昨年秋、日産を代表するビッグネームが姿を消しましたね。
その名は、ブルーバード。
たまたま自宅の書棚を整理していたら、こんなパンフレットが出てきました。
「BLUEBIRD HISTORY BOOK」
1995年末、フルモデルチェンジを1ヶ月後に控えたU14型のティーザー用販促パンフレットとしてディーラーで配布されていたのを当時自分が貰ってきたものですが、その内容がとても興味深かったのでご紹介します。
1959年(昭和34年)8月。
青い鳥という名の、ひとつの神話が走り始めた。
多くの人々の、夢と希望と幸福を乗せて。
「経済力が充実している好景気の日本にふさわしい、本格的な乗用車を作りたい。これまで、乗用車・トラックの共用型のクルマが主流を占めていた日本に、本格的な乗用車時代の幕開けを告げたい。」
そんな考えのもと、試行錯誤と何台もの試作車を重ね、1台の名車が産声を上げました。
チルチルとミチルがクリスマスイブの夢の中で妖精に伴われて幸福の使い『青い鳥』を求めて旅をするという、子供の頃に聞いたメーテルリンクの童話をヒントに、幸福をもたらすクルマとして当時の日産自動車社長であった川又克二が命名した幸福の青い鳥「ブルーバード」。
車という機械的な商品でありながら、限りなく情緒的な香りの漂うネーミングで世に出た1台のクルマこそ、これから訪れるマイカー時代を牽引するばかりか、やがて世界に羽ばたく多くの日本車の先駆けともいえる、画期的な乗用車でした。
それまでのダットサンから完全に脱却した先進のスタイル。
当時のクルマとは一線を画する最先端の足まわり。
人々が夢を抱き、希望に向かって歩き始めた時代に、新たな憧れと喜びを与えてくれた名車「ブルーバード」。
まさにチルチルとミチルを幸福に導いた『青い鳥』と同じように、クルマに夢を抱く人々を幸福へと導く、時代の『青い鳥』だったのです。
1959年(昭和34年)8月。
晴れ上がった空から真夏の太陽が照りつける日に、記念すべき「ブルーバード」の第1号車、310型はデビューしました。
家族連れ、若いカップル、学生のグループ。
数えることも出来ないほどの人々が、「ブルーバード」という夢に触れようと、発表会場を訪れました。
それから36年を経た今日も、「ブルーバード」は多くの人に愛され、変わらぬ親しみで迎えられています。
大きく変貌した日本の自動車市場の中にありながら、変わらぬ輝きを放ち続けています。
これまでも「ブルーバード」。
これからも「ブルーバード」。
「ブルーバード」にお乗りいただいたオーナーの皆様に応えるためにも。
そして、次の世代の人々に夢と幸福と感動を届けていくためにも。
「ブルーバード」は、変わらぬ気持ちで時代を走り続けます。
『みんなブルーバードが好きだった。』
歴史を築く。
それは、決して容易なことではありません。
特に、現代社会という生存競争の激しい世界において、ひとつの歴史を築き、その価値を維持し続けることは、困難の極みに他なりません。
ブルーバードは、時代が複雑に移り変わり、人々や社会が多様化していく中で、確かな歴史と価値観を築いてきた数少ない日本車です。
幾多ものクルマが時代に流され、忘れ去られていく中で、ブルーバードは多くの人々に親しまれ、愛され続けてきました。
時代の先端を行く技術の投入。
斬新なスタイリングの提示。
新しいライフスタイルの提案。
常に時代を先取りして、人々の求めるブルーバードであり続けたことは、もちろん歴史を築いてきたことの大きな要因です。
しかし、ブルーバードがいつの時代も変わらずに愛されてきた理由は、決してそれだけではありません。
多くの人々がブルーバードに乗り、その中でブルーバードだけの良さを肌で感じ、次の世代に伝えてきてくれたからこそ、ブルーバードの今日があるのだと思います。
「人の気持ちに近いクルマ」「体温の感じられるクルマ」「一緒に暮らしたくなるクルマ」
どの時代のブルーバードもその内側には、目に見えない、人への優しさを備えていました。
ただ移動するだけの道具としてではなく、その人の生活に溶け込むような存在であることを、いつも目指して開発されてきました。
だからこそ、人は思ったのかもしれません。
「次もブルーバードに乗りたい」「あの人をブルーバードに乗せたい」と。
決して飾らずに、かといって上質さは失わずに、誰もが期待以上の満足を実感できるクルマであったからこそ生まれた、ブルーバードという歴史。
ブルーバードが好きだった、たくさんの人の気持ちに応え続けるためにも、ブルーバードはいつまでも、ブルーバードであり続けます。
次のブルーバードは、どんな幸せを私たちに届けてくれるのだろう。
・・・・・
あれから17年、「青い鳥」ブルーバードは「シルフィ」という名の妖精に今後を託し、その使命を終えました。
文中にもあるように、50年あまりの長い歴史を築いてきたブルーバードも、現代社会の時代の流れには勝てなかったのかもしれません。
自分にとっても、ブルーバードは思い出深い車種のひとつであります。
大好きだった祖父が乗っていた510と910。
学生の頃、先輩のU12で行った真夜中のドライブ。
バイトしていたスタンドでいつも洗車してくれていたU14の旦那さん。
ブルーバードと共にした思い出のひとつひとつが、今でも鮮明によみがえってきます。
自動車メーカーも商売である以上、旧来のものにとらわれず、その時代に合わせた魅力的な商品を開発していく必要がありますよね。
決して後継車であるシルフィを否定するわけではありませんが、やっぱり、
「ブルーバードが好きだ。」
と声を大にして言いたいのもまた事実。
ブルーバードが運んできた幸福の数々を無駄にすることなく、シルフィも脈々と受け継いでくれることを切に願います。
皆さんは名車ブルーバードとの思い出、どんなエピソードがあるでしょうか?