光掲示板に出てきたタイムは1分2秒35だった。現在トップタイムとなる。


     



11


「ガガーー」 「あの軽トラ、マジですごいね!大丈夫?ミホ」
 
エリが無線で話しかけてきた。






「うん。ほんとすごいね。初出場なのに、ダークホスもいいとこだね」
「そうだね。でも気持ち切り替えて、集中してね ! 」

大丈夫。まかせておいて。口には出さなかったが、心の中でそう呟いた。そのあとは、スタートフラッグしか見えなかった。




緊張の『スタート』。

アクセルを踏み込んだ瞬間、非常に心地よいヨシムラのエキゾーストノートが、車内に鳴り響いた。スピードを乗せたまま、直ドリで第1コーナーへ進入した。これが私の真骨頂だ。次々と目の前に現れるコーナーを、すべてアクセル全開で駆け抜けた。片輪が浮こうが、フロントが流れようが関係ない。全部コントロールしきってやる。




「負けたくない」 それがすべてだ。わたしは今まで、周りに流されるように生きてきた。それで酷く困ったこともなかったし、迷惑もかけてなかったと思う。それに、人に合わせていると、引っ張ってもらえるから、楽でもあった。だけど、そんな私が見つけた、唯一、誰にも負けたくない事。それがクルマだ。「世の中には、自分より速い人がいる」とか、「上手い人はゴマンといる」とか、そんな綺麗事なんか聞きたくない。ダメダメだった私が見つけた、心からハマれる最高の遊び。




「ラストォーー」

私は最後の丘で、余計なくらい派手なジャンプを敢行した。










そして電光掲示板に出たタイムは、1分2秒57。軽トラには僅かに届かず、現在2位のタイムだった。
ゴール後、私はヘルメットを脱ぎ、大きく息を吐いた。




エリが駆け寄ってくる。

「ミホッ !いきなり軽トラのタイムに並んじゃったよ。僅かに届いて無いけど、1本目でこれは上出来」






エリは妙に興奮していた。

う~ん、でも途中何箇所かミスっちゃたんだよね~。2本目はもう少しタイム削れると思うよ」

「うん。うん。このままイッちゃおう !! 」

私はにっこりと笑った。




「あとね、さっきタカ社長に聞いたんだけど、やっぱりあの軽トラのチームって、只者じゃないんだって」




だよね。そんな気はしてた。

「なんか、タカ社長がバイクのレースをやってた時は、一度も勝ったことがなかったって言ってたよ」

「へぇ~。タカ社長ってバイクに乗ってたんだ」

「そう。オフロードバイクね。足を怪我してから辞めちゃったみたいだけど」

なんだか意外だった。










その後、次々と参加車両が出走し、ベクター・グライドの3台、#13パジェロミニが、無駄の無い走りで淡々とタイムを削り、1分2秒10でゴール。続く#14も派手さは無いものの、1分2秒03でゴール。大トリ#15のジムニー(JA11)はチームリーダーのようで、彼はなんとミホと同様、派手な走りで観客を魅了する。ゴールもまた、ミホ以上に飛距離のある大ジャンプを敢行し、1分1秒33の好タイムをマークする。

結果、ジムニー&軽クラス、フラットダート一本目の順位は、ベクター・グライドの3台が1、2、3位となり、Garage SANTANA成海が4位で、Traffic Eagleミホが5位だった。




この結果は、まったくをもって、心中穏やかでは無かった。

「エリ…」

「なに?」

「2本目見ててね、全部ひっくり返すから」

「そう」




含み笑いで顔を見合わせる。

「ふふふふふ、へへへへへへへ」





そして私達は、これでもかってくらい、不気味に笑い、強がってみせた。もちろん、周囲の人たちはいぶかしげに、私達から遠ざかって行ってしまった。










    12

ジムニー&軽クラス、フラットダート二本目。

Garage SANTANA成海は、一本目よりタイムが伸びず、1分3秒03に終わり、一本目の良い方のタイムが採用される。他の連中もコンディションの良かった、一本目のタイムを上回るチームは存在しなかった。

しかし、たった一台だけタイムを縮めた者がいた。それはTraffic Eagleミホである。
一本目は、ほとんどのコーナーを、アクセル全開 “スカンジナビアスタイル” の豪快なドリフトで駆け抜けたのだが、二本目はスピードの乗るコーナーだけ、慣性ドリフトを使う。残りは轍を読み、タイヤを引っかけるように曲がったり、外に流れるタイヤのストッパーに使うなど、轍を最大限利用しコーナーリングした。それから最後の大ジャンプは、誰よりド派手に決め、ゴールしたのだ。

そして1分1秒02という、驚異のタイムをマークし、トップに踊り出た。そこには満足げな表情を浮かべる、ミホの姿があった。



次はいよいよモーグルである。








    13

モーグルコースのスタート位置では、フラットコースと同様、一台一台の出走となるため、縦一列に車両が並ぶ。







スタート直前には、いきなり傾斜角30度のヒルクライムがあり、岩だらけのガレ場が待ち受けている。
モーグルは出走順に入れ替えがあった。フラットでのタイムが遅い順での出走となったのだ。当然、スーパーラップを叩き出した、Traffic Eagleは最後の出走となる。つまり,順位争いをしている上位5台の“大トリ”となるのである。

Traffic Eagle吉野ことヨッシーは、ラリー用のジェットヘルメットを被ったまま、ジムニーJB23の車内に収まり、アナウンスされてくるタイムをジッと聞いていた。

「#13ベクターグライド3号車、タイムは2分24秒32…。#14ベクターグライド2号車、タイムは2分23秒02…」





そしてチームリーダーである#15の1号車が出走する。

「でたー-!#15ベクターグライド1号車、ぶっちぎりの2分20秒フラットォーーーー !!」




ヨッシーは大きく深呼吸をした。

「大丈夫。大丈夫。練習どおりやれば優勝だ」

一人つぶやき、スタートフラッグを睨んだ。





『スタート』。  









JB23の音が明らかに変わっていた。Traffic Eagleのメカ担当でもあるヨッシーは、この短時間で、トルク重視のセッティングを施したのだ。

ヨッシーは、あっという間にガレ場のヒルクライムを登頂した。







今度は緩やかなダウンヒルだが、そこには無数の廃タイヤがランダムに埋められている。

「おおおお!タイヤが地面から生えてやがるーー」





ボコンボコン、ベコベコ、ギュギュギュ。タイヤが潰れ擦れる音が気持ち悪い。

「おうっ、おうっ、おうっ」


飛び跳ねながら順調にクリアーして行く。次は大岩だらけのロックセクション。ヨッシーは一瞬でラインを読み、即アタックする。

「許せジムニー、このラインじゃないとトップが取れん!」





ヨッシーの言う『このライン』とは、大岩を乗り越え、車幅ぎりぎりの箇所をスリ抜けるという、かなり無茶なものだった。その大岩を乗り越える際、派手にバンパーが破損した。嫌な音が耳に残る。




「もう一丁!」

次に岩と岩の間のスリ抜けでは、フェンダーを潰した。ヨッシーは、自分に苦痛を受けているかのように顔を歪める。





「おっりゃーー!次っ!」

今度は傾斜角40度に達する、壁のようにそそり立つヒルクライムだった。JB23は、咆哮しながら、力強く丘を駆け上がる。







 それから登頂後は、お決まりのごとくダウンヒルなのだが、そこには40度の傾斜にプラスし、不均等に配置されたコブの斜面が待ち受ける。

「みんなここで大きくタイムロスしているはず。だけど俺には秘策があるんだ!」







その時、ヨッシーが思い描いていたイメージは、スキーのモーグルプレーヤーが、斜面のコブを板で叩くように滑るさまだった。







そしてそのイメージと、目の前に広がる光景をリンクさせ、アタックに入る。

「おおっりゃーーー!」




JB23が飛ぶ。コブの斜面へ着地、それから一気に向きを変え、更に飛ぶ。見たことも聞いたことも無い、とんでもないドライビングだ。それは正しく “スキーのモーグル” と同様の動きだった。
右へ左へ飛び、途中転倒しそうになりながらも、なんとか全てのコブをクリアーする。

そして最後のヘアピンを、綺麗なドリフトで駆け抜け、無事にゴールした。















    14


戦士達に安堵をもたらす、トワイライト。表彰台の前に、観客及び出場者達が集まっている。







そこへ、ドンッ!っと貼り出された順位表には 『4位Traffic Eagle』 の文字が…。
そう、結果は4位に終わった。

結局、このレースはフラットダートとモーグルの、タイム合計が勝敗を分ける。つまり、ヨッシーはやらかしてしまっていた。上位争いの中では、最後のタイムだったのである。
  


1位、#15ベクター・グライド1号車

2位、#14ベクター・グライド2号車

3位、#10 Garage SANTANA軽虎1號

4位、#11 Traffic Eagle

   以下省略




それを見たTraffic Eagleチーム員は、お笑い番組に出ているタレントのように、ズッコケていた。それにヨッシーは、肩を落とし、あからさまな落ち込みを見せている。彼の回りだけ暗雲が立ち込めているようだった。











「ヨッシー…手前ぇ…やっちまったなぁ…」

タカ社長の顔は強張り、唇がヒクヒクと動いていた。





「タカ社長、もういいじゃないですか」

ミホがなだめた。

「おう、端野ミホ、お前はよくやった。フラットダートのレコードと、個人MVPまでもぎ獲ったからな。しかし、よぉ~しぃ~のぉ~!!」




 ヨッシーの弁解。

「いや、その、タカ社長…違うんですよ、コレはソノアノ…」

「ああ~~ん !?」

「つまり…。ごめんなさぁーーーい ! 」

ヨッシーは一目散に逃げ出した。




「あっ ! 手前ぇ、待ちやがれ !! 」

タカ社長もダッシュで追いかける。が、この時、タカ社長の走り方は、少々ぎこちなく見えた。




「そういえばタカ社長、足に怪我したってエリが言ってたなぁ」

ミホはそんな事を考えていた。





ゴロゴロと遠くで雷の音が聞こえた。秋の終わりも近い。じきに嵐がきて、紅葉は全て散り、またこの地は白銀の世界に包まれる。

「以前は冬って楽しかったんだけどなぁ…今は大嫌い。ほんと嫌な季節がきちゃうなぁ…」




ミホのその言葉は、明らかにホワイト・グレネードへの嫌悪感を指していた。あの恐怖が蘇る。

また遠くで雷の音が聞こえた。







つづく
2018年07月01日 イイね!

Def busta 第三章 ~legacy~ 第6話

Def busta 第三章 ~legacy~ 第6話
始めたからには、きっちりケリをつけろってね

再開します。

コメ等は不要です。。 お好きな方だけ楽しんでいって下さい。。。










          12


俺は事のあらましを岩野に話した。最初は “やいのやいの” 喚いていたが、やはりコイツもSANTANA だ。スティール・ランナーやレースの事になると、とたんに目の色が変わった。




「さて、どうしたもんスかね?あのCB750Fのタイム」








そうなのだ。今しがた調べた、道央サーキットのホームページに載っていた、修二(スティール・ランナー)のベストタイムは、1分28秒台 という驚異的なものだった。
ちなみに類似コースである、TSWクラブマンコースでの、俺のベストタイムは、それから4秒も遅い 1分32秒台 だ。 道央サーキットは、各コーナーに様々なバンクが設けられ、TSWより 2秒 ほど速いタイム差があると言われているが、それを差し引いても、更に2秒も差があるなんてな…。まいったね…。




「なんでっスかね?同じ年代のバイクだし、プロの職業ライダーでもないから、乗り手の差もそんなに違わないと思うんスけど…」

「いや、そんだけ修二がとんでもねぇーって事じゃねーの」











自分でそう言いつつ、溜息が漏れる。
それに岩野も唸ったまま、何も言わなくなってしまった。
肝心な時に黙る、使えない奴だな。まったく。





そんな時だった。

「ふぉーふぉっふぉっふぉ。困っておるようじゃな下村くん」




聞き覚えのある、独特な笑い声が、入口の方から聞こえてきた。
その瞬間、あの姿が脳裏に蘇る。サンタクロースの様なその風貌。




「じっちゃん !? 堀井のじっちゃんじゃねーか !!」




KAMUI社 の妖怪ジジイ、堀井士郎だ。

「なんだよじっちゃん、突然だなぁ。こっち来てたんなら、連絡くらいくれよ」




それは本当に嬉しい再開だった。あの『KAMUI零』の事件以来だ。俺達は大切なものを護るため、文字通り共闘し、命懸けで戦ったんだ。戦友に再開する気持ちって、ちょうどこんなのかもしれないな。腹の底から嬉しさが込み上げてきて、いてもたってもいられなくなる。




「ふぉふぉふぉ。相変わらず、絆創膏だらけの顔をしておるのう」




それから俺達は、ハグで喜びを分かち合った。本当に嬉しい気持ちの表れだ。




「どうしたんだよ急に?」

白銀の髭に覆われた顔の堀井は、目元に皺を寄せ、嬉しそうな表情で、何度も黙って頷き、俺をショップの外へ促した。

「なんだよ?じっちゃん。なんか言えよ…って、あ…」




最盛期を過ぎた灼熱の太陽は、まだ厳しい西日を、地上に落とし込んでいた。が、俺の視線の先、その一角だけは明らかに雰囲気が違っていた。そこには、穏やかで清浄な空気感があったんだ。
その中に静かに佇む、一人の女性の姿。涼やかな白いパンツスーツに、風になびく栗色の髪、優しい眼差しと、透けるように白い肌。そう、そこに居たのはレイだった。2年前とは比べものにならないくらいに洗練された、美しいレイの姿がそこにあった。俺は声を失いレイに見とれてしまった。












相変わらず “はにかんだ” 仕草を見せるレイ。小さな手が伸びてくる。その細くて長い華奢な指先は、俺の顔の傷跡を、絆創膏の上から、優しくそっと撫でてきた。




「レイ…」

言葉が詰まる。もう何を言っていいのか分からない。




「聞いたよ。スティール・ランナー」

「ああ…」

俺は自分の頬の位置にあったレイの手を、優しく包み込むように握りしめた。




「あの修二くんだよね…。彼とレースをするの?」

「ああ…ケリをな…つけなきゃな…」

優しい眼差しのレイ。本当に綺麗になった。




「私…私…」

「し~…」俺は言葉を遮った。




見つめ返してくるレイの瞳は、ゆるやかに潤み柔らかい光を帯びていた。それに白い頬には薄い桜色が射し、上気しているのがよく分かる。俺は自分の節くれた武骨な手が、彼女を傷つけてしまわぬよう、細心の注意を払いながら、絹のような光沢の髪と頬を、そっとひと撫でして、細いウェストをゆっくりと引き寄せた。レイの唇は、まるで熟れた苺の様に、冴えた赤い色で、艶かしく誘惑の世界に誘う。






「もうダメだ…」

俺は、レイの瞳に吸い込まれた。レイの引力に逆らえなくなっていた。
顔を近付け、ふっくらと柔らかなその唇に、俺の唇が触れそうになった瞬間だった。

突然何かが弾ける、耳触りな音と共に、目の前に火花が散り、視界が黒っぽくぼやけた。
くそったれめ…。誰か俺の後頭部を固いもので殴りやがった…。









          13


「喝ぁぁぁーーーつ !! 」

激しく口角泡を飛ばす堀井に、厳しく叱咤された。

「全くお前という奴は(怒) ! 久々の再開と思い黙って見ておれば、いきなりレイ様に何をしてけつかるんじゃぁぁぁーーー !? 」





まいったね。酷く怒ってやがる。だけど、まだ塗料の入っている一斗缶で、人の頭を殴るのはやり過ぎだろ !? しかも角だぞ !!
そんな堀井と俺の様子を見ていたレイは、なんとも楽しそうに笑っていた。はは。ま、いっか。




「とんでもない奴じゃ…ブツブツ…」

「堀井さん。もういいから。それよりアレを早く」

レイの声の音質がとても優しい。荒ぶる堀井は、手懐けられた猛獣のようだ。主人の命に従い、渋々どこかに消えて行った。




「下村くん、頭大丈夫だった?ふふふ。また下村くんの唇を奪えそうだったのになぁ。ざんねんね」

またもや、ふっくらと柔らかなレイの唇が揺れる。ああ、もういいや。誰に見られていても構わねぇ、
今度こそ吸い付いてやる !? などと考えていた時、またジジイが凄い勢いで戻ってきた。




「なんだとーーー貴様ぁーーー !! レイ様の唇を奪っただとぉぉぉーーー !! 」






次には襟首を掴まれ、近付いてきた堀井の口からは、生臭い唾が、俺の顔に大量散布される。
しかし、どんだけ地獄耳なんだ。もうカンベンしてくれ…。




「堀井さん。もういいから、きちんと説明して下さい」

レイの声の音質は優しいが、凛とした響きに変わっていた。




「うう~~む…」

堀井は一つ唸り、説明を始める。

「ふん。まあ、今日のところはこのくらいにしてやるわい」




何が『今日のところは』 だ、このジジイめ。

「儂等はのう、あの事件以来、君を追っておった。どうも、おかしな動きをする連中がおったからのう。大きなお世話だったかもしれんが、そうさせて貰った。あんな事に巻き込んでしまった、責任もあるしのう」




『あんな事』とは、“KAMUI零”の一件だ。権力や利権争い、略奪に暴力etc。まさしく命懸けの戦いだった。

「別に構わねえよ」

『問題無い』 そんな感じでニヒルに答えてやったが、内心は少々嬉しくもある。
レイは見ていてくれたんだろうか?ずいぶんと活躍しただろ俺。
そんなレイは、相変わらず優しく微笑んでいる。





「色々大変じゃったのう。全てわかっておったよ。そして問題の今回の件じゃ」

「修二のことか?」

「そう。スティール・ランナー。やはり彼奴のバックで、おかしな動きをする者がいる。しかも、そやつが資金提供までして、あのFを仕上げさせたという情報も掴んでおる」

「なに ! ?そうなのか?誰なんだそいつ」

「いや、これ以上は知らない方が良い。だけどな、レイ様を始め儂等は、君に多大なる感謝をしておるのも事実じゃ。だからこそ、君のZ1000Mk2に、少し手を入れさせて貰いたいんじゃ」

「どういう事だ?」

「なに、ただちょっと、KAMUI の技術でそのバイクのフレームを作り直させて貰いたいんじゃ。パイプフレームワークは『零』で散々やってきたからのう、悪いようにはせんよ」

「もう少し詳しく聞かせてくれよ」


俺は堀井の話に食いついた。











          14


「スティール・ランナーのフレームはのう、10数年前、既にクロモリ鋼管で作り直されておったんじゃ。1/100mm 単位で作成されたものでのう。つまり、精巧で強靭かつしなやか。そして非常に軽量に作られておる」




クロモリ鋼管だと !? 耳を疑う。そんなバイクで走っていたのか。なんてことだ。まったく驚く事実だ。

「その当時の情報はの、わかっておるんじゃ。しかし、最近組み直されたというエンジンについては謎なんじゃよ」

「いや、それだけ分かれば充分だ。道理で750のFベースなのに、ダウンチューブのフレームが、取り外し式から一体物に代わってたワケだ」

俺はFの全体像を思い浮かべた。







「それに、この絶望的とも思えるタイム差に納得ができた」

俺の隣で、目を輝かせた岩野が、堀井の話を食い入るように聞いていた。
まったく、借りてきたネコのように大人しくて、気持ちが悪い。




「下村君、こっちも本気で作るぞ。1/100mm 単位なんてもんじゃない。1/1000mm 単位で精度を出す。それに重量も半分以下にする」




本当に驚く事をサラリと言ってくれる。ついつい顔がニヤけちまうぜ。望むところだ。
それから、堀井が通りに向かい、何か合図した時、MBM社のスーパーグレートが一台、Garage SANTANAの駐車場に入ってきた。








「コイツの荷室にはのう、『零』の時に使用しておった、フレーム修正用の機材が積んであるんじゃ。しかもその定盤(台)につかう床は、さっき言ったように、1/1000mm 単位で水平が出せる代物なんじゃよ」

スーパーグレートに乗っていたのは、あの時、一緒に闘った戦友、稲葉、中田、大谷の3人だった。3人は、クルマの荷室を安定させるための作業に取り掛かる。荷室内の操作盤で、アウトリガーを自動で動かし、フレーム修正用の床と定盤を調整して、他の機材のチェックを始めた。
俺は息を飲んだ。あの時、何気なく見ていたコイツには、KAMUIの技術の粋が詰まっていたんだ。その他にも、旋盤にフライス、溶接用の酸素に炭酸ガス。全て必要な物が揃っている。




「まさか、こんななぁ…」

「さあ、下村君、ぼやぼやしとらんで、バイクをバラすぞ!それから一気に冶具を作成し、フレームを作るぞい」




ああ。気合いが入った。

おう。じっちゃん頼むよ。それにレイ。ありがとう。本当に心から礼を言うよ」

「ううん。お礼を言うのは私達の方だよ。あの時、下村君に出会わなかったら、きっと今の私達はない。コレはKAMUI全員からの贈り物なんだよ」




レイは優しい眼差しで見つめ返してくる。

「ありがとうレイ。本当にありがとう」

俺はレイの両手を取って、心からお礼を言った。そしてこの、言葉になんか言い表せないほどの、感謝と感激の気持ちが、レイに100%伝わってくれることを切に願った。




「ん、ん、ん、うん !! いつまで手を握っておるんじゃ下村くん」


全く、うるせえジジイだ。でも今は言う事を聞いておこう。それにしても、さっきから岩野が、大人しすぎるな。いつもは、グダグダとやかましいくらい、理由を問いただしてくるのに、今回は、すっかりとKAMUIの雰囲気に圧倒されちまったようだ。いつもこうだったら良いのだが。まあ、それは無理な相談ってもんだな。教育ママってのは、煩いと相場が決まっているもんなんだよな(笑)

そのとき堀井が、俺とレイの間に割って入ってきて、握り合っていた手を、無理やり引き離しやがった。それから凄い顔で睨んでくる。
いや、だから…。頼むからもうカンベンしてくれ。







          15


夢のフレームワーク。怒涛の3日間の始まりだった。その作業は、ほぼ不眠不休で実施された。
その様子は、まるでレースウィークに突入した、ワークスチームの動きそのものだった。一人ひとりが無駄なく動き、全ての作業が流れる水のごとく、次々と進んでいく。Mk2をあっという間にバラしたかと思うと、フレームはステム付近の車体番号が刻まれた部分を残し、治具の上で全て新設された。
そして3日目。仕上がったそのフレームを、思わず手に取り持ち上げると、それは拍子抜けするほどに軽く、その見た目とは裏腹に、片手で簡単に持ち上がってしまうその事実に、ただただ言葉を失ってしまった。






しかもだ、形は似て非なる物。元のフレームをそのままコピーしたわけじゃなく、Z系と呼ばれるバイクのウィークポイント、つまり、強化すべきところはキッチリ強化し、広げるべきところ、狭めるべきところ等々、全て見直され、理詰めによる計算のもと、ほぼ新設計といってもいいくらいの、素晴らしい完成度を誇っていた。











          16


本当に夢のような日々だった。全ての作業が終わった、3日目の夜。完成したMk2を目の前に、KAMUI社の稲葉、中田、大谷。そんな懐かしい顔ぶれ達と、プロの仕事が出来たことに、大きな満足感を得ていた。
それに飯休憩の時には、『零』 の思い出話しなんかをして盛り上がり、レイや堀井とも心の底から笑い合えた。いや、違うな。俺は、またレイと一緒に居られた事に、心から感謝していたんだ。








          17


「レイありがとな」

撤収にかかっていたレイとKAMUIの面々に、俺は本当に心の底から、その言葉を贈った。そして見送ろうとした時だった。なんだかレイに元気が無いと思っていたが、凄く寂しそうな表情を残し、何も言わず、その場から去ってしまった。何だろう?ついさっきまであんなに笑っていたのに。妙に心に引っ掛かる、後味の悪さがある。




『何だろう?』もう一度そう思った時、堀井に後ろから声をかけられた。


「下村くん。すまんが、ここまでじゃ。それにレイ様の事は、今日限りで忘れてくれ」

「はあ?急に何言いだすんだよ、じっちゃん !? 」

「すまん下村君。後生じゃ。これ以上、レイ様を追わんでくれ。頼む。レイ様だって…」


そう言い残しKAMUI は去って行った。




ああ、そうだ。この時は深く考えていなかったんだ。レイがどういう思いで、この3日間を過ごしていたのかなんてな。俺は、せいぜい当分の間、会えなくなるのが辛い。そんな程度にしか考えていなかったんだ。

ほんと大バカな俺…。









つづく
Posted at 2018/07/01 19:06:03 | コメント(3) | トラックバック(0) | Def busta≪デフバスタ≫ | タイアップ企画用

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「Def busta 第三章 ~legacy~ 第9話 http://cvw.jp/b/381698/41868049/
何シテル?   08/23 20:40
☆ドシロウトの作家モドキです。誰か拾って下さいw   ハンティングしながらマンガの原作や小説なんかを書いています   目指すはヘミングウェイ! ☆『R...
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